愛犬が繋ぐ絆/25000Hit記念(亜希様リクエスト)




人は自分にないものに憧れるとはよく言ったものだ。
それは私も同じだった。
150pギリギリしか身長のない私は大きなものに憧れた。
そんな私がお母さんに頼み込んで飼ってもらった犬は超大型犬だった。
私はその子に紅茶から”ジョルジ”と名付けてとても可愛がっていた。
だけどジョルジはその大きさ故、躾がとても大変だった。
”躾をするため”として訓練所に行っていたジョルジが帰ってきた日、私は嬉しくてジョルジを連れて家を飛び出した。




久々にジョルジと2人で歩けるのが楽しくて、私はずいぶん遠くまでやってきてしまった。
気づけば見たことのない景色ばかりで、いつの間にか迷子になっていたのだと気づいた。
慌ててスマホを取り出すも電池切れ。
近くに地図や交番もなく、人通りが多いわけでもない。
コンビニを探して歩いていたはずなのにどんどん住宅地に入ってしまったらしい。
引き返そうにも似たつくりの住宅街ではどこから来たのかもわからなくて途方に暮れていた。
そんな時、遠くから犬を連れた人が歩いてくるのが見えた。
私は意を決してその人に話しかけた。

「す、すみません!」
「ア?何だよ。」

不機嫌そうなその声に、人選を間違えたと思った。
それでも他に人がいるわけでもなく、私は頭を下げた。

「道に迷ってしまって……ここってどこですか?」
「どこって……お前どこ行きたいんだよ。」

めんどくさそうにしながらも話を聞いてくれたその人は、スマホを取り出して何やら調べてくれた。
見た目は少し怖そうだけど、悪い人ではなさそうだ。
よく見ればサラサラの黒髪に少しつりあがった目が凛々しく見えてくる。
クラスの男子よりは全然かっこいい。
ちょっと悪っぽい感じも、そのルックスに合って見える。
そんなことを考えながらマジマジと眺めていると、その人と目が合ってしまった。

「何見てんのォ?」
「あ、いえっ。別になんでも!」

その人は不思議そうに首をかしげて、スマホの画面を見せてくれた。

「こっからだと大分遠いけど。」

スマホの画面には恐らく最短距離だろう道が表示されている。
その道は小道を通っているのかぐにゃぐにゃまがっていて、一人で帰れそうにない。
それを伝えるとその人はスマホを閉じた。

「ついてこい。」
「えっ?」
「わかるとこまで送ってやるよ。」

そう言いながらすでに歩き出してしまったその人を、私は慌てて追った。
無言のまま歩き続けることは私にはできなくて、ついつい色んなことを聞いてしまった。
それをめんどくさそうにしながらもきちんと答えてくれる律義さと見た目のギャップでつい笑ってしまう。
その人が連れていたのはパピヨンと言う犬で、アキチャンと言うらしい。
飼犬を”ちゃん”と呼んでいるのが意外だった。

「つーか、その犬デカすぎだろ。」
「グレートデンっていうんです。私大きい子大好きで。」
「大きい子ォ?」
「はい、私小さいから大きい人とかに憧れて。」

そういえばこの人も大きい気がする。
男の人の平均がどれくらいかはわからないけど、少なくともお父さんよりは大きい。

「ちっちぇ方が可愛くていいだろ。」
「そ、そんなことないですよ!服とかも丈合わなかったりするし……。」

何だかその人の言い方が妙に恥ずかしくなってしまった。
私に言ったわけじゃないのに、なんでだろう。
アキちゃんの話をするときに時折見せる笑顔がすごくカッコよくて、ついじろじろと見てしまう。
その度に目が合って、私は顔を伏せた。

「つーかさァ。」
「はい?」
「名前なんてェの?」
「あ、ジョルジって言います。」
「いや、お前の。」

そう言ってその人はケラケラと笑いだした。
名乗ってなかったことをいまさら思い出して、私は顔が熱くなる。

「あ、えと小鳥遊雛美です。」
「小鳥遊サンな。俺荒北。」
「荒北、くん。」
「おう。」

ニッと笑った荒北くんは、私の頭をくしゃっと撫でた。
その大きな手がとても気持ち良くて、何だか変な感じがする。
胸がきゅっとなるような、ドキドキするような……。
そんな風に暫く歩いていくと、見たことのある道に出た。

「あっ。」
「どしたァ?」
「ここからなら、多分帰れます。案内して頂いてありがとうございました!」
「おう。気ィつけて帰れよ。」
「はい!あの、あとでお礼をしたいので連絡先を聞いてもいいですか?」
「気にすんな。別に散歩のついでだ。」
「えっ、でも……。」
「また会えんだろ。」

そう言って手を振っていってしまった荒北くんに私はもう一度頭を下げた。
また、会えるかな。




それから毎日ジョルジの散歩にあちこち出かけた。
だけどあの日以来、荒北くんに会うことはなかった。
もしかしたら道が違うのかもしれない。
そう思って色んな道を行ってみたけど、結局会えなかった。
そしてそのまま私は高校に進学して、寮生活になってしまった。
あの時強引にでも連絡先を聞いていれば……。
そう思いながらも初めてのクラスへ入ると、知らない男の子に呼び止められた。

「小鳥遊サン?」
「は、はい。」

今時あまり見かけないその風貌に驚いた。
でもその人がニッと笑った瞬間、パッと記憶が蘇った。

「あ、荒北くん!?」
「おう。久しぶりィ。」

サラサラだった黒髪はリーゼントになり、眉が前より少し細くなっている気がする。
荒っぽい口調とその見た目からはどうみても”ヤンキー”で、あの時とのギャップに戸惑った。
それでもドキドキと高鳴る胸は、私の頬を紅潮させていく。
どうやら荒北くんとは同じクラスらしく、席が近かったのもあってそれからたまに話をした。
先生や他の子には粗暴な荒北くんも、私と話す時はあの時のままだ。
私には怒鳴ることもしないし、睨まれたこともない。
それが何だか特別な気がして、私はどんどん荒北くんに惹かれていった。
授業にあまり来ない荒北くんと話すのは決まってお昼休みか放課後だった。
私は荒北くんが居そうなところを探しては、一緒にくだらない話をした。
荒北くんも嫌がらずに私の話を聞いてくれるのがとても嬉しかった。
そんなある日、荒北くんの髪がとても短くなった。
どうしたのかと聞けば、自分で切ったのだという。

「どうしたの、急に。」
「アー、たまにはいいかと思って。」
「でもあちこちボサボサになっちゃってるよー。」

そう言いながら所々長い髪をつまむと、その手をガシッと掴まれた。
気に障ったのかと思って手を引っ込めようとすると、そのまま引き寄せられる。

「なら小鳥遊が切ってくれ。」
「えっ、私やったことないよ!」
「大丈夫だろ。」
「いやいや、変になったら困るじゃん!」
「小鳥遊ならそれでもいい。」

息がかかるほど近い距離でクスッと笑ったその顔が、私の体を震えさせた。
背中がゾクゾクして、鼓動が早くなる。
きっと真っ赤になっているだろう顔を伏せると、荒北くんは掴んだままの私の手を上へあげて顔を覗きこんできた。

「なぁ。」
「う、うん?」
「……何でもねェ。」

心なしか少し赤くなった荒北くんは、私の手を解放すると立ち上がった。
そして私の手を引いて立ち上がらせてくれる。

「今から何か用あんのォ?」
「今日はもう帰るだけだよ。」
「じゃぁ俺の部屋こいよ。」

何かがあるかもしれない。
そう思いながらも、私はその誘いを断ることが出来なかった。




男子寮は女子は立ち入り禁止だったのに、荒北くんは”1階だから”と私を窓から招き入れた。
立ち入り禁止の場所にくるというだけでもドキドキするのに、それが好きな人の部屋だというのはとても心臓に悪い。
私はドキドキしながらもテーブル近くに座った。
すると荒北くんはハサミとゴミ箱を持って私のすぐ横に腰を下ろした。

「ん。」

そう言って手渡されたハサミは、多分そういうことなんだろう。
少し残念に思いつつホッとして、私はそれを受け取った。

「変になっても知らないよ?」
「おう。」
「怒んない?」
「怒んねェからさっさとしろよ。」

クスクスと笑う荒北くんはとても楽しそうで、それを見て私も口元が緩む。
ドキドキよりも使命感に駆られて、私はそっとその髪にハサミを入れた。
静かな部屋に、ハサミの音だけが響いている。
私の鼓動が聞こえてやしないかと冷や冷やしつつも、私は所々長い髪を丁寧に切っていった。
ある程度切り終わってふと顔を上げると、いつの間にかテーブルの上にあった鏡の角度が変わっていた。
そこには荒北くんが映っている、ということは。
荒北くんにはずっと私の顔が見えていたんだろうか。
そのことに急に恥ずかしくなって顔を伏せると、振りかえった荒北くんにハサミを奪われた。

「あんがとねェ。」

そう言いながら荒北くんは、私の腰に手を回して抱え込む。
私は促されるまま荒北くんの膝の上に座ってしまった。
それが妙に恥ずかしくて顔を上げられずにいると、そのまま抱きしめられてしまった。
頭上でスンスンと音がして、それが嗅がれているのだとわかる頃には私は荒北くんの腕の中にすっぽり収まってしまっていた。
抜け出したいような、でもこのままでいたいような。
荒北くんの真意がわからなくて私は動けずにいた。
すると荒北くんの手が私の頬に触れた。
促されるまま顔を上げると、真っ赤になった荒北くんと目が合う。

「勘違いじゃ、ねェよな。」

そう言って近づく顔に、私は目を閉じた。
柔らかいものが唇に触れて、その感触思わず体が跳ねてしまった。
それを押さえつけるように頭に回された手は、私の頭を固定してしまう。
触れるだけ、なのに長いそのキスは私の頭をパンクさせるには十分だった。
息をするのを忘れていたせいで、離れた瞬間勢いよく酸素を吸ってしまった。
それを見た荒北くんは私の頭を撫でながらクツクツ笑う。

「わ、笑わないでよう……。」
「可愛いなァって思ってんだよ。」

そう言いながらもずっとニヤニヤしている荒北くんに、私は頬を膨らませた。
どれだけ押し返しても荒北くんは私を離してくれることはなくて、その密着度にドキドキが収まらない。
そんな私をなだめるように優しく背中を撫でながら、おでこをこつんとぶつけてきた。

「あん時からさァ、忘れられなかった。」
「え?」
「迷子んなってた時。」
「わ、私もずっと好きだったよ!クラスで会った時はすごくびっくりした……。」
「俺も。ガラにもなく運命とか考えた。」

そう言って笑う荒北くんはいつもより少し子どもっぽくて、それがすごく可愛い。

「どうして連絡先教えてくれなかったの?」

そう尋ねた私から荒北くんは目を逸らした。
どうやら答える気がないらしい。
それが何だか悔しくて、私は荒北くんのわき腹をくすぐった。

「あ、おい!やめろっ。」
「言うまでやめなーい!」

身を捩って逃げようとした荒北くんの手が私の背中から離れて、思わずよろめいた。
慌てて荒北くんの首につかまると、そのまま二人とも倒れ込んでしまった。
さっきよりも近いその顔にドキドキしながらも座りなおそうとすると、そのまま抱きしめられた。

「チャラいと思われたくなかったんだよ。」

そうボソりと漏らした荒北くんは、私の頭を抱えてしまった。
荒北くんの顔が見たくてもがいてみたけど、力で敵うはずがない。
諦めて荒北くんに身を任せると、いつもと打って変わって頼りなさげな声が降ってきた。

「付き合ってくんねェ?」

そのギャップに思わず吹き出すと、荒北くんは口をへの字に曲げてしまった。

「てっめ!人が真面目にっ!」
「うんうん、わかってる。わかってるんだけど、ね。可愛くて。」
「可愛いのはテメーだろうが。」

その言葉に思わず顔を上げるとばっちりと目が合ってしまった。
お互い真っ赤な顔をしているんだろう。
それが恥ずかしいのに、なんだかとても嬉しかった。
クスクス笑う私に”返事はァ?”と不機嫌そうに聞いてくる荒北くんの頬に、私は軽く口づける。

「こちらこそ、よろしくね。」

目を丸くした荒北くんは小さく舌打ちをする。
それでも口の端が笑っているのを私は見逃さなかった。
運命なんてものがあるかなんてわからない。
それでも今この瞬間、私たちの間には絆があると思える。
そう思えることが何より嬉しい。
ねぇ荒北くん。
今度帰省したら、一緒に散歩に行こうね。






*******************************
亜希様より
アキチャンの散歩中に出会った二人が一目惚れ
その後箱学で再開する
というリクエストを頂き、荒北さんを書かせて頂きました。
もっとアキチャンを出してあげたかったのですが、そうすると1話で収まらず…おそらく3話くらいに…。
ということで、たくさんの没を出してしまいましたがいかがでしたでしょうか?
高校入学初期のヤンキー荒北さんをどう書くかでとても迷いました;;
リクエストを頂いてから時間を頂いてしまい申し訳ありません。
お気に召して頂ければ幸いです。

いつかアキチャンのお話でリベンジしたいと思います…!



+++++++++++++++
来てくださる全ての方へ
25000Hitありがとうございます!
これからも宜しくお願い致します。



カウンター記念


story.top
Top




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -