残響 お前が好きだ、と囁く男の髪を優しく撫でた。己の手は人を殺める為にあるが、この男に優しく触れる分には罪には問われないように思う。
男は髪を梳かれながら、穏やかに笑う。そうして微笑みながら思い出を語る。『自分たち』の思い出を。
その思い出にじっと耳を澄ませる。あの時お前は骨が折れるくらい強く俺を抱きしめた――そう云ってその時の痛みを思い出し恍惚とした表情を浮かべる男に頷いてやる。髪を梳いていた手で白い頬をなぞれば、同じく白い指先がそれを捉えて手甲に唇を押し当てる。数多の血が染み付いたそれに口付けさせるのは申し訳ない気がした。
そうしてまた、お前が好きだ、と男は囁く。口付けながらそう囁いて、温かい涙で熱のない手甲を濡らす。
お前が好きだ、佐助――囁き続ける男の唇を、唇でもって塞いだ。
重ね合わせただけのそこから、男の囁きが肌を伝って染み込む。お前が好きなんだ、佐助。好きだ。
その名は自分のものではないのだと――云えない代わりに、人を殺める為にしか存在しない手で、心を殺した男をその優しい思い出ごと掻き抱いた。
END