惹かれて恋して捕まえて/55000hit記念(にわなずな様リクエスト)


※略奪ものです※


それは本当に突然だった。
見かけない制服のやつがいるな、そう思いながら部活に向かうとそいつもついて来やがった。
そして俺が部室に入ろうとした瞬間、服をつかんで大声を上げた。

「総北自転車部の巻島って誰!」

すげぇ剣幕でまくし立てるようにそう言うと、俺を睨みつける。
俺がそうだ、なんて言った日にはとって食われちまうんじゃないかと思う程の勢いに返事が出来ずにいると、中にいた田所っちが出てきて不思議そうに首を傾げた。

「誰だ?」
「いや、知らないっショ。」
「箱根学園2年、小鳥遊雛美!総北の巻島って人探してるんたけど。」
「箱学ぅ?なんでうちに」
「いいから!巻島ってどの人!」

怒鳴るような声に、耳がキンと痛む。
まともに話せそうもねぇな。
田所っちにほうアイコンタクトを送ると、お互い小さなため息をついた。

「あー……小鳥遊さん?巻島は俺ショ。」
「はぁ?私は"巻ちゃん"って呼ばれてる巻島を探してるんだけど。」

その呼び名でピンときた。
あいつの知り合いかよ。

「それは俺ショ。東堂がどうかしたのか?」
「えっ……本当に、巻ちゃん?男だったの?」
「……男で悪かったな。」

さっきまでの威勢が跡形もなく消え去り、小鳥遊さんは縮こまってしまった。
次々とくる部員達に好奇の目で見られていることに気づいたのかもしれない。
何だかいたたまれなくなって、俺は小鳥遊さんを連れ出した。



人気のない場所へ移動すると、小鳥遊さんは勢い良く頭を下げた。

「ごめんなさい!私、勘違いしてて……。」
「まぁそれはいいショ。それより、東堂がどうかしたのか?」
「ううん、どうもしないよ。ただ私が気になってきただけなんだ。それで……私がここにきたこと、東堂くんには内緒にしてもらえないかな。」

薄っすらと涙を浮かべる姿に断ることなんてできない。
元より、東堂に報告するつもりもない。
ただなんとなく、その姿に違和感を感じてしまった。

「その……なんだ。なんでうちにきたんショ?」
「巻ちゃんが男っていうのが信じられなくて……。」
「もしかして、東堂の彼女なのか?」

ビクリと体を震わせた小鳥遊さんは、こくりと一度だけ頷いた。
東堂に彼女がいるなんて初耳だ。

「知らなかったっショ。悪いな、気が利かなくて。」
「いや、うん。知らないのは仕方ないっていうか……えっと……。」
「なんショ?」
「……誰にも、言わない?」
「言うような相手もいないショ。東堂と連絡とってんのはこっちじゃ俺くらいだ。」

その言葉にホッとしたのか、ポツポツと話し始めた。
東堂とは高校に入ってすぐ付き合い始めたこと。
けど、東堂は女子ウケを気にしてか付き合っていることは秘密だということ。
そんな東堂が毎日のように"巻ちゃん"に電話するもんだから、浮気なんじゃないかと俺を訪ねてきたこと。
すごい剣幕だったのはそういうことか。
全ての行動に納得が行くと、不信感は消え失せて何だか可愛く見えてきた。
東堂のこと、よっぽど好きなんだな。
そんな真っ直ぐな思いに、俺は少し惹かれた。

「なぁ。」
「うん?」
「連絡先、交換しとくショ。そっちじゃ誰にも話せなくても、俺なら聞いてやれるショ。」
「い、いいの?東堂くんには内緒だよ……?」
「別に構わないショ。東堂はまぁ……あいつが勝手にかけてくるだけだから気にすることないショ。」

"ありがとう"そう言って笑った顔に、ドキリとした。
いや、東堂の彼女だろ。
そう自分に言い聞かせて、俺は門まで小鳥遊さんを見送った。



それから毎日のように、メールが来た。
けど俺はいつも長く綴られているそれに返事をするのが面倒で、つい電話をかけてしまった。
最初は戸惑っていた小鳥遊さんもいつしか電話することに慣れ、よくかかってくるようになった。
そんな俺たちが名前で呼び合うようになるのにそう時間はかからなかった。

「でね、祐介くんはどう思う?」
「あー、そりゃ東堂が悪いショ。」
「だよねー。せっかく約束してたのにさぁ……何か最近うまくいかないことばっかりだよ。」

落ち込む雛美を元気付けたくて、あれこれと考えを巡らせる。
けどどうやっても東堂との仲を取り持つことは気が進まなかった。

「今度の土曜、空いてるか?」
「うん?特に何もないよー。東堂くんは部活の後ファンクラブの子たちと何かあるって言ってたし。」

電話越しでも拗ねているのがわかる。
そんな所が少し可愛いと思いつつも、想われているのが自分で無いことにもどかしさを感じていた。

「こっちに遊びに来ないか?色々案内するショ。」
「ほんと?行こうかなー、東堂くんも他の女の子と遊ぶんだし……いいよね?」
「たまにはそういうのもいいショ。」

思ったよりも乗り気なことに安堵して俺は約束を取り付けた。
今度の土曜日、また会える。
そのことが俺を後押しするかのように、その週はいつもよりタイムが伸びた。



土曜日、駅まで迎えに行くと雛美に肩を
たたかれた。

「祐介くん、おはよ!」
「おう、はよ。」

振り向くと可愛らしいワンピースを着た雛美が、にっこりと笑っていた。
前回は制服だったためかあまり目立たなかった体のラインが出ていて、鼓動が早くなった。
着痩せするタイプかよ。
にこにこと笑うその笑顔に、顔が熱くなる。

「大丈夫?どうかした?」
「な、何でもないショ。行くか。」
「うん!」

並んで歩ける嬉しさと、"友達"だからこその距離感が切なくなる。
手を伸ばせば、触れられる。
けど、手を伸ばさなければ絶対に触れることはできない。
触れてしまえば、この関係が変わってしまうかもしれない。
拒絶されるのが怖くなり、俺は手を引っ込めた。

「どっか行きたいとこあるのか?」
「うーん、ボーリングとか!」
「なっ……それなら別にこっちじゃなくても出来るショ。」
「うん、でも祐介くんと行きたい。」
「……反則だろ。」
「え?なんて?」

笑ってそんなことを言われて、期待しない男がいるんだろうか。
それでも無邪気に笑う雛美に警戒されたくなくて、俺は何でもないふりをした。
時折東堂の愚痴をいいつつも、今日は機嫌がいいのかずっと笑っている。
ボーリング、カフェ、カラオケ。
雛美が行きたいというままに、俺はそれに付き合った。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまい、気がつけばもう日は沈み、見送らなくてはならない。

「今日はありがとね。すごく楽しかった。」
「こっちこそ、来てくれてありがとな。」
「あのさ。」
「何ショ?」
「また、遊んでくれる?」

控えめにそう告げて俯く姿に、胸が痛んだ。
ぎゅっと押しつぶされるような痛みで、息苦しくなる。

「……当たり前っショ。今度は俺が行く。」
「ほんと?楽しみにしてるから!」

俺の言葉に跳ねるように喜ぶ姿に、さっきとは違う心地いい痛みが広がる。
キュン、とでも言うんだろうか。
俺はそのときはっきりと自分の気持ちを自覚した。
相手は東堂の彼女だ。
思いを告げることは叶わないかもしれない。
けど、思うだけなら。
俺にはその日、秘密ができた。



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