27




待ち合わせた駅につくと、たくさんの人であふれていた。
晴れ着を着ている人が多いのはきっと目的が同じだからだろう。
この中から靖友くんを探せるだろうか。
きょろきょろと見回してみたが、それらしき人は見つけられない。
電話をかけようかとスマホを出した時、後ろから名前を呼ばれた。

「雛美!」
「靖友くん!」

振り返ると靖友くんが手を振りながらこちらにやってきた。
ニッと笑ったその顔はとても嬉しそうだ。
”あけましておめでとう”とあいさつを交わすと、どちらからともなく表情は緩んでいく。

「一瞬誰かわかんなかった。」
「え、変かな?お母さんに着付けてもらったんだけど。」
「すげェ似合ってンよ。」

”綺麗だヨォ"と耳元で囁かれて私は俯いた。
そんな私の手から荷物を奪うと、その手を繋いで靖友くんは歩き始めた。
いつもより少しゆっくり歩いてくれるのは私が下駄だからだろうか。
そんな優しさが嬉しくてホッとする。
少し歩きにくい下駄が、あの日のサンダルと重なって見えて少し笑えた。
あの時ちゃんと素直になれてたら、何度も躓くこともなかったのかな。
口下手だけど優しい彼は私の自慢の彼氏だ。
いつかお母さんにも会わせたいな。
機嫌のよさそうな靖友くんに手を引かれて、私はそんなことを考えていた。



目的の神社はやはりすごい人で賑わっていて、手を離すと迷子になってしまいそうだった。
私は繋いでいた手に力を込めた。

「離さないでね?」
「ハッ、当たり前だろォ。」

ニッと笑った靖友くんは私を少し引き寄せてくれた。
人混みの中でも特に不自由なく歩けたのは、靖友くんがうまく誘導してくれたからだろう。
参拝の列に並んでいると、靖友くんが私の顔を覗き込んできた。

「雛美は何お願いすんのォ?」
「お願い?」
「カミサマに。」

嬉しそうなその顔が無邪気でとても可愛い。
私は口元が緩みっぱなしだ。

「初詣はね、お願いにくるんじゃないんだよ。」
「えっ、そうなのォ?」
「うん、成したいことの宣言をして、頑張るので見守ってくださいって宣言する感じ?だから普通のお願いとはちょっと違うかなぁ。」
「へぇ。でもそれなら俺には大差ねぇな。」
「うん?」
「神頼みに来たわけじゃねぇし。自分が頑張って手に入れた方が何倍も嬉しいモンだろ?」

自信溢れるその力強い言葉に私はゆっくりと頷いた。
私にはない、そのキラキラとした前向きな姿勢にとても惹かれる。
靖友くんと一緒なら私も前向きになれる気がした。
そうしているうちに私たちの番がきて、神様に挨拶をした。
"昨年は靖友くんに引き合わせて下さりありがとうございました。靖友くんをずっと応援し、大切にします。どうか私たちをお守りください。"
そう願い顔を上げると、靖友くんと目があった。
離れていた手を再び絡めてお守りの列に並ぶ。
私は靖友くんと優衣の分を買った。

「はいこれ、靖友くんに。」
「くれんの?」
「うん、お守りは自分で買うより人からもらう方がいいんだよ。」
「そっかァ……悪ィ、これあんま可愛い色じゃねぇけど。」

そう言って差し出されたお守りは、薄いグリーン色をした健康祈願のお守りだった。
自分用に買ったものなのかもしれない。

「大丈夫だよ、靖友くんの願いが込められてるんだもん。大事にするね、ありがとう。」
「ん、俺もあんがとネェ。」

お揃いがまた増えたこと、それが靖友くんからの贈り物であること。
私は幸せでいっぱいだった。




帰り道に何か食べようか、という話になったけどお互い多少荷物がある上に私が着物なこともあって一度アパートに戻った。
着替えるために帯を解こうとした手を靖友くんが止めた。

「俺がやってイイ?」
「帯?」
「全部。」

嬉しそうに帯を引く姿に私はつい頷いてしまった。
帯を解きながら鼻歌混じりににこにことしている靖友くんは新鮮で面白い。
だけど時々扱い方がわからないのか、困った顔をして私を見つめてくる。
その瞳がもう愛しくてたまらない。

「これはね、ここをこうして……。」
「おー、解けたァ。」

そうして1つ1つ剥がされていくうち、着物は全て脱げた。
残すところ肌襦袢だけになると私は靖友くんにお礼を言う。

「ありがとう。あとは自分でするね。」
「全部っつったろ。」

ニッと笑った靖友くんは肌襦袢の紐に手をかけた。
するすると解けていくそれは留まることなく私から滑り落ちそうになる。

「ちょ、まって!ダメだって!」
「なんでェ?」
「だ、だってこれ下着だからっ。」
「で?」
「いや、ほら。お腹も空いたし、ね?」

なんとか逃れようとする私を靖友くんはぎゅっと抱きしめた。
その時、私のお腹から”くぅぅ”という気の抜けた音がする。

「……ごめんなさい。」
「ハッ、仕方ねェなぁ。見てっと襲いたくなっから先出てんね。」

そう言って靖友くんはコートを羽織って先に部屋を出て行った。
触れられたのはとても嬉しかった。
私も触れたかった。
それでも空気の読めなかったお腹の虫を恨めしく思いながらも、私も急いで着替ると外へ出た。


←prev/目次/next→
story.top
Top




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -