ブーゲンビリア/10000Hit記念
(凛音様リクエスト)



みんなが恋の話をする中、私は一人外を眺めていた。
恋なんてどうでもいい。
ただでさえ人見知りで、人付き合いは苦手だし。
男の人なんて何考えてるのかわからないし、怖くて出来ればあまり関わりたくない。
これは多分、小学生の時によくからかわれたせいだと自分でもわかっていた。
でもそんなにすぐ変わることなんて出来ない。
私は高校生になった今でも、色恋沙汰にはあまり興味がなかった。
そんな私を心配した椎華は、入部届けを二枚持って私のところへやってきた。
男子のいない部活を選ぶと自然と運動部になってしまうので部に入る気のなかった私を、椎華は強引に誘ってきた。

「一緒にやろうよ、マネージャー!」
「えー……男子のいる部活はいいよ……。」
「そんなこと言わないでさ!うちの自転車競技部すごいんだって。インターハイ常勝校なんだよ。甲子園に毎年いけるみたいなもんだよ!」
「でも……男の子ばっかりでしょ?」
「私がいるじゃない。」
「そうだけど……。」

椎華は入部届の一枚に自分の名前を、もう一枚には私の名前を書いた。

「はい、これ雛美の分。」
「……どうしてもだめならやめてもいい?」
「雛美がどうしてもダメで、私が一人ぼっちになってもいいって言うならやめてもいいよ。」

それはもう、”やめるな”と同意語だと思うのだけど。
私だってわかっているのだ、椎華は私を想って誘ってくれていること。
いい加減、トラウマみたいなものは克服しなければならないこと。
その一歩を強引にだけど歩ませてくれようとする椎華には感謝しなければならない。
私は小さく息を吐いて、椎華に向き直ると一度だけ頷いた。
嬉しそうに笑う椎華に手を引かれて、私たちは自転車競技部の部室へと向かった。





自転車競技部に入ってからは、驚きの連続だった。
部員数、練習量、そしてなにより自転車のスピード。
初めて観るそのスポーツは私の心を魅了していく。
あの速度を機械でなく人が出しているのだと思うとワクワクして仕方がなかった。
1年生マネの仕事は、基本的に裏方で選手と関わることは少なかった。
自己紹介の時に”人見知りで話すのが苦手”と言えたおかげで、男子部員に積極的に話しかけられることもなく私は部活を続けることが出来た。
男子と事務的なやり取りなら出来るようになったころ、パワーバーの数が足りないと言われて一人で備品庫にとりに行くことになった。
備品庫にはOBの方から頂いた差し入れが山のように積み重なっている。
その中から一人で探すのは結構大変で私は苦戦していた。
重たい段ボールを押しのけて、やっとの思いで見つけたパワーバーの箱は部品の下敷きになっている。
横着して引っ張り出そうとすると、嫌な音を立てて部品が倒れてきた。
ヤバい。
頭を覆いながら目をぎゅっと閉じて痛みが来るのを待った。
だけどいつまでたっても来ない痛みにそっと目を開けると、茶色い髪が目の前で揺れている。
優しい顔つきのその人は、三年生の新開先輩だった。

「大丈夫か?」

新開先輩はにっこりと笑い、私を立ち上がらせてくれた。

「す、すみません!ありがとう、ございます。」
「怪我はないか?全く、危ない置き方してるからこうなるんだよな。今度みんなで整頓しないとな。」
「後で片付けておきます……。」
「小鳥遊さん一人じゃ無理だろ?俺も手伝うからいつでも言ってくれよ。」

そう言いながら新開先輩はパワーバーの箱を引っ張り出して、ひとつ口に含んだ。
何て返事をしていいかわからず、私はとりあえず頭を下げた。
すると新開先輩はその頭をポンポンと軽く撫でてくれる。
普段なら嫌悪感で振り払うはずのその手を、私は振り払うことが出来なかった。





その後も新開先輩は荷物を運んでくれたり、部活の後だというのに備品庫の片づけを手伝ってくれた。
言葉に詰まる私を急かすわけでもなく、にこにこ笑って待っていてくれる。
ふと”こんな人ばかりならいいのに”と思い、私はハッとした。
男の子相手にこんなことを思ったのは初めてだ。
新開先輩のことを考える度にドキドキして胸がぎゅっと痛くなる。
それなのに考えずにはいられないのは何故だろう。
その想いの名前を私はまだ知らなかった。




それからというもの、新開先輩はよく私に話しかけてくれた。
タオルやドリンクの話だったり、天気のことだったり。
飼っているうさぎのことだったりとその内容は色々で、話してもらえるのが嬉しかった。
部活以外でも見かけるたびに声をかけてくれて、次第に仲良くなって行った。

「雛美ちゃん。」
「あ、新開先輩。どうかしましたか?」
「大した用事じゃないんだけどさ。今日部活休みだろ?良かったら、うさ吉見に来ないか?」

断る理由なんてなかった。
部活が休みなのに新開先輩に会えるなんて幸せ以外の何でもない。
その頃には私は自分の気持ちを理解した。
新開先輩が好きなんだ。
まだ伝えることのできないこの気持ちは、私を少し積極的にしてくれる。

「行きます!行かせて下さい。」
「そうか、良かった。じゃぁ放課後迎えに来るから。」

そう言って新開先輩が行ってしまうのを私は手を振りながら見送った。



授業が終わり教室で荷物を片付けていると、新開先輩が声をかけてくれた。
ニヤニヤと笑う椎華に見送られて、私は教室を出た。
2人で歩くのは初めてで緊張してしまったけど、新開先輩がゆっくり歩いてくれたおかげでその緊張も次第にほぐれていく。
うさ吉の小屋に着く頃にはいつもと同じように話ができるようになっていた。

「抱いてみるか?」
「いいんですか?」
「あぁ、もちろん。」

新開先輩が私の腕の中にうさ吉をそっと乗せてくれた。
ヒクヒクと動く鼻や耳が可愛くて、思わず口元が綻んで行く。

「可愛い。」

撫でると目を細めるその姿が、私に心を許しているようでとても嬉しい。
それを見ていた新開先輩が、小さくため息をついた。

「羨ましいな。」
「あ、変わります!」

うさ吉を新開先輩の腕の中へ返すと、新開先輩はくすくすと笑い始めた。
何かおかしなことをしてしまったのかと恥ずかしさがこみ上げる。

「こういう意味じゃなかったんだけどな。」
「え?」
「うさ吉がさ、羨ましかったんだ。雛美ちゃんに抱いてもらえて、撫でてもらえるのがさ。」

少し頬を染めながらにっこりと笑う新開先輩と目を合わせることが出来ず、私は俯いてしまった。
ど、どういうことだろう。
そんな私をよそに、新開先輩はうさ吉を小屋に戻すと私の顔を覗き込んだ。

「なぁ、雛美ちゃん。」
「は、はい……?」
「俺と付き合わねぇか。」

突然の申し出に固まる私に、新開先輩は困ったように笑った。

「男が苦手なのは知ってる。だけど俺、雛美ちゃんが好きなんだ。俺じゃ無理かな。」
「そ、そんな!そんなこと……男の人は苦手だけど、新開先輩は違うというか……大丈夫というか。」
「それってつまり?」
「わ、私も新開先輩が好き、なので!あの、宜しくお願いします。」
「本当か!」

嬉しそうに笑う新開先輩は、私を抱き上げてしまった。
嫌でも新開先輩と目が合ってしまって恥ずかしさに襲われる。
だけどこんなに嬉しそうな新開先輩を見られることが嬉しかった。
"ありがとな"と笑う新開先輩は、私を下ろすと一つだけワガママがあるという。
私にできることなら、とその内容を聞けば呼び名を変えて欲しいという。
恥ずかしいからと断ろうとすると眉を下げてしょんぼりする姿を見ていられなくて、結局承諾してしまった。
そして私はその日から、部活以外では隼人くんと呼ぶことになった。




隼人くんは、自宅通いの私を毎日家まで送ってくれた。
申し訳ないからと断ると、またあの悲しい顔をされてしまって強くいうことができなかった。
ならばせめて、と思い隼人くんの好きなものをたくさん作って差し入れすることにした。
カップケーキにパウンドケーキ、クッキーやマドレーヌ。
どれも美味しいと言ってたくさん食べてくれるのがとても嬉しかった。
お弁当は卵焼きが気に入ったみたいで、何度もリクエストしてくれた。

「いつもありがとな。早起き大変だろ?」
「全然!隼人くんの為なら何時だって起きられますよ。あ、今日はパワーバーを作って見たんですけど……。」

甘いのが好きだという隼人くんは、いつも好みの味のパワーバーがなくなると悲しい顔をする。
そして最近、あまりにも偏った食べ方をしたせいでみんなに怒られていた。
市販のものほど出来は良くないけど、少しでも足しになればとネットのレシピをいろいろ探して作って見たのだ。

「何だかいつも悪いな。弁当にオヤツにパワーバーまで……。」
「気にしないでください!好きでやってることなので。」
「俺にできることがあったら何でも言ってくれよな。」

そう言って隼人くんは私の頭を撫でてくれた。
いつもしてもらってばかりで、私のささやかなお返しにまで気を使わせて申し訳なくなる。
それでも大きなその手に撫でてもらうのが私は大好きだった。




ある部活休みの日。
隼人くんは自主練で朝から走ると言うので、私はいつもより多めのお弁当を作った。
おやつにチョコレートバーと、うさ吉用に野菜スティックもカバンに詰め込んだ。
色々準備をしていたせいで気づけばもうお昼前だ。
私は慌てて家を出た。




部室に着くと、たくさんの先輩が練習していた。
隼人くんを探したけどどこにも見当たらない。
不思議に思っていると、一部の選手が外周に行っているらしい。
きっと隼人くんもそうなのだろう。
私は隼人くんが帰ってくるまで、他の選手のサポートをすることにした。
ドリンクを作ったり洗濯をしたり、部活があるのと変わらない内容だ。
そうしてしばらくすると、背中から誰かに抱きつかれた。

「雛美ちゃん!」
「は、隼人く……じゃなくて隼人先輩。」
「今日は休みなんだからくんでいいだろ?」
「あ、そうでした……。」
「色々サポートしてくれてたんだってな。ありがとな。」

そう言って撫でてくれる手がとても気持ちいい。
外周に行っていただけあって少し息の上がっている隼人くんは、いつもよりキラキラして見える。

「あ、お弁当とおやつがあるんです。一緒に食べませんか?」
「本当か!嬉しいな。でもな、雛美。」

にこりと笑っていた顔が、少し真剣になった。
悪いことをしてしまったのかと不安になる私を、隼人くんは優しく抱きしめてくれた。

「せっかくの休みなんだ。自転車部のマネじゃなくて、今日は俺だけのでいてくれよ。」
「えっ、あの……ごめんなさい……。」
「俺、こう見えて結構独占欲強いんだぜ?だからさ。」

そう言って、隼人くんは私の指先に軽く口付けた。

「今日はもう、マネの仕事はなしな。」

そう言って笑う笑顔が眩しくて、それが自分のものだということが嬉しくてたまらない。
私は笑って頷いた。
私が思っているよりもずっと、本当は好かれていたのかもしれない。
隼人くんのその笑顔は、私に自信をくれた。
いつもしてもらうばかりでごめんなさい。
いつか隼人くんに、お返しができますように。





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凛音様より
人付き合いが苦手な夢主が新開さんに恋をする
告白されて付き合う、甘酸っぱい2人。
というリクエストで新開さんを書かせていただきました。
引っ込み思案の夢主が上手く書けたか不安ではありますが、ブーゲンビリアの「あなたは魅力に満ちている」という花言葉は新開さんにぴったりな気がしてタイトルとさせて頂きました。
書くのが遅くなってしまい申し訳ありません。
お気に召して頂ければ幸いです。



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来てくださる全ての方へ
10000Hitありがとうございます!
これからも宜しくお願い致します。


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