23



翌日部活へ行くと、思ったより早くついた。
着替えて少し回そうかとも思ったが、ふと昨日のことを思い出す。
女にプレゼントと言えば、あいつだろう。
俺はスマホを開いて電話をかけた。

「靖友?久しぶりだな。朝からどうした?」
「おう、ちょっと聞きたいことあんだけどォ。」

クリスマスプレゼント、という単語を出すと新開は嬉しそうな声になった。
どうやら昨日東堂から電話がきたらしい。

「靖友の彼女、正月に見れるんだろ?楽しみにしてるからな!」
「ッセ!それよりさっさと聞いたことに答えろっての。」

そんなやり取りをしながら、新開のおすすめの店をいくつか教えてもらう。
軽く礼を言って、その店を探すと大学の近くにはないらしい。
そうこうしているとぞろぞろと先輩たちがやってきて、慌ててスマホを閉じて着替えた。




基本的に室内の部活は退屈なことこの上ない。
それでも昨日の雛美や、プレゼントのことを考えて俺の顔はつい緩む。
塩田にそれをつつかれながらもペダルを回した。
いつもより調子が良かったのか、早めに終えることが出来てホッとした。
改めて店を探すと、どうやら雛美のマンション近くに一件あるらしい。
どうせなら一緒に行った方が早い。
俺は雛美にメッセを送った。
すぐに帰ってきた返事には、出先にいるということと帰宅時間が書かれていた。
直接行って、ちょっと早いくらいか。
俺は先輩方に挨拶をして部室を後にした。




マンションにつくと、予定時間より少し早目についてしまった。
自分で思ったより浮かれているらしい。
仕方なくマンションの前で待っていると、遠くから駆けてくる音がしてそちらを見ると雛美が手を振っている。

「靖友くん!遅くなってごめんね。」
「おう、今着たとこだし気にすんな。」

少し息切れするほど走ってきてくれたことが嬉しくなる。
頭を軽く撫でると、目を細めてにこりと笑う。
そんな姿につい俺の口元も緩んでいく。
雛美に手を引かれるまま、俺はマンションに入った。
部屋に入ると、雛美は玄関でガサガサと荷物を取り出している。
何かと思えばそれは自転車のスタンドだった。

「ねぇ、これ使ってみて?お勧めしてもらったのだからそんなに悪くないとは思うんだけど……。」
「もしかして今日コレ買いに行ってたのォ?」
「うん、やっぱりあると便利かなって。」

外出の理由が俺へのプレゼントだと聞いて俺の顔は緩んだ。
心配そうに差し出すその姿が可愛くて、抱きしめたい衝動に駆られる。
寸でのところで、自分が汗臭いことを思い出してぐっとこらえた。
雛美が選んでくれたスタンドは店員のおすすめとあって悪くない。
リビングに置かせてもらい、俺はシャワーを借りた。




風呂から出ると、雛美がスマホでビアンキの写真を撮っていた。
その表情が幸せそうで、つい笑ってしまう。

「何してんのォ?」
「あ、カッコイイなぁと思って。この色すごく好き。」
「ん、俺も好きィ。」

”雛美がな”なんて言えるわけもなく、その言葉を飲み込む。
それでも頬を染めた雛美には俺の言葉が伝わったんだろうか。
照れるその姿が可愛くて、ぎゅっと抱きしめた。

「なァ、ちょっと出かけねェ?」
「うん?いいけど、疲れてない?」
「欲しいモンあんだよ。」

”買ってこようか?”という申し出を断ると不思議そうに首をかしげている。
買ってきてもらうようなモンじゃねェんだよ。
でもその内容をまだ伝えたくなくて、誤魔化した。
軽く身支度を整えて玄関に向かうと、後ろから雛美が駆けてきた。
その手をしっかりと繋いで、部屋を出た。




「どこに行くの?」
「ン―、多分この辺なんだけどォ。」

位置情報と地図を照らし合わせながら店を探したが、上手くたどり着けない。
暫くグルグルと迷ったあと、一本の小道を見つけた。
その道を進むと、やっと目的地にたどり着く。
店を見た雛美は首をかしげている。

「ここ?」
「ん、行こうぜ。」

手を引いて店に入ると、たくさんのガラスケースが並んでいる。
適当にあれこれ見て回り、雛美に似合いそうなリングを探した。

「これとか似合うんじゃねェ?」
「うん?誰に買うの?」
「雛美チャン。」
「……ん?」

何言ってんだ、そう思いつつも言わなかったのは俺だったと思い出す。
ガラスケースを指でトントン、と叩くと店員がそれを出してくれた。

「ほら、つけてみろよ。」
「え、待って、どういうこと?」
「いいからァ。」

戸惑う雛美の左手を取り、薬指にリングを付けた。
あっさりと入ったリングはサイズが大きかったようだ。
連れてきて良かった。
そう思いながらも、雛美の指のサイズを測ってもらう。
ついでに俺のも測ってもらい、それに合うリングを出してもらった。

「クリスマス……?」
「ん。良いモンやるっつったろ?」

本当はもっとちゃんとしたのやりてェけど、とりあえず今は揃いならそれでいい。
どれが似合うか考えながら雛美と自分の指に着けたり外したりを繰り返していると、雛美がとぼけたことをいう。

「靖友くんのは、私が買うね。」
「ハァ?いいんだよ、雛美チャンは黙って受け取ればァ。」

俺がもらうんじゃ意味ねェんだよ。
そう思いつつも”マーキングだから”と言えば雛美は小さく礼を言う。
そんな律儀な所がすげぇ好きだ。
雛美の細い指に太いリングは不釣り合いで、細身の物を選んだ。
仕事中に邪魔にならないようにと石のないものになってしまったのが少し残念でもあった。
その時ふと、ガラスケースの上の広告が目に入る。

「雛美チャン、ちょっとあっち座っててくれねェ?」

雛美を少し離れたソファに移動させて、広告を見直す。
そこには”シークレットストーン&刻印サービス”の文字がある。
店員に尋ねると、女性用のリングには好きな誕生石と10字以内の言葉をリングの内側に入れることが出来るらしい。
それが3日ほどで出来るというので、雛美のリングにダイヤを埋め込んでもらうことにした。

「メッセージはどうなさいますか?」
「アー……じゃぁ入れて下さい。」
「畏まりました。男性用にもメッセージだけでしたら入れられますがいかがなさいますか?」
「アー……お願いします。」

10字以内、というのは意外と難しい。
少し悩んで二つの言葉を紙に書いて店員に渡すと、にこりと笑われた。
それがやけに恥ずかしくてつい視線をそらしてしまった。
会計を済ませてふと振り返ると雛美と目が合った。
もしかしてずっと見られていたんだろうか。
ダセェとこ見られたかなァ。
そう思いつつもにこにこ笑って手を振る雛美の元へ向かった。

「クリスマスには渡すからァ。」
「うん、ありがとう。楽しみにしてるね。」

”ケーキとかは任せてね”という雛美につい笑ってしまった。
分かってるだろうと思いつつも、一応リクエストしておく。

「俺ケーキより肉がいいんだけどォ。」
「うん、ちゃんとチキンも準備するから!」

”任せて”というその姿につい口元が緩む。
雛美の手を取り外に出ると、あちこちにイルミネーションが施されている。
地図ばかり見ていて気が付かなかったなァと思いつつ隣を見ると、目をキラキラさせている。
寒ィけど、少しくらい。
そう思って2人でイルミネーションを見て回った。
クリスマスは早く帰れっといいなァ。



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