約束



"大きくなったら雛美姉ちゃんと結婚する"
そう言ってた隼人は、気づけばかなりのイケメンに成長していた。
家が近所だったこともあり仲良くしていたけど、それも高校に入るまでの話だ。
部活や遊びで忙しくなった私は、隼人のことなんてこれっぽっちも気にしていなかった。
だから久々に会って驚いた。
元々整った顔立ちをしていたし、どちらかと言えば可愛い方だったはすだ。
それが今はどうだろう。
あどけなさを残しつつも凛々しい顔に、逞しい体。
これでは女の子たちが放っておくわけがない。
そう思って口にした言葉に、思わぬ答えが返ってきた。

「彼女?いないよ。」
「へ?何で。絶対モテるでしょ、あんた。」
「そうでもないよ。」

そう言いながらポケットから何やら取り出して、食べ始めた。
ポロポロと落ちたゴミが胸元についてしまっていて、まるで子供みたいだ。

「もう、ほら汚れてるよ。気をつけなきゃダメでしょ、おばさん困るよ?」

軽く胸元を払ってあげると、隼人はにっこりと笑った。
その笑顔は昔の隼人の面影を残しているくせに、やけにドキドキさせられる。

「な、なによ。」
「いやぁ、こんな気の利く彼女が欲しいなと思ってさ。」
「はっ!?な、何言ってんのよ。もう……。」

本当に、一体何を言ってるんだろう。
隼人なら選び放題でしょ。
わざわざ三つも年上の幼馴染なんて……。
そう思いながらも何だか嬉しくて、顔が熱くなってしまう。
そんな私を見て隼人はクスクスと笑った。

「雛美ちゃんは彼氏いないの?」
「いたこともあるけど、なんかこう……違うんだよねぇ。」
「……どんなやつだったんだ?」

私がそうこぼすと、隼人の目つきが少し変わった。
怒っているような、哀しんでいるような不思議な瞳に私は逆らうことができなかった。

「学校の先輩だったよ。超イケメンってわけじゃないけど、優しそうな。」
「なんで別れたんだ?」
「んー、なんか違うんだよ。優しさが自然じゃないっていうか、無理してるっていうかさ。相手が無理してるのわかると、私も無理しちゃうから何か面倒になっちゃった。」
「……俺となら……」
「ん?」
「俺となら、無理する必要なんてないだろ。」

そう言って隼人は私の手首を掴んだ。
逃げないようにでもしているつもりなんだろうか。
その手に力強さはなく、ただ優しく包み込まれているようだ。
その気遣いが隼人らしくてつい笑いが漏れた。

「またまたー。年上をからかうもんじゃないよ。」
「からかってるつもりなんてないさ。」
「え?」
「小さい時の約束、忘れたのか?」

忘れるわけがない。
あの時私も同じ気持ちだったんだから。
だけど時間は人を変えてしまう。
だからきっと隼人も……そう思っていたのに。
私は年上だから。
特別可愛いわけでも、特別綺麗なわけでもない。
そんな私が隼人となんて……そう思って仕舞い込んだ想いが蓋をあけたように溢れ出した。

「わ、わすれ……ないよぉ……。」

気持ちとともに溢れた涙がボロボロと零れ落ちていく。
それを指で優しくすくうように撫でると、隼人は私を優しく抱きしめてくれた。

「良かった、忘れられちまったかと思ったよ。」
「バカァ……そんなにカッコ良くならなくていいのにっ……。」
「こうでもしねぇと、振り向いてもらえねぇかなって思ってさ。」

"年上の彼氏に負けられねぇからな"そう言った隼人は、無邪気な顔で笑う。
その言葉に、少し引っかかった。

「…彼氏いたの、知ってたの?」
「あぁ。別れたのは初耳だったけどな。」

呆気にとられる私を見て隼人は優しく微笑んだ。
その笑顔が私の中に染み込んで行くように、胸の奥が暖かくなる。
大人びた表情より、この柔らかい表情が大好きだ。
そして、この優しい声も。

「雛美ちゃん、結婚を前提に俺と付き合って欲しい。」
「気が早くない?」
「でもいずれそうなるの、雛美ちゃんもわかってるだろ?」

その言葉に反論なんて出来ない。
だって今までも、これからも。
私の基準は隼人で、それ以上なんてあり得ないから。
イエスと答えた私たちがご近所の噂になるのはこの二日後のことだった。
それすらも嬉しそうに話す隼人に、私は勝てる気がしないよ。



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