24




クリスマス当日。
イヴは遅くまで残業したおかげで、定時に上がることが出来た。
私は急いで買い物をして家に帰り、シャワーを浴びて下ごしらえをする。
靖友くんの家にはコンロとレンジしかなかったし、フライパンと鍋が1つずつしかなかったはずだ。
温めれば食べられる状態まで調理して、保存容器に移し替える。
プレゼントと料理、そして靖友くんにもらった合鍵を手に家を出る。
途中で予約しておいたケーキを受け取った。
小さ目のを予約したとはいえ、プレゼントや料理もあって荷物はいっぱいになってしまった。
出来るだけ慎重に荷物を持って、靖友くんのアパートへ向かった。




アパートの前につくと、すごくドキドキしてきた。
初めて入るわけではないけど、中の住人がいないとなると妙にソワソワしてしまう。
両手いっぱいの荷物をなんとか片手に持ち鍵を出した。
ふと、キーケースを思い出して頬が緩む。

「もうすぐ、お揃いになるんだよね。」

そう呟いた声は誰にも届かないけど、私の心を温かくした。
そっと鍵穴に差し込んで回すと、カチャリと音がして鍵があく。
ドアを開くと、中はとても片付いていて驚いた。
キッチンに料理を置いて中に入ると、中もとても片付いている。
きっと今日の為に片付けてくれたんだろう。
そう思うと私の胸は跳ねた。
スマホを確認すると、もう20時半になっていた。
そろそろ帰ってくるかもしれない。
私はコートを脱ぐと持ってきたエプロンをつけて、キッチンへ戻った。




暫くして、スマホが震えた。
ディスプレイを見れば、着信の相手は靖友くんだ。

「靖友くん?お疲れ様。」
「ん、あんがとねェ。今アパートォ?」
「うん、上がらせてもらってるよ。もうすぐ帰ってくる?」
「ん。何か足りないモンあったら買ってくけど。」
「うーん……あ、飲む物がベプシしかない。1.5Lだけど。」
「そんだけあったら十分だろ。」

そう言いながらクスクス笑う。
後ろが少しガヤガヤしているのは部室だからかもしれない。
部活が終わってすぐにかけてくれたことに私は嬉しくなる。

「じゃぁ、待ってるね。気を付けて帰ってきてね。」
「おう。」

電話を切り、私は料理を温めはじめた。
自転車で帰ってくる靖友くんは、きっと10分かからない。
私はいつになく浮き足立っていた。




少しして、ドアを”コンコン”と叩く音がした。
そっと覗くとそこには靖友くんがいる。

「おかえりなさい!」
「ただいまァ。」

マンションでは慣れたやり取りが、環境が違うだけでこんなにも恥ずかしいなんて。
心なしか靖友くんの頬も赤い気がして、何だか顔を合わせられない。
そんな私のおでこに軽く口づけて靖友くんはニッと笑った。
先にシャワーを浴びるという靖友くんを見送って、私はテーブルに料理を並べた。
パンとローストチキン、スープにサラダ。
あと靖友くんリクエストの唐揚げ。
ケーキを出そうか悩んでいると、靖友くんがシャワーから出てきた。

「どうした?」
「あ、ケーキをね。いつ出そうかと思って。」

そう言うと、靖友くんはチラリとテーブルを見た。

「置くとこねェし、食ってからにしようぜ。」

確かに一人暮らし用のテーブルにはもういっぱいにお皿が並んでいる。
私は靖友くんに手を引かれて部屋に入ると、隣に座った。
お互いグラスにベプシを入れて、グラス同士をくっつけた。

「「メリークリスマス!」」

いつもより少し豪華な食事を、大好きな人と2人で食べる。
いつもより少し特別な夜は、私をベプシで酔わせてしまうほど幸せだ。
”旨い”と言いながらたくさん食べてくれる靖友くんへの想いが溢れてくる。
それは自然と私の口から漏れていた。

「好きだよ。」
「俺もォ。」

そう言いながら重なる唇は、いつもより長い口づけに変わる。
目を閉じれば頭に添えられる手が、髪を優しく撫でていく。
幸せで濃密な時間が私たちを満たしていく。
ふと離れた唇を寂しさから追えば、親指で唇をなぞられた。

「俺からのプレゼント。」

そう言った靖友くんの手には少し大きめのジュエリーケースがあった。
促されるままに開くと、先日選んだ二本のリングが並んでいる。
よく見ると、内側に何か書かれているようだ。
そっと手に取り、中を覗くと”With Love”の文字と小さな石が埋められている。

「これって……。」
「気に入ったァ?」
「もちろん!ほんとに、ありがとう。」

小さな石は靖友くんの誕生石だという。
それが自分の誕生石でないことが、私が彼の物だとでも言うようでとても嬉しかった。
左の薬指にそっと通してくれたリングは、パッと見何の変哲もない普通のリングだ。
内側に込められた思いが2人だけの秘密のようで、ドキドキする。
ふと大きい方のリングを見ると、そこにも文字が書かれていた。
手に取ろうとすると、靖友くんがパッと取り上げてしまう。

「え、見せて!」
「ダァメ。これ俺んだからァ。」
「ヤダ。私がつけてあげたいもん!」
「そういうのいいからァ。」

ジュエリーケースを隠そうとする靖友くんに抱き着いて、そっと首筋に歯を立てる。
するとそれを遮るように現れた手からジュエリーケースが落ちた。
私はすかさずそれを手に取り、リングを取り出した。

「My Only Love?」

そう呟くと、靖友くんは顔を手で覆ってしまった。
手の隙間から覗くその顔は真っ赤になっていて、目は私を睨みつけている。
その目が怖いというより可愛く見えて、私には愛しいばかりだ。

「靖友くん。」
「んだよ。」
「……愛してるよ。」

恥ずかしさから口にするのを躊躇ったけど、言ってしまった。
顔から火が出るんじゃないかってくらい熱くなる。
思わず伏せた顔を、靖友くんの指が持ち上げた。

「俺にも言わせろよ。」

その瞳は真剣で、逸らすことなんて出来ない。
何よりそう言ってもらえたことが嬉しくて、私の口元は緩んでいる。

「アー……その、愛してる。」

そう小さく告げるとすぐに目を逸らされてしまった。
きっと私と同じくらい、靖友くんも恥ずかしいんだろう。
同じだということがすごく幸せで、とても嬉しい。
私は靖友くんの左薬指に、リングをそっと通した。
そのまま自分の左手を重ねると、ぎゅっと握られる。

「ペアリング、ありがとう。」
「おう。」

照れたように笑う靖友くんは、きっと私しか知らない。
私もプレゼントを、と思ったけどリングをもらったあとにキーケースを出すのは何だか躊躇ってしまう。
出すタイミングを完全に失敗したと思いつつも、そっと靖友くんの手に乗せた。

「これ、私から。ペアリングほど良いものじゃないんだけど……。」
「そういうこと言うんじゃねェよ。雛美チャンからならなんだって嬉しいに決まってンだろォ?」

そう言いながら包みを開けた靖友くんは、ぴたりと動きを止めてしまった。
もしかして気に入らなかったのかな、そう思いつつ自分の分も開けて取り出した。

「これ、キーケースでね。実はお揃いで……。」
「……。」
「え?ごめん、なんて?」
「あんがとねェ!すっげぇ嬉しいよォ!」

そう言いながら抱き着いてきた靖友くんを受け止めることが出来ずに、私は押し倒されるようにして倒れ込んでしまった。
私の上で嬉しそうに笑う靖友くんはまるで犬のようで、つい笑ってしまう。

「中がね、靖友くんの自転車みたいでいいなぁって思って。」
「ウン。」
「気に入ってもらえた?」
「すげー気に入ったァ。」

にこにこと笑う靖友くんが珍しくて、ついまじまじと見てしまう。
靖友くんはキーケースを開いたり閉じたりして眺めている。
私はもらった合鍵と自分の鍵をキーケースに移した。
それを見た靖友くんも、鍵をキーケースに移し始めた。

「お揃いが二つになったね。」

そう言うと、頭をくしゃりと撫でられた。
その優しい笑みが、私は何より嬉しい。
ひとしきりプレゼントを眺めて、ケーキを食べ始めた。
生クリームを口の端につけている姿が子供っぽくて可愛い。
それを指摘すると私の口に大きなケーキを詰め込んできた。

「こうすれば雛美チャンもつくよォ。」
「ちょ、まって!無理、あ……。」

意図せず”あーん”された私の口はケーキで一杯になる。
口の端についた生クリームを靖友くんが舐めとっていくのがくすぐったくて身を捩ると両手を掴んで抑えられてしまう。
ニヤリと笑った靖友くんは生クリームがなくなってからも私の唇や首を舐めていく。
”甘い”なんて言うから”ケーキだから”と言えばクツクツと笑い始めた。
そっと重なる唇に応えるように、靖友くんの首に手を回す。
幾度となく角度を変えて重なるそれは、そのたびに深みを増していく。
時は止められない。
だけど少しでも長く、この時間が続きますように。




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