想いの先に/50000hit記念(マホ様リクエスト)


視線の先にの続編です※





荒北くんと時々本の話をするようになってずいぶん経った。
夏休み中も図書館へ通う私の元へ度々訪れては、いつも話を聞いてくれる。
話すのはいつも私ばかりで何だか申し訳ないと言えば、読むのは苦手だからと躱されてしまう。
ただ2人で会う時の荒北くんはとても優しい目をしていて、教室で会う時よりずっと穏やかに見えた。
そんな彼と会えるのが嬉しく思う反面、ドキドキとしすぎてどうにかなりそうだった。
そんなある日、いつものように図書館で本を読んでいると荒北くんが何やらプリントを数枚ひらひらとさせながらやってきた。
私の向かいに座ると、何も言わずにじっとこちらを見ている。
そっと本から視線を荒北くんに移すと、困ったような顔をしていた。

「あのさァ、教えて欲しいンだけどォ……。」

そう言って控えめに差し出されたプリントは、夏休みに出た課題の一部だ。
提出期限は過ぎたはず……そう思い荒北くんを見ると、頭を抱えていた。
そんな姿につい、クスリと笑いが漏れてしまう。

「笑い事じゃねェよ。」
「ごめんね、どこからやろうか?」
「全部わかんねェんだよ。」

そう言って投げ出されたプリントは所々書き込みがしてあって、荒北くんなりに頑張ったのがわかる。
私は本を閉じて立ち上がると、荒北くんの隣に座り直した。
それなのに荒北くんはと言えば、席を立ち上がろうとする。

「どこ行くの?」
「いや……近ェだろ。」
「正面にいるよりこっちの方が教えやすいよ。それにほら、一応図書館だから。」

学校の図書館だとはいえ、周りには勉強していたり読書している人がたくさんいる。
小さな声とは言え、話し声は目立ってしまう。
荒北くんは小さく舌打ちをすると席に座り直した。
教えて行くと、荒北くんは基礎はしっかり出来ているようだった。
ヒントを出せばするすると解いていくので、私は要点だけ説明してあとは荒北くんに任せることにした。
本を開き、さっきの続きを読み始める。
楽しみにしていた新作だっただけに面白くて、ついつい時間を忘れて読み進めてしまった。
気がつけばずいぶん時間が経っていて、隣で荒北くんが机に突っ伏したままこちらを睨んでいた。

「あ、ごめん。終わった……?」
「30分前に終わったァ。」
「じゃ、次のプリントしよっか。」
「……なァ。」
「うん?」
「……何でもねェよ。」

いつもより声のトーンは低くて、機嫌が悪そうだ。
待たせてしまったから怒ってるのかな。
もう一度要点を説明すると、私はスマホでタイマーをかけて本を開いた。
これなら待たせることはないはず。
クライマックスに差し掛かった所でスマホが震え、時間を教えてくれた。
隣の荒北くんを見ると、プリントは途中なのにまたこちらを睨んでいる。

「わからないところあった?」
「別にィ。」

それだけ言うと、荒北くんはまたプリントに視線を戻した。
どうしたんだろう。
荒北くんの思いがわからずに困惑していると、ちらりとこちらを見てシャーペンを置いた。

「悪ィ、何でもねェからンな困った顔すんじゃねェよ。」
「え、でも……。」
「何でもねェって。」

ニッと口角を上げて笑うと、くしゃりと私の頭を撫でた。
図書館で人気は少なめとはいえ、人前でそんなことをされたのは初めてで、私は体を仰け反らせてしまった。
そんな私を見て荒北くんはクツクツ笑い、とても楽しそうだ。
何だか悔しくて頬を膨らませてしまった私に、荒北くんはとても優しい顔で笑った。

「なァ、俺でも読める本教えてくれよ。」
「え?」
「あんま長くねェやつ。」

そう言いながら伸びてきた手は、優しく私の頬を撫でた。
触れるか触れないかのその指はくすぐったくて、なんだか恥ずかしい。
顔が熱くて、心臓がドキドキとうるさい。
あの日のように、周りの音が聞こえなくなっていく。
そんな私の手を取り立ち上がると、荒北くんはニッと笑った。

「どれが面白ェ?」
「あ、えっと……。」

回らない頭で必死に読みやすそうな本を考える。
短めで、面白くて、荒北くんでも読めそうなの……。
思い出しながら歩みを進めると、荒北くんは私の後をついてきた。
確か、この辺り。
そう思って見上げた本棚には目当てのものが確かにあった。
だけど前と位置が変わってしまったのか、一番高い段に置いてある。
何とか届かないかと背伸びをしていると、ふっと暗くなり私の頭上に手が伸びてきた。

「コレェ?」
「あ、うん。」

それは荒北くんの手で、私が取ろうとした本を容易く抜き取って行った。
荒北くんは本をまじまじと見つめている。
さっきまで、くっつくくらい近くにいたのかと思うとまた心臓がうるさくなった。
荒北くんに聞こえてたりしないだろうか。
そんな不安を抱えつつちらりと荒北くんを見ると、目があった。
ふっと優しげに笑う姿に、さらにドキドキとさせられる。

「あ、荒北くんも本読むんだね!」
「いつもは読まねェよ。漫画くらいじゃねェの。」
「え?じゃぁどうして……」
「小鳥遊が好きなもんだからなァ、たまにはいいだろ。そーいうのも。」

"へへっ"といたずらっぽく笑う姿に、私はもう何も考えられなくなる。
私、荒北くんが好きだ。
好きで好きでたまらなくて、胸が苦しい。
俯いてしまった私の顔を、荒北くんが覗き込んできた。
こんな顔見られたくない、そう思って背けたのに荒北くんに両手を掴まれてしまった、
ばさりと本の落ちる音がする。

「おいっ。」
「な、なに……?」
「何じゃねェよ、何で泣いてんだよ。」

気がつけば私の目からは涙がボロボロとこぼれていて、どんなに唇を噛み締めても止まってくれない。
拭おうにも手は荒北くんに掴まれたままで言うことを聞かない。

「は、はなしてっ。」
「言うまで離さねェ。」
「だ、大丈夫だから。」
「ンなわけあるか。」

押し問答をする私に痺れを切らしたのか、荒北くんは私を引き寄せると抱きしめた。
始めてのことにパニックになる私を、荒北くんはさらに強く抱きしめる。
ふと、ドキドキとなる鼓動が二つに増えたことに気づいた。
どちらもとても早くて、その片方が荒北くんの物だと気づくのにそう時間はかからなかった。

「悪ィ、何か気に入らねェことしたなら謝る。」
「そんなんじゃっ!」
「じゃぁ、何で泣いてんだよ。」

悲しげな声が、胸を締め付ける。
言わなければ、そう思うのに恥ずかしさが先立ってしまう。

「だ、大丈夫だから……。」
「俺のこと嫌いかよ。」
「ちがっ……違うの、そうじゃないの。私、荒北くんが……。」

止まりかけていた涙がまた溢れ出す。
私の想いに重なるように、ボロボロと溢れて止まらない。
それでも荒北くんは私を抱きしめたまま、背中を優しく撫でてくれた。
この優しさに、私は応えたい。

「私、荒北くんが好き……好きなの。止められないの……。」
「……何か問題あんのかよ。」
「だ、だって迷惑でしょ?私こんなだし、可愛くないし、根暗だしっ……。」
「俺がいつそんなこと言ったんだよ。」
「言ってないけど、でもっ」
「おい、俺を見ろ。」

泣きじゃくる私をそっと離すと、荒北くんは私の頬を挟んだ。
こんな顔見られたくない。
俯こうとする私の顔を、荒北くんは自分の方へと向ける。

「俺を、見ろ。」

真剣な目が、私を捉える。
そしてゆっくりと言い聞かせるように、口を開いた。

「俺も好きだ。」
「……え?」
「好きじゃなきゃ会いにきたりしねェ。」
「え、でも」
「アー、クソ。でもとかいらねェんだよ、いつも読んでるくせにわかんねェのォ?」
「ご、ごめ」
「違ェだろ。好きだっつってんだからァ、もっと言うことあんだろ。」

気がつけば真っ赤になった荒北くんは、まくしたてるようにそう言った。
いつもなら怖いと思うはずなのに、今はそれどころじゃない。
頭の中がパニックで、真っ白で。
ただ一つ浮かぶのは、荒北くんへの想い。

「す、好きです!付き合って下さいっ。」
「おう。」

やっと笑った荒北くんは、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
少し荒っぽいその手がとても愛しく思うのは、きっと荒北くんだからだ。
包み込むような優しさをくれる荒北くんを、いつか私が包み込めるようになれますように。



************************************
マホ様より「視線の先に」の続編で、図書館デート
というリクエストを頂き書かせて頂きました。
いつもは怖い荒北さんが、ヒロインちゃんは優しい顔になってしまう……そんなお話にさせて頂きました。
遅くなってしまい申し訳ありません。

お気に召して頂ければ幸いです。
リクエストありがとうございました!


+++++++++++++++
来てくださる全ての方へ
50000hitありがとうございます!
これからもよろしくお願い致します。


Hit記念


story.top
Top




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -