27




雛美と待ち合わせた駅は年始にも関わらず人でごった返していた。
既に駅についていると連絡はあったものの、どこから探していいかわからない。
歩き回ると余計見つからないだろうか。
目印になりそうな物も見当たらず、とりあえず壁際まで歩いていく。
するとふわり、と雛美の匂いがした。
慌てて目で追うが、どこにいるかはわからない。
仕方なく匂いのする方に向かって歩くと、匂いの元を見つけた。
着物姿のそいつが本当に雛美なのか不安になる。
それでも俺の鼻に間違いはない。
俺はその名を呼んだ。

「雛美!」
「靖友くん!」

振り返ったその姿に息をのんだ。
艶やかな着物にいつもより少し濃い色合いの唇が色っぽい。
それでも笑った姿は雛美そのもので、安心する。
”あけましておめでとう”という挨拶を交わして、お互いクスリと笑った。

「一瞬誰かわかんなかった。」
「え、変かな?お母さんに着付けてもらったんだけど。」
「すげェ似合ってンよ。」

いつもの可愛い感じとはまた違って、これはこれで妙にドキドキさせられる。
一泊だったというのに重たそうなその荷物を奪い取ると、俺はその手を掴んだ。
いつもと服装が違うだけでこんなにも落ち着かないものなんだろうか。
歩きにくそうな雛美の為にいつもよりゆっくり歩くと、俺を見上げてにこりと笑う。
そんな些細なことで胸がぎゅっと締め付けられた。
着物効果ヤベェ。
じっと見ていると我慢できなくなりそうで、俺は前を見て歩いた。




初詣に行くと駅よりも人で溢れかえっていた。
着物姿の人も多く、もし見失ったらすぐには見つけられないかもしれない。
そう思っていると手をぎゅっと握られた。

「離さないでね?」
「ハッ、当たり前だろォ。」

困ったように俺を見上げる顔に、息をのむ。
頼むからあんまこっち見んな、マジ心臓に悪ィ。
出来るだけ離れないように引き寄せて、人にぶつからないように隙間を縫って歩いた。
参拝の列までくるとみんなきちんと並んでいるおかげで少し余裕が出来る。
俺は雛美の顔を覗き込んだ。

「雛美は何お願いすんのォ?」
「お願い?」
「カミサマに。」

初詣と言えばお願いだろう。
今年願うことは決まっている。
雛美も同じだといいと思いながらもそう尋ねると、雛美はクスリと笑った。

「初詣はね、お願いにくるんじゃないんだよ。」
「えっ、そうなのォ?」
「うん、成したいことの宣言をして、頑張るので見守ってくださいって宣言する感じ?だから普通のお願いとはちょっと違うかなぁ。」
「へぇ。でもそれなら俺には大差ねぇな。」
「うん?」
「神頼みに来たわけじゃねぇし。自分が頑張って手に入れた方が何倍も嬉しいモンだろ?」

拝んだくらいで全部叶うような簡単な思いなんて俺にはない。
そんな話をしていると俺たちの番がきて、賽銭を入れた。
”雛美を幸せにするんで、勝手に傷ついたりしねぇように見守ってて下さい”
顔を上げると、雛美と目がった。
どちらからともなく手を絡めると、今度はお守りを買いに行った。
買うなら健康祈願、か。
そう思いながら薄いグリーンのソレを手に取った。
すると雛美は自分が買ったであろうお守りを一つ俺に差し出した。

「はいこれ、靖友くんに。」
「くれんの?」
「うん、お守りは自分で買うより人からもらう方がいいんだよ。」
「そっかァ……悪ィ、これあんま可愛い色じゃねぇけど。」

自分用に選んだそれを手渡すと、雛美はにっこりと笑う。

「大丈夫だよ、靖友くんの願いが込められてるんだもん。大事にするね、ありがとう。」
「ん、俺もあんがとネェ。」

自分の為に選んでくれた、それが嬉しくてたまらない。
絶対幸せにしてやる。
俺はそう誓った。




腹も減ったし何か食って帰ろうか。
そう話していたが、荷物も多い上に着物の雛美の正面に座る自信はない。
あれが常に目に入るなんてきっと飯に集中できない。
そう思って、結局一度家に帰ることにした。
アパートに帰ると雛美はさっそく帯を緩め始めた。
それはいつかテレビでみたことのある光景を彷彿させて、邪な思いが湧き上がる。
俺は雛美の手を掴んだ。

「俺がやってイイ?」
「帯?」
「全部。」

控え目ながらも頷いた雛美から帯を受け取り、そのままそっと解いていく。
見れば見るほど綺麗なその姿に興奮しつつもこの滅多に訪れない機会を楽しんでいた。
ただ着たことすらない着物は構造がよくわからいこともあり、時折雛美はクスクスと笑いながら教えてくれた。
それが少し恥ずかしい気もしたが、雛美が笑っているならそれでいいと思った。

「これはね、ここをこうして……。」
「おー、解けたァ。」

少しして白い布一枚になった雛美は、俺の手を止めた。

「ありがとう。あとは自分でするね。」
「全部っつったろ。」

こんなオイシイとこで終われっかよ。
そう思い最後の一枚を脱がしにかかると、雛美は必死に抵抗した。

「ちょ、まって!ダメだって!」
「なんでェ?」
「だ、だってこれ下着だからっ。」
「で?」
「いや、ほら。お腹も空いたし、ね?」

頬を染めながらもイヤイヤする姿はさらに俺を興奮させる。
逃げられないようにぎゅっと抱きしめると、雛美から”くぅぅ”という何とも言えない音がした。

「……ごめんなさい。」
「ハッ、仕方ねェなぁ。見てっと襲いたくなっから先出てんね。」

あと一歩だったのに。
そう思いながらも俺の腹も鳴りそうなのに気づいて俺はコートを羽織って外へ出た。
冷たいその空気に、火照った体が少し醒まされる。
焦ることもねェよな。
改めてそう感じて、俺は自嘲気味に笑った。


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