人違い




二年付き合った彼氏に振られた。
しかも浮気してたとか、もう次の彼女がいるとか、本当にどうでもいい情報付きだった。
確かに最初ほど、相手を大切に思えなくなってきていたのは自覚している。
だけどそんなのはお互い様だと思ってた。
それがまさか、他の子に手出してるからだなんて思っても見なかった。
ムカつくから泣いてなんかやらないし、未練なんてない。
そう思ってたはずなのに、ファミレスで幼馴染の姿を見かけてつい愚痴ってしまった。
それが人違いだとも知らずに。
後ろ姿は幼馴染の勇樹そっくりで、3日前にあったばかりだったこともあり間違いだなんてこれっぽっちも疑わなかった。

「ちょっと!勇樹じゃん。聞いてよ、私さっき振られてさー。なんかもう他の女……いると、か……」

そこまで言って、相手が振り向いた瞬間言葉を失った。
後ろ姿は勇樹だったのに、振り返ったのは知らない人。
しかも大きなタレ目がちの目にふっくらした唇、どこからどう見てもイケメンだった。
勇樹なんて擦りもしないその姿に立ち尽くす私を見て、彼はクスリと笑った。

「俺は勇樹くんじゃないけど、よかったら話くらい聞こうか?」

声までイケメンだなんてずるすぎる。
ぽーっと熱に浮かされて微動だにできない私の手を引いて、彼は自分のテーブルに座らせてくれた。

「俺は新開隼人。君は?」
「あ、小鳥遊雛美。3回生。」
「3回生?」

私の言葉に目を丸くした隼人くんは、このルックスと色気でまだ高校生だという。
そのことに衝撃を受けつつも、優しいその笑顔に私の心は癒されていった。
話せば話すほど年下とは思えず、思わず甘えたくなってしまう。
そんな私を見透かしたように優しく受け入れてくれる隼人くんは、ゆっくりと話を聞いてくれた。
元彼との出会いから別れまで、話しているうちに涙が溢れてきた。
好きだったのは、私だけだったのかな。
そんな思いが胸を締め付ける。

「私バカだからさぁ、本当全然気づかなくて。……一年近く浮気してたとか、何かもう、ないよねぇ。」
「それは男が悪いだけで、雛美ちゃんは何も悪くないだろ?自分を責めることないさ。」

そう言って頭を撫でてくれる手は大きくて優しくて、暖かい。
それはまるで私の心を溶かして行くように、隼人くんが私に染み込んで行くみたいだった。

「そんなに優しくしちゃだめだよ。」
「えっ。ダメなのか?」
「だって弱ってる時に優しくされたら、女の子は好きになっちゃうから。」

そうして茶化した私を見て、隼人くんはふっと優しい目つきに変わった。
慈しむようなその目に、なんだかドキドキしてしまう。

「弱ってるとこにつけ込むなんて、悪い男だな。俺。」

クスリと笑った隼人くんは、また私の頭を撫でた。
聞き間違いだろうか。
ポカンとする私に、隼人くんはゆっくりと言い聞かせるように言葉を重ねた。

「いいな、と思った子にしかこんなことしないよ。雛美ちゃんから見たら俺なんてガキかもしれないけど。」
「そ、そんなことないよ!隼人くんはすごくカッコいいし優しいし、背も高くて凛々しいし、なんて言うか……悪いところなんてなさそうに見えるよ。」
「ははっ。ありがとう。でもそれはきっと雛美ちゃんだからかな。」

神様、これは夢でしょうか。
振られたと思ったら元彼以上に魅力的な出会いがあるなんて。
脳が追いつかないというか、信じられないというか。

「えと、あの……私、別れたばっかで……。」
「あぁ、聞いたよ。」
「その、すぐ付き合うとかは……。」
「待ってる。」
「えっ?」
「雛美ちゃんが俺を好きになってくれるまで待つから、無理強いなんてしないさ。だから、連絡先だけ教えてくれないか?」

その優しい誘いを断ることなんて出来なかった。
私の電話帳から元彼が消えて、隼人くんが増えた。
この不思議な出会いを、何て呼んだらいいんだろう。
私は隼人くんを好きになる。
そんなのわかってるのに、ジタバタする私を隼人くんは優しく見守ってくれた。
この我慢強い彼には、何一つ勝てる気がしないや。



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