穏やかな時間/40000Hit記念(亜希様リクエスト)


愛犬が繋ぐ絆の続編です※
※若干原作とは時期がずれています※





箱学に入って、初めての夏休み。
荒北くんと私は実家が近いこともあって、お盆は揃って帰省することにした。

「なァ、あとどんくれェ?」
「んー、30分くらいかな。もう少し寝る?」
「ン―。」

昨日は遅くまでゲームをしていたらしく、荒北くんは寝不足だと言って電車の中ではずっとこんな感じだ。
それでも隣に座っていられることが嬉しくて、私は幸せだった。
暫くして荒北くんの最寄駅につき、降りていく荒北くんを見送った。

「あとで電話すっからァ。家ついたら連絡しろよ。」
「うん、わかった。気を付けてね?」
「おう。寄り道すんじゃねェぞ。」

ニッと笑ったその顔は、暑い太陽に照らされてキラキラと輝いて見える。
お互いの顔が見えなくなるまで、ホームで見送ってくれた。
これではどちらが見送っているのかわからないな、なんて思うとつい笑ってしまう。
荒北くんと一緒だと、小さなことがとても幸せに感じられる。
それがとても嬉しい。
荒北くんと分かれてから40分、私はやっと自分の家に辿りついた。
玄関を開けると部屋の奥からお母さんより先にジョルジが勢いよく駆けてきて、玄関でピシッとお座りをした。

「ただいま、ジョルジ。」
「おかえり雛美。暑かったでしょう?シャワー浴びる?」
「ん、ただいま!シャワー浴びるけどその前に電話だけするね。」
「あとでジョルジの散歩も行ってくれる?」
「もちろん!楽しみにしてたんだよー。いっぱい散歩しようね!」

そう声をかけると、ジョルジは尻尾が千切れそうなほどブンブンと振った。
相変わらずしつけ教室の成果が出ているのか、鳴いたり噛んだりはしないらしい。
それでも全身で喜びを表現してくれるジョルジが可愛くて仕方がない。

「ねぇお母さん、ジョルジ部屋に連れてってもいい?」
「いいわよ。でもドアは開けておいてあげてね、トイレとか我慢させちゃうと可哀そうだから。」
「はーい。」

私はジョルジの頭を撫でて、部屋に連れて行った。
私がいない間もお母さんが掃除をしていてくれたらしく、部屋はとても綺麗に片付いていた。
ジョルジ用のクッションも干してあったのか、ふかふかで太陽の香りがする。
そのクッションの隣に座ると、ジョルジもクッションの上に座った。
私の膝に頭を乗せながら気持ちよさそうに目を閉じる姿が、荒北くんと少し被る。

「あっ、そうだった。」

私は慌ててスマホを取り出して電話をかけた。
数コールしてから出た声は少し不機嫌そうで、遅れたことを怒っているのかもしれない。

「よォ。」
「遅くなってごめんね、ただいま。」
「おかえりィ。何してた訳ェ?」
「外暑くって……コンビニ寄ってアイス食べてた……。」
「ちゃんと真っ直ぐ帰れっつったろーが!」
「ごめんって。それよりさ、夕方何か用事ある?」
「アァ?特に何にもねェけど。」
「じゃぁさ、どっかで待ち合わせして一緒に散歩しようよ。私もアキチャンに会いたい!」
「それってジョルジもくんのォ?」
「連れていかない方がいい?」
「ボディガードに連れてくればァ?」

電話の向こうでクツクツと笑う声が聞こえる。
荒北くんがジョルジのこと気になってるの、ちゃんとわかってるんだからね?
私は夕方の涼しくなってくるだろう時間に、荒北くんと待ち合わせることにした。
荒北くんの家は妹さんがいるとかで、向こう側はずいぶんにぎやかだ。
せっかくの帰省を邪魔しては悪いと思い、私はシャワーを浴びることを告げて電話を切った。




シャワーを浴びると、体がさっぱりして気分がいい。
涼しい部屋でだらだらと過ごしていると、ジョルジがおもちゃを持ってやってきた。
私の手の上にポトリとそれを落とし、嬉しそうにブンブンとしっぽを振っている。

「綱引きしたいの?」

持ってきたのは短いロープのおもちゃで、私が声をかけるとジョルジは片方を咥えた。
もう片方を持つと、勢いよく引っ張られて前のめりに転んでしまった。

「うあっ。」

前よりも力が強くなったのか、それとも私がひ弱なだけなのか。
ジョルジは床に這いつくばっている私を心配そうに覗きこんでいる。

「ごめんね、大丈夫だよ。もう一回、今度は本気出すから!」

そう声をかけておもちゃを手にすると、ジョルジもまた片方を咥えた。
今度はかなり力を入れて引いたはずなのに、全然敵わない。
そんなやり取りを見ていたお母さんがクスクスと笑った。

「お父さんでも負けることがあるくらいだもの。雛美では無理よ。」
「えー……あ、ねぇ。高校生の男の子なら勝てると思う?」
「え?うーん、どうかしらね。どうして?」
「夕方から散歩ついでに同じ高校の子と会うんだ。地元近くてさ、お互い犬飼ってるから遊ぼうかって。」
「そうなの。あまり遅くならないようにね。」

”彼氏”というにはまだ気恥ずかしくてそう誤魔化したけど、お母さんにはバレてしまっている気がする。
何だか楽しそうな顔に変わっていたし……。
深く聞かれなかっただけマシだと思おう。
私は暫くジョルジと遊んでから、散歩に出かけた。





夕方になると日差しも少し和らぎ、少し風も出てきた。
散歩日和というほどではないにしろ、これなら何とか出かけられそうだ。
”散歩に行こうか”そう声をかけると、ジョルジはリードを咥えて駆けてきた。
嬉しそうに尻尾を振るジョルジをなんとかなだめてリードを付けると、私たちは外へと踏み出した。
ジョルジと歩く道はいつもより楽しくて足取りも軽い。
ブンブンと振り回される尻尾は時折私の足にぶつかり、痛いほどだ。
それでもそれがジョルジの嬉しさを示すメーターなのだと思えば気にならない。
そうして暫く歩くと待ち合わせ場所についた。
いつもより早足で歩いてしまっていたのか、予定の時間より少し早くついてしまったようだ。
どうしたものかとスマホを開けば、足元に見覚えのあるパピヨンが居るのに気付いた。
顔を上げるとそこには荒北くんがニッと笑って立っていた。

「よォ。」
「えへへ、さっきぶりだね。」
「おう。」

私はしゃがみこみ、アキチャンに挨拶をする。
荒北くんも同じようにジョルジに挨拶をしていたけど、その大きさに圧倒されたんだろうか。
少し身を乗り出してしまったジョルジに荒北くんは転ばされてしまった。

「あっ、ごめん!ダメだよジョルジ、ちゃんとお座りして。」
「こいつ、前よりでかくなってねェ?」
「グレートデンは2年くらいかけて成犬になるから、まだ子供なんだよね……。」
「マジかよ……。」

そう言いつつも嫌いではないようで、ちょこちょことジョルジにちょっかいをかけては舐められている。
暫くそうしてじゃれ合った後、私たちはゆっくりと歩き出した。
アキチャンと一緒の荒北くんはいつもより優しい顔をしていて良く笑った。
それが何だかとても幸せで、ふわふわとした不思議な気持ちになる。
いつか私も荒北くんにあんな顔をさせられるだろうか。
そう思うと何だか胸がきゅっと締め付けられるようだった。
荒北くんの勧めで近くの公園へ行くと、そこは小さなドッグランがあるらしい。
私はジョルジを、荒北くんはアキチャンのリードを外すと近くのベンチに腰かけた。
体格差はあるもののじゃれ合う二匹はとても楽しそうで、見ていて微笑ましい。
そんな光景をぼんやり眺めていると、ふっと影が出来た。
驚いてそちらに目を向ければ、荒北くんが私を覆うようにもたれかかってきていた。

「眠いの?」
「別にィ。」

そう言いつつもずるずるとずり落ちて行った荒北くんはやがて私の太ももに頭を乗せて目を閉じた。
思いがけず膝枕することになってしまい、私の鼓動はバクバクと煩くなってしまう。
この鼓動が聞こえてしまうんじゃないかとハラハラしつつも、荒北くんの方を見ると薄らと開いた瞳と目が合ってしまった。
何だか恥ずかしくて慌ててジョルジたちの方へ視線を移すと、笑い声が聞こえてきた。

「ハッ、何照れてんのォ?」
「え、いやっ……別に……。」
「顔真っ赤になってんのにィ?」

その言葉に慌てて顔を覆ったけど、その手は荒北くんによってどけられてしまう。
観念したように視線を戻せば、嬉しそうに笑う荒北くんがいた。
その表情はとても穏やかで、夕日に照らされているせいか薄らオレンジに染まって見える。

「なぁ。」
「うん……?」
「俺18になったら免許取るからさァ。」
「うん。」
「もっとでけェドッグラン行こうぜ。」

ニッと笑った荒北くんは、ジョルジたちの方へ視線を移した。
二匹は楽しそうに遊んでいて、見ている私たちも微笑ましい気分にしてくれる。
きっと荒北くんも同じ気持ちなんだろう。
優しく笑うその横顔に、胸がぎゅっと締め付けられた。
”ずっと一緒に居たい”
湧き上がるその想いを口にすることが出来なくて黙ってしまった私を見て、荒北くんはニヤリと笑った。

「離れんじゃねェぞ。」

そう言って私を引き寄せると、触れるだけのキスをした。
慌てて体を逸らせた私を見て荒北くんはクツクツと笑う。

「はっ、離れるわけ、ないよ。」
「だよなァ。」

恥ずかしさで口元を覆った私の手を荒北くんは優しく退けた。
そして私の唇にその指先を当てて笑った。
その穏やかな目は、アキチャンに向けたものと同じものだった。
誰もいない静かな夕暮れ、遠くでジョルジたちの遊ぶ声がする。
幸せな、満たされた時間。


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亜希様より
「愛犬が繋ぐ絆」の続編で、アキチャンとお散歩
ということで、帰省した二人がドッグランへ出かけるお話を書かせて頂きました。
夏に帰省という設定にしたこともあり、日中ではなく夕方〜夜にかけてのお散歩にさせて頂きました。
優しい2人を楽しんで頂けましたら幸いです。


+++++++++++++++
来てくださる全ての方へ
40000Hitありがとうございます!
これからも宜しくお願い致します。


カウンター記念


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