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翌日、部活に行く靖友くんを見送って私は買い物に出かけた。
ネットで調べた自転車屋さんにいくと、靖友くんと同じ色の自転車が目に入る。
チェレステというその色は靖友くんによく似合っていて、自転車に乗っている靖友くんはとてもかっこいい。
その姿を思い出しながら自転車を眺めていると、お店の人に声をかけられた。

「それいいですよね、色も可愛いし。」
「あ、はい。彼がこれに乗ってて……あの、これに合うスタンドを探してるんですけど。」

お店の人にスタンドを色々見せてもらいながら、事情を説明するとアドバイスしてもらえた。
お勧めしてもらったスタンドを手に、私はお店を出た。
靖友くんの好みはわからないけど、クリスマスは来週だ。
何かないかな、そう思ってあちこちフラフラと覗いて回った。
自転車用品は好みもあるだろうし、アクセサリーを付けているのは見たことがない。
財布は年季が入っているように見えたけど”気に入っている”と言ってたのを思い出してやめた。
ふと目を移すと、ガラスケースに入ったレザーの黒いキーケースが見える。
そういえば、鍵はいつもポケットに突っ込んでいたきがする。
そのキーケースはパッと見は黒にしか見えないが、中はチェレステに似たブルーグリーンをしていてとても可愛い。
お店の人にそれを出してもらい手に取ると、手に吸い付くようなその感触に迷いは消えた。

「これ下さい。ラッピングしてもらえますか?」

そう伝えると、お店の人はレディースラインでも同じものがあると教えてくれた。
それも見せてもらうと、先ほどのより一回り小さくて形が丸みを帯びている。
とてもシックな色合いなのに形は女性らしくてとても可愛い。
”お揃いなんて嫌かな”そう思いながらも、見れば見るほど可愛くて欲しくなってしまった。
私はそれもラッピングしてもらうよう頼んだ。
お店を出てカフェで一休みしながら、今日のことを思い返す。
結構歩き回って疲れたけど、良い買い物ができたと思う。
靖友くん喜んでくれるかなぁ。喜んでくれるといいなぁ。
そう思いながらスマホを開くと、メッセが来ていた。
どうやら部活が早めに終わったらしく、うちにくるという。
今出先だと言うことと帰宅時間を伝えて、私は慌ててカフェを出た。





家に帰ると、マンションの前で既に靖友くんは待ってくれていた。

「靖友くん!遅くなってごめんね。」
「おう、今着たとこだし気にすんな。」

そう言って頭を撫でられて、つい目を細めてしまう。
動物を飼っているからなのか、靖友くんはよく頭を撫でてくれる。
それが気持ち良くて、すごく嬉しくて私は大好きだった。
部屋に入ると、私は早速先ほど買ったスタンドを取り出した。

「ねぇ、これ使ってみて?お勧めしてもらったのだからそんなに悪くないとは思うんだけど……。」
「もしかして今日コレ買いに行ってたのォ?」
「うん、やっぱりあると便利かなって。」

本当はそれだけのためじゃないのだけど、今はそれは黙っておく。
”いらない”、と言っていたけど渡してみるとどこか嬉しそうなその表情に安心した。
使い勝手は悪くないようで、スタンドで立てられた自転車はバスタオルの上に置くより見栄えが良くてかっこいいと思う。
シャワーを浴びるという靖友くんを見送って、私は暫く自転車を眺めていた。
キーケースの中と同じ色のその自転車が、私は見るたびに愛しくなる。
何枚か写真を撮っていると、いつの間にかお風呂から出た靖友くんがクスクス笑っていた。

「何してんのォ?」
「あ、カッコイイなぁと思って。この色すごく好き。」
「ん、俺も好きィ。」

自分が好きと言われたみたいで、つい恥ずかしくなってしまった。
それを知ってか知らずか、クツクツと笑いながら靖友くんは私を抱きしめる。

「なァ、ちょっと出かけねェ?」
「うん?いいけど、疲れてない?」
「欲しいモンあんだよ。」

”買ってこようか?”と聞いても一緒に行かなきゃ意味がないと言う。
私はさっき買った荷物を寝室にそっと隠して、再びコートを羽織った。
そして手早く身支度を終えた靖友くんと手を繋いで、部屋をでた。




「どこに行くの?」
「ン―、多分この辺なんだけどォ。」

スマホの地図を片手に歩く靖友くんの手元を覗いたが、いまいち目的地がわからない。
何のお店なのか聞いても答えてくれず、私はただ手を引かれるままに歩いていた。
暫く迷った後、靖友くんがパッと顔を上げた。
どうやら目的地についたらしい。
でも目の前にはジュエリーショップしかなく、私は首をかしげた。

「ここ?」
「ん、行こうぜ。」

にっこりと笑った靖友くんに手を引かれるまま、ジュエリーショップに入る。
中には煌びやかな装飾がされていて、あまりこういう店と縁のない私は何だかモゾモゾしてしまう。
靖友くんはガラスケースの前に行くと、暫く見たあと1つのリングを指さした。

「これとか似合うんじゃねェ?」
「うん?誰に買うの?」
「雛美チャン。」
「……ん?」

ポカンと口を開ける私に、店員さんがそれを取り出してくれた。

「ほら、つけてみろよ。」
「え、待って、どういうこと?」
「いいからァ。」

私の左手を掴むと、靖友くんはそのリングを薬指につけてくれた。
するりと入ったそれは、どうやらサイズが大きいらしい。
店員さんが指のサイズを測ってくれて、似たリングをいくつか出してくれた。
それと一緒に、靖友くんも指のサイズを測ってお揃いのリングを出してもらっている。
もしかして、これって。

「クリスマス……?」
「ん。良いモンやるっつったろ?」

あれこれと私の指にリングを付けながらそう言った。
その頬は少し赤くなっていて、胸がきゅんと締め付けられる。
靖友くんも自分の指につけているということは、きっとペアリングを買うつもりなんだろう。
それがすごく嬉しい。

「靖友くんのは、私が買うね。」
「ハァ?いいんだよ、雛美チャンは黙って受け取ればァ。」

”俺のマーキングだからァ”そう小さく漏らして口を尖らせる姿がたまらなく愛しい。
靖友くんが選んでくれたリングは、細身でとても可愛い。
仕事中にもつけられるようにと、石のないものにしてもらった。

「雛美チャン、ちょっとあっち座っててくれねェ?」

リングを選んだあとそう言われて、私は少し離れたソファに腰掛けた。
少し離れて見る靖友くんは身長が高くて、とてもかっこいい。
本当に靖友くんと付き合ってるんだよね、そう思うと口元がムズムズと緩んでいく。
ふとこちらを見た靖友くんに軽く手を振ると、こちらへ来た。

「クリスマスには渡すからァ。」
「うん、ありがとう。楽しみにしてるね。」

”ケーキとかは任せてね”と付け加えると、ハッという笑いが漏れる。

「俺ケーキより肉がいいんだけどォ。」
「うん、ちゃんとチキンも準備するから!」

ニッと口角を上げて笑う靖友くんに手を引かれて、外に出た。
少しだけイルミネーションも見て回った。
周りはカップルが多くて、自分たちもその一組だと思うと心が弾んだ。
クリスマスには何を作ろうかな。
私は楽しみで仕方がなかった。


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