Ending is beginning -終わりは始まり-/7000Hit記念(にわなずな様リクエスト)

※大学生になったという捏造が入ります。


-first-



一目惚れだった。
長身でがっちりしてて、派手な金髪なのに行いはとても丁寧で。
表情があまり変わらないけど、時々笑う顔がすごく可愛くて。
そのギャップに、私は魅了されたのだ。
気づけばいつも福富くんを見ていた。
2年に上がって、クラスが離れてしまった時のことだ。
いてもたってもいられなくて、勇気を振り絞って告白した。
福富くんは珍しく頬を染めて、"俺も好きだ"なんて言うから、私は緊張の糸が切れてその場に泣き崩れてしまった。
嬉しくてたまらなくて、しばらく涙が止まらなくて困らせた。
部活で忙しい福富くんとデートはあまり出来なかったけど、お昼休みや部活のない放課後には時間を割いてくれるのが何より嬉しかった。
レースには応援に行ったし、頑張っている福富くんが大好きだった。
そうして私たちは、3年になった。
その頃にはお昼休みは自転車部のメンバーと食べるのが当たり前になっていて、同じクラスだった荒北くんや新開くんとは特に仲良くなった。

「その唐揚げくれ。」
「俺もその卵焼き分けてくれよ。」

そう言いながら私のおかずはいつも2人に奪われていく。
それを見た福富くんが、私におかずやパンをくれるのが嬉しくて私は二人を止めはしなかった。
おかげですっかり懐かれて、福富くんがいない時も2人は私のそばにいることが多かった。
インハイも終わり、3年は引退した頃。
受験勉強を口実に、毎日のように福富くんと過ごせることが嬉しくて私は大事なことを忘れていた。

「雛美は、どこを受けるんだ?」
「うーん、行きたいとこはあるんだけどね。寿一くんは?」
「明早だ。」
「……そ、っかぁ。」

私の頭では、同じ大学に行くのはかなり厳しい。
表情に出てしまったのか、寿一くんは私の肩を優しく叩いた。

「雛美は部活で会えない時も耐えてくれていた。俺たちなら離れても大丈夫だ。」

真剣なその眼差しに、私は心が和らいだ。
寿一くんとなら、大丈夫。
私は自分の志望校へ向けて、必死に勉強した。




受験勉強ばかりで、結局普通のデートはろくにできなかった。
図書館か談話室での勉強デートばかりだったけど、それでも一緒にいられるだけで良かった。
そして、なんとかお互い志望校に受かることができた。

「寿一くんおめでとう!」
「あぁ、雛美もおめでとう。」
「ありがとう。寿一くんは隼人くんと一緒なんだよね、いいなぁ。」
「いつでも会いにくればいい。俺も行く。」

そう言って優しく笑った寿一くんは、私のおでこに優しくキスをした。
二年付き合っていると言うのに、忙しさや気恥ずかしさで未だに最後までしていない私たちにはこれでも充分恥ずかしい。
でも今は嬉しさが勝っていて、素直に甘えることができた。
抱きつくと、優しい手が背中に回される。

「雛美。」
「ん?」
「好きだ。」
「私も大好きだよ。」

寿一くんの厚い胸板に顔をうずめると、鼓動がとても早くて自分のものかと勘違いしてしまいそうだ。

「その、今日は空いているか?」
「うん、受験も終わったし何もすることないよ。」
「すまない、ずっと耐えていたんだが……そろそろ限界のようだ。」

ちょっと苦しそうな、言いにくそうな寿一くんの声にどうしたのかと顔を上げれば真っ赤になっていた。
私と目が合うと、寿一くんは私を少し押しのけて深呼吸した。

「抱いても、いいだろうか。」

きっとこれは、抱きしめるという意味ではない。
私は顔が急に熱くなり、顔を伏せてしまった。
嫌なわけじゃない。
もっと深い繋がりが欲しいと思っていた。
だけどその返事を言葉にするのは恥ずかしくて、一度だけ頷いた。
私の気持ちはきちんと伝わったようで、寿一くんはもう一度優しく抱きしめてくれた。
そしてその日、私は寿一くんに初めてを捧げた。







大学に入ると、お互い忙しくてなかなか会えなくなった。
私の大学から明早までは遠回りするルートしかなくて片道1時間半はかかってしまう。
週に一度は会っていたのが2週に一度になり、1ヶ月に一度になった。
お互い初年度は忙しいよね、そう言って自分を慰めたりもした。
部活で忙しい寿一くんを困らせるわけにはいかない。
私は毎日していたメールの内容を返信の要らないようなものに変えた。
回数を減らすことが出来なかったのは、寿一くんからの返事がなかなかこないからだ。
私が減らしてしまえば、もっと減ってしまうだろう。
それが、私は怖かった。
知らない寿一くんが増えて行くようなこの感覚は、海に落ちて浮上できずもがくのに似ている。
不安だけが大きくなり、寿一君のことを考えると胸が痛んだ。
時々寿一くんからかかってくる電話は、見る見るうちにその痛みを消し去ってくれたけど。
会えない日々は、私を苦しめた。
"俺たちなら離れていても大丈夫"そう言った寿一くんの言葉を嘘にしたくはなくて、私は必死に耐えていた。




一年もすると、殆ど連絡をくれなくなっていた。
負担になってはいけないからと、メールの回数も減らした。
最後にもらったメールは、2週間前。
会えなくなったという悲しい内容のものだった。
前まではフォローもあったけど、今では謝罪が一言あるくらいだ。
メールを遡って読んでいると、懐かしい名前がバイブと一緒にディスプレイに表示された。
私は通話を押して、耳に押し当てた。

「もしもし?」
「あー雛美チャン?久しぶりィ、元気してたァ?」
「うん、元気だよー。靖友くんはも元気そうだね。今日はどうしたの?」

変わらない声色にホッとした。
寿一くんが忙しいんだからきっと隼人くんも忙しいだろうと思い、高校時代の友人とは殆ど連絡を取っていなかった。

「おう。あのさァ、今度の日曜雛美チャンもくんのォ?」
「日曜?なに?」
「ハッ、忘れたら福チャン泣くんじゃナァイ?」

そう言って笑う靖友くんに対して、私は視界がぐにゃりと歪んだ。
気づけば目からはポタポタと涙がこぼれていて、いつの間にか噛み締めていた唇が痛い。
彼の名前を耳にする、それだけで恋しくて堪らない。
私は電話口で嗚咽を漏らしていた。

「ちょ、雛美チャン?」
「だい、じょぶだから。ごめ……。」
「忘れてたくらいじゃ福チャン怒んねぇだろォ?気にすんなって。」

慰めの言葉だろうか。
でも私には意味がわからなかった。

「ごめ、日曜ってなに……?」
「……マジで知らねぇの?」
「うん、実はあんまり連絡とってなくて……。」

声が続かない。
気管が詰まったんじゃないかというほど、息ができなくて苦しい。
そのまま黙ってしまった私に、靖友くんは説明してくれた。

「日曜、ちょっとでかいレースがそっちであんだよ。俺も出るんだけどォ……名簿に福チャンの名前あったからァ。応援しにくんなら、後でみんなで飯でも食おうかと思ったんだけど。」

私は、何も知らなかった。
レースがあることも、出るということも。
そういえば、最後に応援に行ったのはいつだっけ……。

「ごめん、聞いてなくて。寿一くん忙しいみたいで……。」
「アー……まァ福チャンも忙しくて連絡してねェの気づいてないだけじゃナァイ?」
「うん……。」

靖友くんのフォローが嬉しくて、悲しい。
きっと靖友くんも気づいている。
寿一くんがそういう大事なことは忘れない性格なこと。
でもそれを口にしたら、私はきっと崩れてしまう。
必死で言葉を飲み込んだ。

「ごめんね、悪いんだけど……場所と時間教えてもらっていい?」

とにかく会わなければ。
この不安を消せるのは、寿一くんしかいない。
私は靖友くんに要項を聞くと、お礼を言って電話を切った。
寿一くんに、レースのことと靖友くんがご飯に誘ってくれていることをメールした。
でもその返事は、いつまでたってもくることはなかった。




second→

カウンター記念


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