補う



隼人と付き合い始めてから3ヶ月。
前から仲が良かったのもあり、付き合ってからもあまり変わらない生活をしていた。
最初はいろいろ期待をしていた。
夏だし、海とかプールとか……だけど忙しい隼人にはそんな余裕はない、
毎日練習でくたくたになっているのに私のワガママなんて言えなくて、私は仕方が無いんだと自分に言い聞かせていた。
そんなある日、隼人から一通のメッセージが届いた。
"週末BBQしよう"
その内容に飛び起きた私は、慌てて隼人に電話をかけた。
数コールしてから、優しい声が響く。

「お、メッセ見た?」
「見たよ!っていうかどういうこと?」
「前から予定はしてたんだけど忙しくてながれちまっててさ。丁度週末ならみんな時間あるっていうから。雛美もくるだろ?」

せっかくの休みを私とのデートではなく友人たちとの遊びに使う。
そのことに少しばかりショックを受けつつも、そんな隼人だから私は好きなんだと再確認した。
電話の向こうは少し騒がしくて、部活の合間だったのかもしれない。
手短に済ませようと、私は要件だけ伝えた。

「わかった、行くよ。場所と時間と準備するもの、後で送っておいて。あーあと!誰が来るかも。」
「わかった。また後で連絡するな。」

切れた電話を見ながら、一人ため息をついた。
BBQかぁ。
久々のお休みなのだから可愛い格好をしたかったけど、アウトドアには不向きだろう。
私はBBQに向けて服を買いに行くことにした。



何とか買い物を終えると、隼人からメッセージが届いた。
メンバーは部活の3人と私たち。
持ち物は特になしって……。
どうやら隼人が車を出してくれるらしい。
私はBBQにあると便利そうなグッズを探してついでに買って帰ることにした。




そして当日、朝から迎えに来てくれた隼人の車に乗り込み私たちは川辺へ向かった。
そこはとても綺麗な場所で、水着を持ってくれば良かったと少し後悔した程だ。
そんな私とは違い、お腹を空かせた隼人たちは早速火を起こし始めた。
お肉を準備している友達を手伝おうとすると、包丁がどこにも見当たらない。

「隼人、包丁は?」
「えっ、いるのか?」
「だってこのとうもろこし切ってないし……ていうか野菜全部そのままじゃん……。」
「……なんとかならねぇ?」

出てきた野菜はすべてカットしてないどころか皮もむいていない。
まさかここまでとは思わず私は頭を抱えた。
さすがに皮くらい……いやでも隼人だし……。
食べる専門の人に準備を任せた私も悪い。
一応持ってきたペティナイフで切ることは出来るものの、まな板がなくてやり辛い。

「雛美ちゃん準備がいいね。」
「うーん、使わないかもと思って小さいのにしちゃって。ごめんね。」
「いやいや、あるだけありがたいよ。」

そんな会話をしていると、いつの間にか火を起こし終えた隼人が後ろから覆いかぶさってきた。

「ちょ!危ないって。」
「悪いな、色々させちまって。」
「それはいいけどさぁ。」

スリスリと猫のように頬ずりされて、恥ずかしい反面ちょっと嬉しくて反応に困ってしまう。
そんな私をみて隼人はニヤリと笑って離れた。

「焼けるやつから焼いてこうぜ、腹減っちまった。」
「うん、じゃぁこっちお願い。」

近くにあったお肉を渡すと、隼人は嬉しそうに受け取った。
"全部一気に焼かないでね"と付け加えた言葉は聞こえなかったのか、少しすると次々に焼けたお肉が運ばれてくる。

「ちょっと!野菜も焼いてよ?」
「わかってるって。」
「一気に焼かないでよ!」
「まだまだあるから大丈夫だって。」

浮かれきった隼人は結局早々にお肉を焼き切ってしまい、あとには野菜だけが残されてしまった。
生野菜が乗ったお皿を持って、隼人は申し訳なさそうにやってきた。

「残っちまった。」
「だからあれほど言ったのに。」
「俺はどうしたらいい?」
「別に野菜だけ焼いて食べてもいいけどね。まぁこれあった方がいいでしょ。」

そうしてカバンから焼きそばとソースを取り出すと、隼人の目が輝いた。

「やり方わかる?」
「大丈夫だ、まかせろ!」
「本当に?」
「信じてくれよ。」

そう言って自信たっぷりに隼人は戻って行った。
網だけじゃなく鉄板もあって良かった。
そう思いつつ、大きな愛しい背中を眺めた。
いつも少し抜けていて、困った顔で助けを求めてやってくる。
その姿がとても可愛くて、何よりその相手が自分であることが嬉しかった。
これからも隼人に頼られるような存在でいられたらいいな。

その10分後、焦げた焼きそばを涙目で持ってくる隼人に私は笑うしかなかった。



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