文字に恋する*02





日がたつにつれ、荒北くんも私の扱いを心得たらしい。
怒鳴ろうが乱暴にしてようが態度の変わらない私には、普通に接するようになった。

「ねぇ、荒北くん。」
「んだよ。」
「そろそろ荒北って呼んでもいいかな。」
「勝手にすればァ?どうせヤメロっつっても聞かねぇんだしィ。」
「勝手にさせてもらうね。あと、私のことも雛美って呼んでみない?」
「メンドクセェ。」

こんな感じで会話が成り立つのはどうやら私だけらしく、先生たちからも妙に頼りにされていた。
プリントや宿題の催促や追試の連絡が全て私に回ってくる。
おかげで、荒北の成績が致命的なことにもすぐ気づいた。
でも会話が成立するのということを聞くのとは訳が違う。
どうしたものかと思っていたら、ある日荒北の頭にあったはずのドリルがなくなっていた。
ポカンと口を開けて眺めていると、荒北は不機嫌そうに怒鳴ってきた。

「何見てんだよ!」
「いや……荒北、ドリルどうしちゃったの。」

可愛かったのに、そう思っていると胸ぐらを掴まれた。
久々にこんなに怒ってるなぁなんて呑気に思っているとまた怒鳴られる。

「ッセ!ドリルじゃねぇよボケナスがァ!」
「荒北、苦しい。」
「てめ、人の話聞いてんのかコラァ!」
「話がしたかったらまず手を離して。」
「てめぇ何かと話すことあるかバァカ!てめぇといい福富といい……。」

そう吐き捨てて、荒北は教室を出て行った。
いま、荒北は何と言った?
福富、と言っていた気がするけど、誰だろう。
首を傾げていると、玲花が駆け寄ってきた。

「雛美ちゃん、大丈夫?怪我は?」
「あぁ、平気だよ。それよりさ、福富ってしってる?」
「福富くん?福富くんなら、隣のクラスの男の子だよ。確か金髪の……。」

私が知る限り、荒北は私以外とろくに話していないはずだ。
一体どこで知り合ったのか不思議に思い、隣のクラスに行ってみることにした。




「福富くん、いますか。」

廊下側の席にいた人に声を掛けると、福富くんを呼んでくれた。

「寿一、お客さん。」
「む?」

寿一、と呼ばれた人がこちらを向いた。
この人が福富くんらしい。
大きな体に太い眉毛、きりりとした目に派手な金髪。
うーん、とりあえずライバルではなさそう?
福富くんは私の前まで来て、不思議そうにしている。

「すまない、何処かであっただろうか。」
「隣のクラスの小鳥遊さんだよ。」

私が答えるより早く、福富くんを呼んでくれた人が答える。
あれ、私この人知らないのに。

「初めまして、隣のクラスの小鳥遊雛美です。ちょっとお話いいですか?」
「すまない、次が移動なんだが。」
「そうですか、じゃぁまた帰りに伺いますね。」
「わかった。」

見た目は派手だけど、粗暴なわけではないらしい。
ますます荒北との接点がわからずに、私は首を傾げるばかりだった。




放課後隣のクラスへ向かうと、教室にはほとんど人が残っていない。
どうもうちのクラスが終わるのが遅かったらしい。
慌ててあたりを見回すと、肩を叩かれた。

「小鳥遊さん。」

振り返ると、先ほど福富くんを呼んでくれた男子がにこやかに立っていた。
そういえば、名前を知らない。

「あ、さっきの。ごめん、名前知らなくて。」
「俺、新開隼人っていうんだ。よろしくな。」
「新開くん、ね。よろしく。さっきはありがとう。福富くんどこに行ったか知ってる?」
「寿一なら……」

そう言いかけた新開くんが私の後ろに視線を移した。
振り返ると福富くんがこちらに向かって歩いてくる。

「福富くん、遅くなってごめんね。」
「構わない。それで、何の用だ。」
「単刀直入に言うね。荒北って知ってるよね?どういう関係?」
「荒北……。」

福富くんは少し考えると、ここ最近のことを話してくれた。
ロードと原付で勝負したこと、荒北がロードに興味がありそうなこと。

「あの荒北がスポーツ、ね。」

言われて見れば他の男子より筋肉質な体は、ヤンキーらしくないものだった。
案外似合うかもしれない。
これは面白くなりそうだ。
そう思うと私の頬は緩んだ。

「どうかしたのか?」
「ううん、なんでも。教えてくれてありがとう。」

私はそのまま部活に行くという二人を見送った。
自転車競技部、か。
そういえばうちの学校は強豪だった気がする。
負けず嫌いな荒北のことだ、きっと福富くんを越えたくて必死に練習するだろう。
また一つ、私の楽しみが増えた。


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