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部屋に戻るとみんなそろっていて、料理が並び始めていた。
慌てて席に着くと、雪ちゃんが小さなお酒の瓶を持ってやってきた。
小さなお猪口を手渡されて、とくとくと心地のいい音をさせて注いでくれた。

「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう。でも私以外誰も飲めないよね……?」

全員私より年下のはずで、私はギリギリ成人している。
不思議そうに首をかしげた私に、隼人くんはクスリと笑った。

「相手が欲しいなら、ジュースで付き合うよ。」
「あ、ううん。そういうんじゃないんだけどね。私も凄く弱くて……どうしてあるのかなって。」

元々お酒が得意じゃないのは靖友くんだって知っている。
だからこの場にお酒があるのがとても不自然に感じてならなかった。
だけどそれは、雪ちゃんの提案だったらしい。
お土産物屋さんでお父さんのお酒を選んでいたところをばっちり見ていたそうだ。

「なんだ、雛美姉が飲むんだと思ってた。」
「自分用だったらこんないいお酒買わないよ?」
「まぁ酒弱そうだしな。」
「つーか弱ェんだからあんま飲ますんじゃねェよ。」

それでもせっかく持ってきてくれた上、すでに封も空いている。
雪ちゃんが持ってきてくれた小さな瓶一本分だけ。
そう言う約束で私はみんなと乾杯した。
さすがに最初から日本酒は少し辛くて、喉がぎゅっと締まるような感じがする。
顔をしかめた私を靖友くんが心配そうに覗きこんできて目が合った。

「大丈夫か?」
「ん、だいじょうぶ……あ、でもこれ少しフルーティで飲みやすいかも。」
「女性にも人気のある物を選んでおいたのだ!気に入ってもらえただろうか。」
「うん、お酒苦手って思ってたけどこれは結構好きかも。ありがとう。」

後味が少し甘くて、でもさっぱりしていて飲みやすい。
お風呂でのほてりが戻ってくるように、少しずつ熱くなってきた。
私は着ていた上着を一枚脱ぐと、隼人くんが残念そうに眉を下げた。

「なんだ、雛美ちゃん浴衣着てないのか。」
「え?あ、うん。みんなと一緒の部屋で寝るし、着崩れちゃったら恥ずかしいから……。」
「気にすることないよ雛美姉。ちっちゃい時は風呂も一緒に入ったんだし。」
「いやいや、そんな十数年前と一緒にしないでよっ。」

慌てる私を見て雪ちゃんは意地悪そうに笑う。
何だか高校生になった雪ちゃんは、年下に思えなくてちょっと困る。

「靖友も浴衣の方が良かっただろ?」
「アァ?俺は別に……。」
「え、じゃぁ着替えて来ようかな?」

立ち上がろうとする私の手を靖友くんが掴んで座らせた。
そして頭をペチンと軽く叩かれた。

「別にいいっつってんだろ!その……着物も見たし、浴衣はまた今度な。」

何だか頭が上手く回らなくて、ふわふわする。
だけど靖友くんが怒っているわけじゃないのはわかった。
少し赤く染まった耳がそれを教えてくれる。
そんな姿が可愛くて私はつい身を寄せた。

「うん、ごめんね。」
「つーか近ェ。」
「やだった?」
「嫌とかじゃねェけど……。」

靖友くんを見上げると目は合ったはずなのに、すぐに逸らされてしまう。
よくわからずに見つめていると、今度はデコピンされてしまった。

「見すぎだからァ。」
「穴あく?」
「空かねェよ!」

押しのけるように元の位置に戻らされ、それが少し残念だ。
せっかくくっついていた所から靖友くんの体温が伝わって気持ち良かったのに。
少ししょんぼりしていると、不意に後ろから引き寄せられた。
私はバランスを崩して倒れ込んでしまう。

「うあっ。」
「荒北さんじゃなくて俺のとこくれば。」

そう言って私を覗き込んでいるのは雪ちゃんで、どうやら引っ張ったのも彼らしい。
クスクスと嬉しそうに笑う姿はやっぱり少し意地悪そうで、それが少し寂しかった。
昔はもっと優しい子だったのに、反抗期かなぁ。

「雪ちゃんとこって?」
「まぁ、もう来てると思うけど。」

そう言われて自分が今どこにいるのか確認しようと起き上がろうとしたとき、そのまま手を引かれて靖友くんの胸元に収められてしまった。
じんわりと伝わってくる体温と、ドキドキと少し早い鼓動で頭がいっぱいになる。
ふわりと香る靖友くんの匂いはいつもと違う石鹸の匂いがして、それが何だかおかしかった。
クスクスと笑う私をよそに、靖友くんは雪ちゃんに噛みついた。

「テメーいい度胸してんじゃねェか。」
「いらないなら下さいよ。」
「いらねェなんて言ってねェだろ!」

2人が言い争っている声が、少しずつ遠のいていく。
ふわふわとした頭のそれが体にも伝わったのか、宙に浮いたような心地よさに変わる。
靖友くんの声がうっすらと聞こえる。
体温が伝わったところはいつの間にか同じくらいの温度になっていて、もうどこまで自分なのかわからない。
速かったはずの鼓動はいつの間にか落ち着いていて、とてもいい気分だ。
ゆっくりと目を閉じた私は、そのまま意識を手放した。

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