絵 希少な宝を手に入れた。
それもそうだ、この世に二つとないのだから。
元親はにんまりと笑うと、褥に横たわるそれに触れた。青褪めた竜の頬はさらりとして、それでいて指先に吸い付くようだった。
きっかけは一枚の絵だった。
布教のため四国に訪れた宣教師が、何枚もの絵を携えていた。
元より新しい物、見たこともない物に興味を示す質の元親は、日ノ本にはない筆使いや技法の絵に食いついた。まるで目の前に実在するかのような緻密な描写の数々。聖人を描いたという、その中にそれはあった。
これも聖人なのかと問うと、宣教師はたどたどしい言葉で、間違ってまぎれたものだ、それは北の国の殿様の肖像画だと説明した。北の国を布教で回った際に、直に殿様に会うことができ、その余りの美しさに頼み込んで描かせて貰ったのだと云う。
なるほど、と元親は頷いた。
この絵の通りであるとすれば、確かに美しいのであろう。
何かに凭れて右を見ている横顔。
その目は、恐らく短くはなかっただろう描画の時間に飽いたのか、眠たげに細められている。
濃紺の襟元から覗く鎖骨は、絵師が手を抜いて色をつけなかったのかと疑いたくなるほどに白い。
その絵を元親は買い取った。
初めは渋った宣教師も、背に腹は変えられないのか、最後には頷いた。
なぜ大金を払ってまで、その絵を手に入れたのか、その時の元親は分かっていなかった。衝動的、と云うよりほかなかった。
だが、来る日も来る日も、その絵を眺め続けていて、ふと思った。
欲しい。
今度は絵ではなく、命の宿った生身のその人が。
逡巡する必要はなかった。
海賊なのだ。欲しいと思えば獲りに行く。
予期せぬ西国の急襲に、伊達軍は奮闘したものの敗れた。
そして、元親は欲しかったものを手に入れた。
青褪めたまま、死んだように眠る竜の頬を、元親は慈しむように撫でた。
竜に怪我はない。
心は傷を負ったかも知れないが、そんなことは元親にはどうでも良かった。美しい身体に傷がなければ、それで良い。
そのために竜の部下たちをひとりずつ嬲りものにした。
毎日、陣営に贈られて来る無惨な姿の部下を、どんな顔をして竜が見ていたのか分からないのが残念だった。
だが、ともかくも竜は堕ちた。
そして今、腕の中にいる。
一生、飼ってやろう。
これからのことを考えるだに楽しくて、元親は声を立てて笑った。
END