えみで歪んだ表情に


「結婚することになったんだ」
「そうか、おめでとう」
 ある日、親友が唐突に結婚すると言い出した。咄嗟に祝福の言葉が出るなんて、俺も中々役者だな、と上の空で思った。
「式は多分、秋になると思う」
「今年のか? 随分と急じゃねえか」
「うん、その、彼女がお目出度でね。お腹が目立つ前に式を上げたいって」
「ああ……じゃあ二重に“おめでとう”だな」
「ありがとう。式には来てくれるでしょ?」
 耳鳴りがする。
 胃が重い、吐きそうだ。
「悪い――その頃、日本にいない」
「え……?」
「異動で、ロスに転勤なんだ。今日はその話をしようと思って」
 嘘。
 本当は愚かな告白をしようと思ってた。
 だけど、もう良いんだ、おかげで吹っ切れた。
 ロス行きの話も実際昨日云われたことだ、断ろうと思ってたけど、――もう良い。どのみち今日は、これ以上お前の傍にはいられないということを自覚するための日だったんだな。
「あ、ごめん、それなのに俺勝手にべらべらと」
「いや、いいよ。おめでとう。式には行けないと思うけど、祝電は打たせてもらうから」
「う、ん……」
「じゃあ、悪いけど、異動の件でこれからまた社に戻らねえといけねえんだ」
「伊達ちゃ――」
「じゃあな、佐助。お幸せに」
 俺は今持てるすべてで、笑ってみせた。


 さようなら。
 お前を、愛してた。
 もう二度と会わない。










「“じゃあな”?」
 いつものように“See you”とは云わないのか。
 アンタはまた、“じゃあな”なんて云うのか。
 また、繰り返すのか。
 またそうやって自分だけ満足して俺を置いて行くのか。
 またそうやって無理に笑って、ひとりで泣くのか。
「馬鹿だ、アンタ……」


 俺を憶えていなかったのは、アンタの方じゃないか!


二度も貴方の遺言を
聞く気はない


END
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