にわなずな-2-




それから数日経ったある日、俺は顧問から呼び出された。
要件も伝えられないその呼び出しに嫌な予感がする。
悪いことをした覚えはないが、教師に呼び出されるというのはいい気分じゃない。
憂鬱になりながらも俺は職員室に入った。

「しつれーしゃーす。」
「荒北さん!」

聞き覚えのある声が人の少ない職員室に響く。
それはこの前ナンパされていた小鳥遊だった。
あの日と違いおろしている髪は艶めかしいというより清純さを醸し出していた。
それでも優しく笑うあの顔は同じもので、そのギャップに思考が持って行かれてしまう。

「本当にこいつなのか?」
「はい!荒北さんで間違いありません。先日は助けて頂いてありがとうございました。お友達の方も……これ、良ければ皆さんで召し上がって下さい。」

教師の問いに答えた小鳥遊に深々と頭を下げられ、差し出されたそれは有名な老舗和菓子の詰め合わせだった。

「気ィ使わせて悪ィ。気にすることねェのに。」
「いえいえそんな!何がお好きかわからずこちらの好みで選んでしまって。お口に合えばいいのですが……。」
「アー新開が甘いの好きだから喜ぶ。あんがとねェ。」
「新開さん、ですか?」
「この前一緒に居た茶髪の方。同じ部活だからァ。」

出来ればあまりここには長居したくない。
職員室ということもあるが、何より小鳥遊と過ごせば過ごすほど心が持って行かれそうだ。
俺は軽く礼を言って職員室を出ようとした。
しかしそれを教師に止められてしまう。

「お前今からどうせ自主練だろ?門まで送ってってやれ。」
「ハァ?なんで俺が……。」
「いえ、大丈夫ですよ。一人で帰れますしこれ以上ご迷惑になるようなことは……。」
「別にっ。迷惑とかじゃ、ねェけど。」
「じゃぁいいだろ。送ってから部活に戻れ。」

いつもなら反抗するところだが、すればするほど小鳥遊を傷つけるような気がして俺はそれを引き受けた。
ふわりと笑った顔が少し赤く染まっていてドキリとさせられる。
俺たちは教師に見送られて職員室を後にした。




小鳥遊は歩きながらずっと俺の方を見て話をしてくれた。
あまりうまい返しは出来ないが、それでも嬉しそうに笑う姿が花のようだと思う。
話を聞けば小鳥遊は近くにあるお嬢様校に通っているらしい。
確かそこはかなり裕福でないと通えないと聞いた気がする。
それでやっと小鳥遊の振る舞いに納得が行った。
擦れてないのもそのせいか。
そんな小鳥遊が礼のためとはいえ、俺みたいなのを訪ねてくるのは勇気がいっただろう。
それに少し申し訳なくなった。

「悪ィ。ホント大したことしてねェし、気使うなよ。」
「私はとても助かったので……それに」

そう言って小鳥遊は立ち止まると俯いた。
そして小さな声でこう言った。

「どうしてももう一度、お会いしたかったんです。」
「ハァ……?」

予想だにしない言葉に思わず聞き返してしまった。
口から出たあとに後悔したが、それはもう遅い。

「わ、私っ……あれからずっと荒北さんのことが気になっていて……。寝ても覚めても頭から離れないんです。だから、どうしてももう一度お会いして気持ちを伝えたくてっ……。」

震える声はどんどん小さくなっていく。
ちらりと見える頬は真っ赤になっていた。
そして急に顔を上げたかと思えば俺を真っ直ぐ見据えた。

「荒北さんが好きです。どうかおそばにおいて頂けませんか。」

下がった眉に潤んだ瞳、口元はきゅっと力が入ってそこだけ少し白くなっていた。
正直、その表情に興奮した。
こんなにも綺麗なやつが俺を選んだということにゾクゾクした。

「お、お友達からで構いません!仲良く、して頂けませんか?」
「イイヨォ。その代わり」
「その代わり……?」
「荒北じゃなくて靖友、な。」
「はい!靖友さんっ。」

そう言って花が咲いたように笑う。
触れるだけで汚してしまいそうだと思いつつも、俺はきっと小鳥遊を手放すことなんて出来ない。
俺の隣で柔らかに笑う小鳥遊は、輝きを増すばかりだ。
友達じゃいられなくなる日はそう遠くない。
決まり切った未来に思いを馳せれば覗き込んでくるその顔は、目が合うとふわりと笑う。
その姿に息を飲む。
今はまだ伝えられないその思いを、早く届けることができますように。



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にわなずな様より
「にわなずな」の花言葉で荒北さん
というリクエストを頂き、書かせて頂きました。
色々な花言葉があり迷いましたが、「優美」と言う意味を選ばせて頂きました。
イメージは高嶺の花に落ちる荒北さんという感じだったのですが、いかがでしたでしょうか?
お気に召して頂ければ幸いです。
リクエストありがとうございました!


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来てくださる全ての方へ
20000HITありがとうございます!
これからもBeastをよろしくお願い致します。


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