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その後はみんなで東堂くんが持ってきてくれたボードゲームで遊んだ。
色々裏をついて攻撃してくる靖友くんと雪ちゃんは強いし、天然なのか福富くんと新開くんは豪運の持ち主でとても強くて。
泉田くんはスマートながらも隙のないプレイをするし、東堂くんは持ち主なだけあってゲームをよく理解していた。
そんな中で勝てるはずもなく、結局私は負けっぱなしで罰ゲームをする羽目になってしまった。

「じゃぁ雛美ちゃんは上位三人の命令1個ずつ聞くってことで。」
「えー……みんな容赦ないなぁ。」
「雛美姉って昔からゲーム類弱かったよな。」
「じゃぁ雪ちゃんと東堂くん、あとは福富くん?」

靖友くんは私に対してだけ少し手を抜いてくれたおかげで、それほど順位は高くはない。
この中で一番問題なのは多分雪ちゃんだ。

「俺の願いは……そうだな。雛美ちゃんには今から全員を下の名前で呼んでもらおう!その方が仲良くなれそうだろう?」
「えーと……じゃぁ、尽八くん?」
「うむ!じゃぁ次はフクだな!」
「む、命令や願いと言われても……。」
「何でもいいのだぞ?」
「それテメーが言うことじゃねェだろ。」

暫く悩みこんでしまった福富くんは後回しにして、先に雪ちゃんの願いを聞くことになった。
勝った時から目をらんらんと輝かせていたのだから、多分もう決まっているんだろう。
恐る恐るその願いを聞くと、嬉しそうに笑った。

「今日はみんなでここで雑魚寝しませんか?」
「「「「「「えぇ?」」」」」」
「ユキ、それはさすがに……外泊届も出してないだろ?」
「今から出せばいいだろ?」
「7人分の布団か……少し手伝ってもらうことになるぞ。」
「おい、俺らの寝る場所狭くなんじゃねェか!」

靖友くんの友達とはいえ、男の子6人と雑魚寝かぁ……。
少し気が引けつつも、この部屋は一部屋ではない。
この広い部屋でみんなに寝てもらって、私は隣の小さ目の部屋で寝ることを条件に私はその命令を聞くことにした。

「じゃぁメシもこの部屋の方がいいよな。」
「そうだな、こっちに運ぶよう伝えておこう。」

着々と話が進んでいく中、雪ちゃんと泉田くんは一度寮に戻り外泊届を出すという。
その間新開くんと福富くんは布団の準備を、東堂くんは旅館の方へ話を伝えてくれるそうだ。
”雛美ちゃんが疲れてるだろうから”と私と靖友くんは部屋で待機させてもらえることになった。
その配慮はとても有難い。
彼氏と幼馴染が一緒とはいえ、初めて会う人とずっと一緒に居るのはさすがに少し疲れる。
みんなが部屋を出て行ってから、私はころんと床に寝そべった。
小さなため息をつくと靖友くんはクスリと笑い、膝をポンポンと叩いた。

「こっちこいよ。」
「うん。」

促されるままに靖友くんの膝に頭を乗せる。
頭からじわりと伝わる体温が心地よくて私はそのまま目を閉じた。
靖友くんの手がゆっくりと私の頭を撫でているのが眠気を誘う。

「ねぇ。」
「どうしたァ?」
「連れてきてくれてありがとう。」

普段見れないような靖友くんがたくさん見れた。
仲良さそうで、楽しそうで見ていてとても幸せを感じた。
ふっと目の前が暗くなった気がしてそっと目を開けると、靖友くんの唇が私のそれに重なった。

「来てくれてあんがとねェ。」

そう言いながらニッと笑う靖友くんはとても嬉しそうで、見ているだけで幸せな気分になる。
みんなが戻ってくるまでもう少し時間があるというので、私はそのまま目を閉じた。
私が眠りに落ちるまで、優しい手が離れることはなかった。





暫くするとガヤガヤと少し騒がしい音で目が覚めた。
起き上がろうと体勢を変えると、靖友くんの優しい声が降ってくる。

「起きたァ?」
「ん、おはよー。」
「もう夜だけどォ。」

そう言いながらもくしゃくしゃと頭を撫でてくれた。
辺りを見回せば、布団やらゲームやらが置かれている。
どうやらもうみんな帰ってきているらしい。

「ごめ、寝すぎちゃった。」
「気にすんな。今から風呂いくけど、雛美はどうする?」
「行くー。」

私たちの布団を準備してくれている仲居さんに声をかけて、私たちは部屋を出た。
福富くんたちは既に温泉に行っているらしく、私たちが最後らしい。
もう一度靖友くんに謝るとクスクスと笑われた。

「よっぽど疲れてたんだな。」
「うー、ちょっと早起きだったし……。」
「責めてねェからァ。」

そんな話をしながら靖友くんは檜風呂へ、私は露天風呂へ向かった。
家族風呂があったらよかったかもなんて考えが頭をかすめて、ブンブンと首を振った。
色々あり過ぎて私は少しパンクしているらしい、あんな恥ずかしいこと考えるなんて。
頭の中を整理するためにも、私は温泉へ急いだ。




露天風呂は本当にいい眺めでとても気持ち良かった。
他のお客さんもいなくて独り占めだったのもあり、ちょっと長湯しすぎてしまったようだ。
のぼせた体は自分を支えるのがやっとで、足元がふらついてしまう。
私は近くの椅子に座ると靖友くんにメッセを送った。
スマホをしまおうとすると電話がかかってきて、驚いた拍子に通話をタップしてしまったらしい。
すぐに繋がった通話からは心配そうな声が聞こえてくる。

「今どこにいんだ?迎えに行くから待ってろ。」
「大丈夫だよ、ちょっと休めば歩けると思うし。」
「無理すんじゃねェよ。いいから甘えとけ。」

心配をかけてしまったことを申し訳なく思いながらも、その気遣いがとても嬉しい。
私は靖友くんの言葉に甘えることにした。
居場所を伝えて10分もしないうちに、靖友くんは少し息を切らせながらやってきた。
急いできてくれたんだろう、少し汗ばんだその体からはふわりと靖友くんの匂いがして心地いい。

「大丈夫か?」
「ん、ちょっと楽しみすぎた。」
「気持ち良かったァ?」
「うん、とっても!靖友くんもあとで入るといいよ。」

もう少しで男女交代の時間だ。
だけど檜風呂は行けそうにないなぁ、そうこぼす私に靖友くんはクスリと笑う。

「明日の朝、檜風呂は女湯だってよ。」
「え、ほんと?」
「東堂に聞いといた。だから明日行けばいいじゃねェか。」
「うんっ、そうするー。」

他にも岩風呂や岩盤浴が出来るらしいけど、さすがに全部は回れそうにない。
残念がる私の頭を靖友くんがポンポンと優しく撫でてくれる。

「また来ればいいだろ。」
「また一緒に来てくれる?」
「おう。」

2人の時しか見せないこの優しい顔は、きっと私だけのものだ。
それがとても嬉しくて、私の口元は自然とほころんでいく。
そんな私を見て靖友くんはそっとキスしてくれた。
慌てて周りに誰もいないか確認したけど、どうやら大丈夫だったらしい。
普段外でこんなことしてくれることなんてないから、やたらドキドキする。
そんな私のことを知ってか知らずか、靖友くんは私の手を引いて歩き出した。
その歩みはいつも以上にゆっくりで、私を気遣ってくれているのがわかる。
私にとても優しくしてくれる靖友くんに、私ももっと優しくしたい。
そんな思いが一層強くなった。


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