peach blossom/9000Ht記念(にわなずな様リクエスト)




初めて人を好きになった。
最初は気になる程度だったのに、気づけば彼を追いかけてマネージャーにまでなっていた。
赤茶色の髪に優しい顔つき、いつもニコニコしながらおやつを食べているのがとても可愛くて。
一緒にマネをしてくれてるナチにも言えないけど、私は新開くんが好きだった。
1年も経つ頃には、新開くんから名前で呼ばれるようになり私は自分が特別なんだと思ってた。

「雛美。」

優しい声でそう呼ばれて振り返ると、新開くんがパワーバー片手に手を振っていた。

「どうかした?タオルなら今、ナチが取り込んで……。」
「いや、タオルじゃねぇんだ。パワーバーねぇかな、バナナかチョコのやつ。」
「ん、ちょっと待ってねー。」

そう言いながら先ほどまで手に持っていたはずのパワーバーの袋をクシャっと丸めた。
さっき食べてたのもバナナだった気がするんだけど。
在庫を見てみたけど、新開くんの好きな味は一つも残ってなかった。

「ねぇ、好きなのばかり食べないでって言ったよね?」
「え?あ、あぁ。だけど俺」
「だけどじゃなくて!まんべんなく食べてくれなくちゃ、余っちゃうでしょう。」

新開くんは口を尖らせた私の頭に手を置いて、にっこり笑って”悪い”と言う。
本当はそんなこと思ってないくせに。
でもその笑顔にほだされてしまう私は彼に囚われているのだ。

「今度はバナナとチョコ少し多めに買っておくから。それまであるので我慢してよ。」
「ありがとな、助かるよ。」

適当に5本ほどパワーバーを出して渡すと、さっそく封を切って食べ始めた。
一体一日何本食べているんだろう。
幸せそうに食べるその姿が、私は何より好きだった。




ある日、みんなが帰った後の部室で日誌を書いているとロッカーが小さな音を立てて開いた。
よく見るとそこは新開くんのロッカーで、中からジャージが出てきている。

「もう、仕方ないなぁ。」

慌てて着替えたんだろうか、中がぐちゃぐちゃになったロッカーにジャージを畳んで戻した。
扉を閉めようとして、私の心に邪な想いがうまれる。
今なら、誰も見ていない。
私は辺りを確認すると、もう一度ジャージを手に取った。

「新開くん……好き……。」

そっと抱きしめると、新開くんの香りがふわりと鼻を擽った。
胸がぎゅっと締め付けられる。
その時、ガチャリと嫌な音が響いた。
慌ててジャージを後ろに隠したけど、入ってきた人物は私を見て固まっている。
見られていたんだとすぐに分かった。
血の気が引いていく。

「アー……悪ィ。」

バツが悪そうに頭をかきながら、荒北くんは部室を出て行こうとした。
他にバレることを恐れて、私は彼を引き留めた。

「待って!あの、話……聞いてくれる?」

私の問いに荒北くんは舌打ちをしつつも頷いて、部室のドアを閉めた。
鍵をかけると椅子に腰かけ、私を手招きする。
私は荒北くんの隣に座って、ずっと片思いしていることを話した。
それとなく口止めすると、めんどくさそうにしながらも了承してくれる。

「隠れて匂い嗅いでるとかあんまいい趣味じゃねェなァ。」
「いや、それは、その……ごめんなさい。」
「俺に謝ってどうすんだよ。」

そう言いながらも笑ってくれる荒北くんは、私を非難しているわけではないらしい。
初めて人に話せたことに心が軽くなった。
事故とはいえ、話せたのが荒北くんで良かった。
一通り話終えると、荒北くんは小さく息を吐いた。

「んで、小鳥遊どうすんのォ?」
「え?どうって?」
「告白しねェの?」
「うぇ!?」
「なんで驚いてんだよ。」

呆れたように私を見てため息をつく。
考えたことは何度もあった。でもそれは出来ずにいた。
私は特別かもしれないと思っていたけど、それでも勇気が出なかった。
そんな私の背中を荒北くんは押してくれる。

「お前ならイケんだろ。」
「……ホントにそう思う?」
「新開と仲いいじゃねェか。」

”頑張れよ”その言葉に、私は鼻がツンと痛くなる。
泣いているのだと気づいたのは、口に涙が入ってからだった。
誰かに応援されることがこんなにも嬉しいなんて思わなかった。
荒北くんは私が泣き止むまですっとそばにいてくれた。
何も言わないその優しさが、私に染み込んで行った。






その数日後、荒北くんの協力により新開くんと2人きりになることが出来た。
2人きりになる前に、荒北くんが軽く背中を叩いてくれた。
その手に勇気をもらい、私は俯きつつも声を振り絞った。

「新開くんが、ずっと好きだったの。付き合ってください。」

途中声が上ずり、ただでさえ赤い顔が羞恥心でさらに熱くなる。
それでも言い切った達成感に浸りながらそっと顔を上げると、新開くんは眉を下げて困惑していた。
目が合うとそっと私の頭を撫でた。

「悪い、俺……ナチちゃんと付き合ってんだ。」
「えっ……。」
「黙っててごめんな。部内でそういうのはあんまり良くねぇかと思ってさ。」

初めて聞かされる事実に頭が真っ白になる。
ナチはそんなこと一言も言わなかった。
でもそれは私も同じだ。
ナチに恋の話なんてしたことがない。
知らなくて当たり前だったのかもしれない。
新開くんは申し訳なさそうに、その場を後にした。
私は部活に行く気になれなくて、そのまま寮へ帰った。




布団に籠って泣けるだけ泣いた。
もうこれ以上涙も声も出ない。
気が付けば日はとっくに暮れていて、部活を終えた子たちが帰ってきているらしい。
外から楽しそうな声が聞こえて胸が痛くなった。
ナチも帰ってくる頃だろう。
時間を確認しようとスマホに目を移すと、荒北くんから何件も着信が入っていた。
新開くんから話を聞いたのかもしれない。
ナチからは部活に来ない私を心配したメールが来ている。
ナチごめんね。今はまだ、会う気になれないよ。
何て返信しようか悩んでいるとまたスマホが震えた。
荒北くんからの着信に私は出ることにした。

「アー、小鳥遊?今どこにいんのォ?」
「……あっ……へ、やに。」

泣き過ぎたせいだろうか、喉が枯れて上手く言葉が出ない。
そんな私を心配してか、荒北くんは声を荒げた。

「アァ?どこだよ。今から行くからァ……なァ。」
「寮、の部屋に……。」
「悪ィ、部屋の場所わかんねェ。出てこれるか?」

私だってこの顔のまま会うのは気まずい。
30分後に学校の裏庭で待ち合わせることにして電話を切った。
私は誰にも見つからないように寮を後にした。




裏庭近くの洗面所で顔を洗って、タオルを濡らした。
ベンチに座りタオルを目に乗せて空を仰ぐ。
今日のことを思い出すたびに、涙が溢れてくる。
荒北くんと今から会うのに、泣き止めない自分が嫌になる。
ため息をつくと、頬にひんやりと冷たいものが当たった。
慌ててタオルを取ると、すぐそばに荒北くんが立っている。
その手にはベプシが握られていて、先ほどの正体がわかる。

「よぉ。」
「あは。部活、さぼっちゃった。」
「たまにはいいんじゃねェの。」
「皆勤賞だったのになぁ。」

また伝っていく涙を荒北くんが強引に拭う。
そして私にベプシを手渡すと、隣に腰を下ろした。

「何があったか、聞いていいか?」
「ん、あー……振られた。彼女いるって。ナチと、付き合ってたんだって。私何にも知らなくてバカみたい……。」
「ハァ!?……マジかよ。」

新開くんはみんなに黙っていたんだ。
荒北くんが驚くのは無理もない。
笑い飛ばしたいのに、私の目からは涙が溢れてしまう。

「なんか、ごめんね。応援してくれてたのに……。」
「俺こそ知らなかったとはいえ……悪ィ。」

乾いた喉に、冷えたベプシを流し込んだ。
炭酸が痛んだ喉に沁みてむせそうになったけど、私はそれを無理やり流し込んだ。
新開くんへの恋心も纏めて飲み込んで失くしてしまえればいいのに。
荒北くんはそんな私からベプシを奪い取った。

「無理すんな。」
「やっ、だいじょ、ぶ。ゲホッ……。」
「大丈夫じゃねェだろ。」

むせた私の背中を軽く叩きながら、深呼吸を促してくれる。
それに応えるように呼吸を合わせると、少し楽になった。

「ごめん、ありがと。」
「おう。あの、さ……。」
「ん?」
「こんな時に言うのずりぃのわかってっけど、もう泣いてるお前見てらんねェからァ……」

荒北くんは頭をがしがしと乱暴にかいた。
首をかしげる私に向き直ると、深呼吸を一つした。
その真剣な面持ちに私は息をのんだ。

「俺と付き合わねェ?」
「……なん、て?」
「好きだ。」

耳を疑った。
何度も聞き返す私に荒北くんは呆れたようにため息をついた。
その顔は見たことないくらい赤くて、怒鳴るようなその声は照れているからだとわかる。

「だからァ!小鳥遊が好きだっつってんのォ!初めて見た時からァ!いい加減わかれよ!」
「……わ、わかった。」
「わかりゃいんだよ。」

小さな舌打ちが聞こえた。
でも私は荒北くんに何てこたえていいかわからなかった。
振られることの辛さは私が何より知っている。
でも、今の私が荒北くんの気持ちに応えることなんて出来ない。
私の中にはまだ新開くんがいっぱいで、他なんて考えられない。
振られてもそれは変わらなくて、それが何より辛くて申し訳なくなる。
荒北くんのことを今すぐ好きになれたら、なんて酷いことを考えた。
そんな自分がとても醜くて嫌になる。
これ以上自分を嫌いにならないためにも、私は荒北くんに伝えなければ。

「あの、ありがとう。でも今はまだ……。」
「構やしねェよ。」
「え?」
「俺のこと嫌いじゃねェんだろ?」
「それは、もちろん。」
「ならいい。焦って悪かったな。」

結局私はきちんと断ることが出来ず返事を保留にしてしまった。
そんな自分がすごく嫌なのに、荒北くんはそれでいいと言う。
そんな彼に甘えてしまって申し訳なくなる。

「ごめん。」
「気にすんな。」
「でも何かっ……お詫び、とか。何かない?」

ベプシももらってしまったし、何かしなければ気が済まない。
荒北くんは少し考えてから思い出したようにスマホを開いた。

「次の休み、どっか行こうぜ。」
「え?」
「土曜部活休みだろ?」
「あ、うん。でもそれでいいの?」

ニッと笑った荒北くんは私の頭をポンポンと軽く叩いて立ち上がった。
そして私の手を引いて立ち上がらせると、先に歩き出した。
女子寮の近くまで行くと、荒北くんは私をちらりと見て手を振る。

「じゃぁな。」

それだけ言うと男子寮の方へ歩き出した。
もしかしなくても、送ってくれたんだろうか。
そのことに気づいたときには荒北くんはもう見えなくなっていた。




あの日以来、荒北くんは休みのたびに私を遊びに誘ってくれた。
最初は後ろめたさもあり断ることが出来なかったが、回を重ねるごとにそれは薄れて気づけば私もそれが楽しみになっていた。
新開くんはあの事をナチに話してないらしく、部活では相変わらずだ。
変わったことと言えば新開くんは私を”雛美ちゃん”と呼び、代わりに荒北くんは私を”雛美”と呼ぶようになったことくらいだ。
その変化は部内で目立つこともなく、きっと誰も気づいてはいない。
ただ私の気持ちは確実に変化していた。
新開くんへの想いは薄れ、気づけばそれは友情へと変化していた。
それには荒北くんも気づいたようで、その頃から自然とスキンシップが増えて行った。
そして今日もタオルを干していると、荒北くんが後ろから覆いかぶさるように抱きついてきた。

「雛美、お疲れェ。」
「荒北くん!びっくりしたぁ。」
「ん、タオルチョーダイ。」
「こっちにあるのは洗ったばっかりのだけだよ。乾いたのは部室にあったでしょ?」
「口実だからいいんだよ。」

そう言って口を尖らせる荒北くんはとても子供っぽい。
でもそんな彼を可愛いと思えるようになった私の想いは、確実に変化していた。
抱きしめる腕に手を添えると、荒北くんはニッと笑う。

「なぁ。」
「ん?」
「俺まだ諦めてねェから。」
「え!?あ、うん。……うん。」

鼻をスンスン鳴らしながら頭に頬ずりされて顔が熱くなる。
わかっていることでも、改めて口にされると恥ずかしい。
誰か来たらどうしようと思いつつも、手を解く気にはなれなくて自分の気持ちを再確認した。
あとはそれを言葉にするだけだ。

「荒北くん。」
「ア?」
「好きだよ。」

びくりと荒北くんの腕が動いて、解かれていく。
荒北くんの方へ向き直らされても顔を上げることが出来ない私を、荒北くんはそのまま抱きしめた。
体中から発熱してるんじゃないかと思うほど熱くて、頭がぼーっとする。
そんな私に、荒北くんからの嬉しそうな声が降ってきた。

「マジで?」
「うん。」
「ウソじゃねェ?」
「嘘なんて言わないよ。」
「俺も好きなんだけど。」
「うん、知ってる。」
「付き合ってくんねェ?」
「私で、よければ。」

そう言った瞬間引き剥がされて、嬉しそうな顔が私を見つめている。
伝えたいことはたくさんある。
お礼も数えきれないほど言わなきゃいけない。
でも今は、言葉より早く伝えたいから。
私は荒北くんの腕を引きよせると、そのまま頬に軽く口づけた。
嬉しそうな顔が固まって、次第に真っ赤になっていく。
でもきっと私の方赤いよね。
にっこり笑うと、口元を手で隠してしまった荒北くんは小さく舌打ちをした。

「先越すんじゃねェよ。」

荒っぽい言葉とは裏腹に笑った荒北くんの顔が近づいてきてお互いの唇がそっと重なる。
待っててくれてありがとう。
私はもう、荒北くん以外見えない。




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にわなずな様より
新開くんが好きな夢主
その夢主が好きな荒北
そして荒北落ち
ということで書かせて頂きました。
短編にまとめ上げたので若干足早感はありますが、如何でしたでしょうか…(>_<)
お気に召して頂ければ幸いです。
リクエストして頂きありがとうございました!


+++++++++++++++
来てくださる全ての方へ
9000Hitありがとうございます!
これからもBeastをよろしくお願い致します。


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