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それからは、変わらない毎日が続いた。
くだらないことで毎日連絡して、休みの日は泊りに行って。
たまにある部活の飲み会だけは死ぬほど面倒だったけど、行かなきゃ行かないで文句言われるのが嫌で仕方なく参加した。
週末なのに誰もいない家に帰るとすげー寂しくなって雛美に電話すると、いつも2コール目には出てくれる。
”待っていてくれた”というのがわかって、それがすげェ嬉しかった。
雛美が待っていてくれる。それだけで週末の練習には張りが出るし、タイムも伸びた。
先輩たちから理由を聞かれてからかわれたこともあったけど、そういうのが煩わしくないほどに俺は浮かれていた。
”ユカ”と名乗る女が俺の前をウロチョロし始めたのは、ちょうどその頃からだ。
講義の前後や部活中なんかに寄ってきてはすり寄ってきた。
そのたびに、強い香水の匂いとそれに隠れるように漂うキツいニオイに鼻が痛くなる。

「靖友くんってぇ、すごいんだよね!この前先輩が言ってるの聞いちゃってぇ。」

上目使いで見られることに反吐が出る。
出来ればこんなニオイの女とは関わりたくない。
ロクなことがねぇ。

「ッセ。寄んなくっせぇ。」
「ひっどーい、ユカこれでもお風呂入ってから来たんだからぁ。」

それでそのニオイかよ。
雛美とは違うそのニオイに吐き気までする。

「つーか名前で呼ぶんじゃねェ。」
「いいじゃない、靖友くんもユカって呼んでね?」
「呼ばねェ。つーか寄んなつったろ。」
「部室行くんでしょぉ?ユカもそこまでついてっちゃおっかなぁ。」

そう言いながら俺の腕を絡め取り、胸に押し当てた。
雛美よりも貧相なそれは、すぐに骨に当たり不快以外の何物でもない。
ただ何を言っても変わらない女に俺は引きはがすのを諦め、さっさと部室へと歩きだした。







部室へ行くと、先輩方と目が合った。
ニヤニヤ笑っているのを見る限り、恐らく勘違いしているんだろう。

「荒北ぁ、女連れで部活とは言いご身分だなぁ。」
「えー、ユカってやっぱりそうみえちゃいますぅ?照れるー。」
「これが噂の彼女か?」
「違ぇ…っす。」
「靖友くん彼女いるのぉ?やだぁ、ユカにしようよー。」
「テメーうっせぇんだよ!さっさと離れろ!つーかマジくっせぇからァ!!」

服に匂いが移りそうで引き離すと、女は頬を膨らませている。
それを見て”雛美なら可愛いんだろうな”なんて思う俺は相当重症だと思う。

「もー!靖友くんの意地悪!ユカ待ってるからぁ、あとでご飯食べに行ってくれたら許してあげるよ?」
「許していらねェからもう話しかけんな。」
「なにそれー!」

怒りながらも帰る気はないらしい。
部室近くのベンチに陣取り、スマホで何やら操作している。

「モテる男はつらいなぁ?荒北ぁ。」

さっきの女同様、この先輩も俺の話を聞くつもりはないらしい。
今日は本当にツイてねェ。

「会いてェ……。」

小さく呟いた声は、誰に届くこともなかった。


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