クリアに映る世界


 彼の目はいつもクリアに澄んでいて、とても美しいと常々思っていたが。
「伊達ちゃんて時々そんな目するよね」
 さっきまで読んでいた本から顔を上げて遠くを見ていた伊達ちゃんが、俺の声に振り向いた。
「何?」
「いや、だから、さっきみたいに時々遠くを見るような目をするじゃない。何か悩み事でもなるのかなーと思って」
 伊達ちゃんは云われた言葉が理解出来ないかのように小首を傾げた。
 ややあってから、ああ、と頷く。
「そんな遠くねえよ」
「え?」
「だって、すぐそこだ」
 そう云って伊達ちゃんが指差したのは、何の変哲もない部屋の壁だった。
「……えーと…………、それって――……」
「聞かない方が良いんじゃね?」
「…………だよね」
 なんかもう手遅れなんですけど。

(君の目は世界をクリアに見通している)

END
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