01


ある昼下がり。
お昼休みに電話がなった。
ディスプレイには高校時代の友達、優衣の名前が出る。

「もしもし優衣?電話なんて久しぶりだね」
「雛美ー!久しぶり!今大丈夫?」
「うん、お昼休みだから…あと20分くらいなら大丈夫。」
「そっかー、出来るだけ手短にいうね。今週末うちの大学で学園祭があるんだけどさ。
気晴らしに遊びにこない?彼氏と別れてもう随分たつじゃない。
出会いとかあるかもよ?」

どこが手短なんだろうか。優衣はいつもこうだ。
でも自分のことを話すのが苦手な私にはとても有難い友人だった。

「んー、いや。いいよ。一人で回るのもなんか場違いな気がして不安だし…」
「いやいや!一人でなんて回らせないから!アタシも一緒に回るし!
絶対きて!お願い!」

電話の向こうで、手を合わせているんだろうと容易に想像がついた。
優衣はいつも、甘え上手で私は折れる側ばかりだった。

「仕方ないなぁ…。じゃぁ、ベプシ一本おごってね」
「そんなのお安い御用だよー!雛美が好きそうな展示もあるから、色々チェックしておくね。
ホントにありがとね!雛美愛してるー!」

またね、と付け加えると、優衣は満足げに電話を切った。
あぁ、また優衣に負けてしまった。
高校卒業後就職してしまった私は最近仕事ばかりで、出会いなんて何もない。
彼氏いない歴2年。さすがに心配もされたのだろう。
今週末か。仕事終わったら服でも買いにいこうかな。
少し期待しながら、私は仕事に戻った。


週末、大学につくと凄い人、人、人…。
大学の学園祭って、こんなに人がいるんだ…。
優衣がやっているブースで待ち合わせだったのに、それがどこにあるのかもわからない。
入って2つ目の道を右に曲がってすぐの階段で4階、そこのすぐ右。
どこをどう間違ったのか、階段を見つけられなかった。
そうこうしているうちに人気のない場所まできてしまい、あぁこれは絶対に間違えてると思った。
けど遅かった。

「ねぇキミー。どっからきたの?ウチの子?どこ行くのー?」

一目見て、親切で声をかけるタイプじゃないと思った。
無視して踵を返すと、腕を強く引っ張られて転んでしまった。

「まちなってー」
「や、やめてください!」

あぁ、男の人って力が強いんだな。いざとなったら勝てるわけなんてないと頭の端で考えていると、目の前に人影が見えた。

「た、助けてください!」
「アァ?」

その人影がこっちに歩いてきたのを見て、助けを求めた相手も失敗だったと悟る。
細くつりあがった目と眉。不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。
あぁ、もうダメだ。優衣ごめん、と思っていると罵声が響く。

「てめェ、校内でナァニしてやがんだよ。アァ?!学園祭だからってはしゃいでんじゃねぇぞコラァ!」
「え…?」
「うるせぇ、関係ねーだろ!さっさと失せろよ!」
「失せんのはてめェだ、バーカ。」
「…チッ。あーもうシケたシケた。マジうぜぇ」
「うぜぇのはてめェだろ。」

つり目の人はそう言うとさっきの人を追っぱらってしまった。
この人…悪い人じゃないの?

「ボケっとしてねぇで立てよ。つか、お前ここのヤツじゃねーダロ」
「あ、はい。すみません。ありがとうございました!!道に迷ってしまって…」
「道だぁ?フツーこんな人気のねー場所までくるかねぇ…」
「す、すみません…」

呆れたように言われて、何も言い返せない。ていうかこの人怖い。

「どこ行きてーのよ?」
「…え?」
「お前、どこ行くつもりでこんなとこまで来たんだって聞いてんだヨ!
どうせ今からまた迷うンだろ、連れてってやんヨ」
「あ、えと…喫茶店、なんですけど…」
「アァ!?喫茶店なんて腐るほどあンだよ。どこの出しもんだヨ」

やっぱり怖い。優衣にどこのブースかだなんて聞いてない。
困っていると、その人は舌打ちをする。だから怖いってば。

「…ハァ。で、迷子チャンはどこにこいって言われたんだヨ。」
「あ…えっと…。門入って2つ目の道を右に曲がってすぐの階段で4階、そこのすぐ右にあるって…」
「門入って2つ目って、ここ4つ目なンだけど。」
「えっ…」
「それなら本館の方だナ。オラ、いくぞ迷子チャン。」
「は、小鳥遊!小鳥遊雛美!」
「オゥ、小鳥遊チャン。」

つり目の人はそういって歩き出した。
怖い、と思ったけど。案外そうでもないのかな?
私はつり目の人を見失わないように慌てて追いかけた。




暫く歩くと、また人ごみに戻ってきた。
つり目の人を見失いそうになる。

「ま、まって!えっと…」

つり目の人、と呼ぶわけにもいかず、名前を聞いていないことに今更気づく。
それでもその声が届いたのか、立ち止まってくれた。

「小鳥遊チャン。やっぱ迷子チャンだナ。」
「迷子チャンって呼ばないで下さい…。あ、あの…名前教えてください!」
「ア?荒北だヨ。荒北靖友。」
「荒北、さん」
「オゥ。迷子チャン、ちゃんとついてこいヨー。」

そういうと、荒北さんは歩き出した。
今度こそ見失わないように、と思っていたけどこの人ごみでは…。
身長差のせいか、荒北さんは歩くのが早くて私は小走りになってしまう。
下ろしたてのサンダルは失敗した。歩きにくくて足元ばかり見ていて、また荒北さんを見失った。

「あ、荒北さーん!」
「ンだよ、迷子チャンまた迷子かヨ。」
「ひゃぁ!」

ふいに後ろから声をかけられて変な声が出てしまった。
どうやら、足元見過ぎて荒北さんを追い越していたらしい。

「ご、ごめんなさ…」
「後ろに見えンのが本館。迷子チャン行きすぎィー。」
「すみません…」
「ったく。」

そういうと荒北さんは私の手首をつかんだ。

「これで迷子にはならないダロ。」

荒北さんは今度は少しゆっくりと歩いてくれた。
それでもまだ私が一歩下がるような状態だったけど、つかまれた手のおかげではぐれることはなかった。



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