自信の理由/30000Hit記念(凛音様リクエスト)




ルックスのおかげで小さなときから女子から好感をもたれることは多かった。
けど寿一と一緒に自転車をやる方が俺は好きで、いつも断ってばかりいた。
泣き出してしまう子にどう対処していいかわからずに、傷つけてしまったこともある。
それでも高校に入ってからはずいぶんマシになったと思う。
その理由の一つが、俺にも好きな子が出来たからだ。
ハッキリした目鼻立ちにハキハキとした姿が印象的なその子に、俺は玉砕覚悟で告白した。
そして彼女は頬を薄ら染めながら”喜んで”とはにかんだ。
思ってもみなかった返事に俺は浮かれていた。
そうして俺と雛美が付き合い始めてから、一年が過ぎた。




元々校内でも人気があった雛美が、どこかでスカウトされたとかで読者モデルを始めたのが半年のことだ。
それまでは化粧もろくにしたことがなかった雛美だったが、掲載された雑誌を見て驚いた。
そこにはいつも以上に可愛い雛美がいたからだ。
化粧でさらに整えられた顔はもちろん、その表情やスタイルの出る服が雛美の良さを存分に引き出していた。
制服姿だけではわからないそのボディラインに目を奪われた。
そう感じたのは俺だけではなかったらしく、それ以来雛美の教室にはひっきりなしにいろんな奴が訪れている。
女子だけならまだしも、そこに男が混ざっていることに俺は苛立っていた。
”雛美のことなんて何も知らねぇくせに”そんな思いが心をかき乱す。
前に一度、”読者モデルなんてやめちまえよ”と言ってしまったことがある。
その時雛美は悲しそうに笑って、”隼人がそうしてほしいなら考えるよ”と言った。
その表情が胸に刺さって、俺はそれを冗談にした。
きっと雛美は俺が本当に嫌がればやめてしまうんだと感じた。
だけど、俺は雛美からそれを奪って代わりに何を与えられる?
箱学の自転車部は忙しい。IH前はもちろん、終わってからも自転車をやめるつもりはない。
そんな俺が雛美に何をしてやれるって言うんだ。
好きで好きでたまらないのに、自分の手中だけでは収まらない雛美に俺は時々やり場のない憤りを感じていた。




そんなある日、久々に部活が休みだからと雛美は買い物に誘ってくれた。
放課後迎えに行くと雛美はいつものようにいろんな奴に囲まれていた。

「雛美。」

苛立ちを隠しながら出来るだけ優しく名前を呼ぶ。
だけど俺の声は届かないのか、こちらを見ることもしない。
俺はもう一度名前を呼んだ。

「雛美。」

今度はチラリとこちらを見た雛美は、にこりと笑って手を振っている。
それでも話が途中なのか俺の方へくることはしない。
せっかくの休みなのに、俺はなんでこんなにイラついてんだろう。
普段は待たされることなんて苦にならないはずなのに、雛美の周りに男がいるだけで俺は苦痛でしかたがなかった。
暫くしてようやく話し終わったのか立ち上がった雛美は俺の方へゆっくり歩みを進めてくる。
その顔は嬉しそうなのに、俺の心はどす黒く染まっていた。

「お待たせ、ごめんね。ちょっと長引いちゃった。」
「別に。」

思っていたより低い声が出てしまった。
雛美は一瞬目を見開いて、眉を下げると俺を覗き込んでくる。

「怒ってる?」
「怒ってない。」
「ホントは?」
「怒ってないって言ってるだろ!」

ダメだとわかりつつも声を荒げてしまった。
俺は一体何にこんなにイラついてんだ。
自分の行いに舌打ちをすると、雛美は俺の手を引いて歩き出した。
前を歩くせいで表情は見えないが、機嫌を損ねてしまったのかもしれない。
自分の幼稚さに呆れる。
雛美は歩きながら、振り返りもせずに淡々と話し始めた。

「最近、隼人変だよ。すぐ機嫌悪くなる。部活忙しいのは仕方ないし、余裕がないっていうのなら無理に私に合わせなくてもいいんだよ?」
「無理なんかしてないさ。」
「じゃぁどうしたの?私を迎えに来てくれる時、いっつも眉間に皺よせて。」

ドキリとした。
和やかに笑って待っていたはずの自分の表情が思っていた物と違っていたことにも、それを雛美に指摘されたことにも驚いた。
上手く隠していたつもりでも実際は違ったらしい。
途端に足が重くなり上手く歩けなくなった。
そんな俺を見て雛美は足を止めて振り返った。

「私、重たい?」

不安そうな顔が俺を見上げている。
重たいわけがない、そう言いたいのに上手く言葉にすることが出来ない。
黙ったままの俺に雛美は悲しそうに笑った。

「隼人はモテるから、私じゃなくてもいいかもしれない。より取り見取りだよね。」
「そんなことない!」
「うん、隼人はそう思ってても選び放題だと思うよ。だけどね、私は隼人じゃないとダメなんだよ。」
「雛美の方が、モテるだろ。」
「ホントにそう思う?」
「雛美はいつだっていろんな奴に囲まれてるじゃないか。男にも、女の子にも。」
「嫉妬した?」

図星を突かれて、俺は一度だけ頷いた。
そんな俺を見て雛美はクスクスと笑う。
その余裕ぶった姿に刺激されて、つい大きな声が出た。

「雛美はヤキモチ妬いてくれねぇんだな。」
「え?」
「俺のことモテるとか言う割に、余裕そうだしな。」

言葉を間違えているのはわかっている。
キツイ言い方になってしまったこともわかっている。
だけど余裕がない今の俺にはこれで精いっぱいだ。
何とか言葉にしたそれを聞いて、クスリと笑った。

「私ね、隼人がモテるのってすごく誇らしいよ。こんなにモテる人が私の彼氏なんだって思ったら、みんなに自慢したくなるもん。私のロック画面が隼人との写真なのも、自慢したいからだよ。」
「不安になっちまうのは俺だけかよ。」
「隼人、私はね?隼人のこと信じてるの。何よりも誰よりも信じてる。だから隼人の口から聞いたことしか信じない。」

優しく抱き着いてきた雛美を抱きとめると、嬉しそうに目を細めた。

「さっきも言ったけど、私は隼人じゃないとダメなんだよ。私がモテるって思うなら、発想を変えてみて。モテる私が隼人しか見てないし、見えないの。誰に言い寄られても隼人以外ありえない。自信持って。」

真っ直ぐ自分に向けられた愛の言葉に胸が熱くなった。
嫉妬して酷い言葉を吐いたのに、それでも変わらずずっと俺だけを見ているという。
”ヤキモチを妬いて欲しい”なんて、どれだけ子供っぽいんだろう。
俺は申し訳なくなって、雛美をぎゅっと抱きしめた。

「ごめん。」
「なぁにー、隼人らしくないなぁ。」
「勝手なことばっか言って悪かった。」
「謝らなくていいよ。不安にさせてごめんね?隼人がヤキモチ妬いてくれるってことは愛されてるってことだから、今まできちんと話さなかったの。隼人が思いつめるまで言わなくてごめんね。」

優しく笑うその頬にそっと触れて、自分の顔を近づけると雛美は目を閉じた。
軽く触れるだけのキスをすると、雛美がにっこりと嬉しそうに笑う。

「好きだよ。いつも自信持たせてくれてありがとう。」
「俺も好きだ。」

ふわりと笑うその表情に胸が暖かくなった。
こんなにも愛されていたのに、俺は一体何を不安に思っていたんだろう。
不思議なくらいさっきまでのどす黒い思いは消えていて、どこか晴々としている。
腕の中でおでこを擦りつけている雛美にもう一度口づけた。
大人びた考え方をする割に行動は少し子どもっぽい雛美が愛しい。
こんなに幸せな気分なのに、俺はどうしても一つだけ伝えたいことがあった。

「雛美。」
「うん?」
「それでもやっぱり、男と一緒にいるのは嫉妬するかも。」

人間はそうすぐには変われない。
そう伝えると雛美は少し嬉しそうに笑った。

「いいよ。隼人がいつか不安になれなくなるくらい、私の気持ちを伝えるから。」

一枚上手の彼女に、俺は敵いそうにない。
いつだって俺の想いを受け止めてくれた雛美は既に俺のエキスパートになっているんだろう。
俺の扱いだって手馴れているはずだ。
俺はそんな雛美を信じることにした。
好きだという思いは変わらない。
ただ雛美を自分の物だけにしたいという子供っぽい独占欲が、次第に薄れていけばいい。
薄れてなくなってしまうまで、雛美は待っていてくれるだろうから。


*******************************
凛音様より
読モで男女ともに人気のある彼女を持つ新開さん
ヤキモチを妬いてしまう新開さんと、モテることはいいことだと思っている夢主ちゃん
というリクエストを頂き、書かせて頂きました。
私の思う新開さん…ということでしたので、ちょっとヘタレな新開さんに…;
楽しんで頂ければ幸いです。
リクエストありがとうございました!



+++++++++++++++
来てくださる全ての方へ
30000Hitありがとうございます!
これからも宜しくお願い致します。


カウンター記念


story.top
Top




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -