ルリマツリ-1-(凛音様リクエスト)



高校に入って俺の視線を奪ったのは、一人の女の子だった。
本当に同い年なのかと思う程幼い容姿に、それを引き立たせる身長。
ゆるくうねる長い髪は、彼女にとても似合っていた。
あまり喋る方ではないがころころと変わる表情はどれもとても魅力的だった。
気がつけば目で追っていて、ふとした瞬間に姿を消してしまう。
小さいからか、その姿はよく人混みに紛れてしまった。
最初は好奇心だったはずだ。
目新しい存在に興味があるだけだと思っていたのに、それは気付けば半年も続いていた。
そして好きなんだと気づいてからは早かった。
どうしても俺のものにしたい。
その思いは寝ても覚めても俺を支配し続けて、気がつけば教室のど真ん中で告白していた。

「小鳥遊さん、好きだ。」
「……うん?」
「付き合ってくれ。」

俺の言葉を聞いた小鳥遊さんは顔を真っ赤にして目を見開いていた。
今まで見たことのない表情に胸が弾んだ。
けど返ってきた言葉は俺を打ちのめすものだった。

「……ごめんなさい。」

小鳥遊さんは俯くと、小さな声を振り絞るようにそう告げて教室から出て行ってしまった。
その時教室中の視線が俺に向いていることに気づいた。
さすがにこの状況じゃ、上手く行くもんも行かねぇか。
俺はそれからと言うもの、小鳥遊さんにアプローチし続けた。
好きだと言えば顔を強張らせる彼女に、気持ちを口にせずアプローチするのは大変だった。
最初はどうでもいい話すらあまり乗り気じゃなかった小鳥遊さんも、3ヶ月もすると笑ってくれるようになった。
そして俺は彼女を裏庭に呼び出して二度目の告白をした。

「小鳥遊さん、やっぱ俺君が好きだ。」
「……あ、猫。」
「えっ?あっ……。」

俺の言葉が届かなかったんだろうか。
小鳥遊さんは近くにいた猫の方へ歩き出すと、じゃれてくる猫と遊び始めた。
俺は慌ててそれを追いかける。

「なぁ、小鳥遊さんっ」
「しー。この子、びっくりしちゃう。」

そう言いながら愛しそうに猫を撫でる姿が、俺の鼓動をさらに早めた。
その顔、俺に向けてくれねぇかな。
そう思いつつ今度はそっと近寄って、小鳥遊さんのそばへしゃがみ込んだ。

「この子ね、半年くらい前からここにいるの。時々遊ぶんだよ。」
「そうなのか、可愛いな。」
「うん。それでね、私……。」

さっきまで優しく微笑んでいた小鳥遊さんは俯くと、言葉に詰まった。
あぁ、きっとまた振られる。
すると、小さな声が囁くように聞こえてきた。

「私、新開くんのこと嫌いじゃないよ。」
「……えっ?」
「嫌いじゃ、ないよ。」

顔を覗き込もうとすると故意に避けられた。
小鳥遊さんは猫を抱き上げると、俺に背中を向けて立ち上がった。
俺も慌てて立ち上がると、真っ赤になった耳が目に入る。
それって……。

「付き合って、くれるのか?」
「……しつこいのはきらい。」

拗ねたように唇を尖らせる姿は本当に可愛くて、思わず抱きしめたくなる。
だけどここで失敗する訳にはいかない。
俺はぐっと堪えて、笑って見せた。

「これから、よろしくな!」
「うん。……じゃぁ、教室戻るね。」
「一緒に行かないか?」
「もう少ししたらね。」

恥ずかしがりの彼女はそう言って猫を離すとさっさと戻って行ってしまった。
嫌われてなかったことの安心感と、受け入れてもらえた喜びで体のうずきが抑えられない。今日はいいタイムが出そうだな。




その日から随分日が経ったはずなのに、俺たちの関係は殆ど進展していない。
変わったところといえば、名前で呼ぶようになったことくらいだろうか。
追いかける俺と、逃げる雛美。
そうして気がつけば、出会ってから一年が経っていた。
二人きりになる度に距離を詰めようとしてきた。
けど触れようと伸ばした手はいつも、するりとかわされてしまう。
嫌われたのかと思えば、俺を見て嬉しそうに笑っている。
その髪のように、雛美自身もふわふわとして見えた。
その姿は次第に不安を募らせて行った。

「なぁ、俺のことどう思ってるんだ?」

伝えた想いに見合うだけの返事を、未だかつてもらったことがない。
そう思い始めた俺は、つい口を滑らせた。
本当はこんなことが言いたいんじゃない。
ただ好きだと、その口から聞きたかっただけだ。

「どう、って?」
「俺たち、付き合ってるんだよな……?」

きょとんとして不思議そうに首を傾げる雛美に、苛立ちを感じてしまう。
はっきり口にしてくれてもいいだろう?

「隼人くんはどう思ってるの?」
「好きに決まって……すまねぇ、この話はやめるよ。」

自分ばかり。
好きだと伝えるのも、触れようとするのも、近づきたいと思うのも。
全てが俺ばかりで、思いはいつも一方通行だ。
これが答えなんだろうか。
もしそうだとしたら、今はまだそれを受け入れる覚悟はない。
決定打をもらう前に、俺は話を切り上げた。
そんな俺を見て雛美はクスクスと笑って髪を掻き上げた。
その姿がキラキラと輝いていて、俺の目に焼き付いた。
まだ俺に笑顔を向けてくれるなら。
自分から壊すことは、出来なかった。



next→

カウンター記念


story.top
Top




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -