警鐘「好きです」
何のてらいもなく云われた台詞に、虎徹はすぐさま言い返せなかった。ただまじまじとバーナビーの目を凝視するだけで。つまり聞こえなかったフリをすることも、茶化すことも、冗談にしてしまうことも出来なかった。しまったと思った時には、もう聞き流せる雰囲気ではなくなっていた。
気まずい沈黙が流れる。そう感じているのは自分だけかもしれないと虎徹は思った。バーナビーは臆することなく、真っ直ぐに虎徹を見据える。
「……なんで?」
ようやく虎徹が言い返せたのは、それだけだった。
喉が渇く。
場所柄のせいもあるだろう。先程まで雑誌のインタビューに使っていたのは、虎徹が自腹では決して利用することのない高級ホテルのスィートルームだ。しかもベッドルーム。下手なワンルームの部屋よりも広い間取りのせいで圧迫感は感じないものの、それでもベッドルームであることに変わりはない。
ここで危機感を抱くのは自意識過剰だし、何よりバーナビーに対して失礼だとは思う。しかし今、虎徹が感じているのは紛れもない危機感だった。
そんなものをいだいてしまうのは、きっと場所だけのせいではない。
ベッドに座っている自分。リビングルームへ続くドアの前に立つバーナビー。
まるで狙っていたかのようなポジショニングとタイミング。いや、しかし滅多に訪れる機会のないホテルに、ベッドルームも見たいと取材後もはしゃいだのは自分だったはず。じゃあ偶然なんだろうか。このタイミングも、場所も。燃えるように熱の籠もったバーナビーの目も。
傍目にはぼんやりと考えを巡らせているように見える虎徹に対し、バーナビーは変わらずドアに背を向けたまま、後ろ手に鍵を掛けた。
「薄々分かってたんでしょう、オジサン。だって最近、僕を避けてましたもんね」
ああ、そうだった。俺は確かに――
虎徹は錯綜する思考に囚われながら、歩み寄るバーナビーの視線から目を離せないでいた。
バーナビーの手が触れる寸前。虎徹が感じたのは危機感と、ざわめく期待だった。
END