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あれから、毎日雛美にアプリのメッセを送っている。
おはようだとか、おやすみだとか、本当にどうでもいいことばかりだ。
そんな内容でも1つ1つ丁寧に返してくれるのが嬉しくて、俺はそれが楽しくて仕方がなかった。
雛美の仕事が早く終わったり、時間がある時は電話もした。
電話を掛けるたびに通話料を気にして「かけなおす」と言い張る雛美を言いくるめるのは大変だったけど、少し頑固な所が垣間見えて面白い。
暫くすると休みの日の前は一緒にメシ食って、そのまま泊まっていくのが当たり前になっていた。
休みでも朝から練習がある俺を気遣ってくれる雛美は、俺がそれに感謝と同じくらい欲情しているのにきっと気づいてはいない。
部屋着でパタパタとメシ作ったり俺の準備を手伝ってくれる姿は、寝起きの俺の目には毒だった。
それでもやめられないのは、一緒に過ごせるのが何より幸せだからだ。
忙しくてデートに連れていけない俺に文句ひとつ言わず、部活が休みでも家で過ごすことを優先してくれる。
おかげでストレッチを始めた雛美はどんどん関節が柔らかくなって、俺の前で嬉しそうに開脚してみせるもんだから目のやり場に困る。
そのまま勢いで抱いてしまったこともあったが、雛美は何がスイッチになったのか全くわかってないようだった。
そんな頃、今月は三連休があると思っていたら丁度そこで合宿をするという。
何か理由をつけて休もうかと思ったが、”頑張ってね”なんて笑顔で言う雛美を見ちまったから頑張るしかない。
俺は気合いを入れなおして合宿に挑んだ。






いざ合宿となると、その過密なスケジュールに眩暈がした。
朝から晩まで練習漬け、休憩時間はあるもののスマホを持つのすらつらいほどの疲労だった。
メッセも朝と寝る前に数回しかやり取りが出来ずに不満が募る。
あまり連絡がこないことにも不安になった。
合宿中は一人になることすらなかなかできず、電話もできない。
ただひたすら、合宿が早く終わるのを願うばかりだった。







合宿もなんとか終わり家に帰ると、外はもう真っ暗だ。
最終日もハード過ぎて、雛美の家に行く元気すら残ってねェ。
疲れた体を癒そうと風呂を貯めながら、雛美にメッセを送った。
いつもならすぐに既読がついて返事がくるのに、帰ってこないことに苛立った。
さっさと返事返せよ。
会いてェ。触りてェ。
にこにこと笑った顔が見てェ。
動かない体に舌打ちした。
タクシーでも使おうか。
そんなことして会いに行ったら余計心配かけるか……。
暫くそんなことを考えていると、風呂場からバチャバチャと音がし始めた。
どうやら浴槽から溢れたらしい。
とりあえず風呂入って頭冷やすか。
俺は汗ばんだ服を脱ぎ捨てて、暖かいそこへ体を無造作に突っ込んだ。





あまりの気持ち良さに眠りそうになりながらも、必死に耐える。
風呂を出るとサッパリして、頭もスッキリした。
それでも疲れからくる眠さは拭えない。
布団に横になって目を閉じたとき、スマホが短く震えた。
怠い腕を必死に伸ばして手に取ると、雛美からのメッセが届いている。
一気に目が覚めて、気が付くとスマホは既にコール音を鳴らしていた。
3コール目で、雛美が出た。

「アー、雛美チャン?」
「うん、ごめんね。気づかなくて……合宿お疲れ様、おかえりなさい。」
「ン、タダイマ。あんがとねェ。スゲー疲れたァ。」

数日ぶりに聞く雛美の声は、俺に染みわたった。
優しい声色がまるで撫でられているように感じる。
その時やっと、自分が寂しかったんだと気づいた。
雛美が足りなくて、力が出なかったんだと。
聞くたびに、触れたいと思う気持ちが一層強くなる。
それなのに雛美は遠慮しているのか電話を切ろうとした。

「明日も講義だよね?今日は早めに休んでしっかり眠ってね。」
「ナニ、雛美チャン忙しいのォ?」
「え、ううん?靖友くん疲れてるでしょ?」
「疲れてっけどォ……声聞きたくて電話したンだけど。」

疲れてンよ。
死ぬほど疲れてンよ。
でも今は雛美の声が一番疲れを癒してくれる気がした。

「わ、私も。声、聞きたかったよ。」
「ほんとかよ。」
「本当だよ!今すっごく、嬉しいし!」
「ハッ、素直じゃナァイ。」

照れたような、嬉しそうな声でそう言われれば頬は自然と緩んでいく。
俺今、気持ち悪ィ顔してんだろうなァ。
でもそんなことはどうでもいい。
この週末何をしていたのかと聞くと、学祭の時の友達と会っていたという。
名前は覚えていなかったが、”優衣”サンというらしい。
覚えていられる気はしないけどォ。
話す雛美は楽しそうで、嬉しそうだ。
それなのに、俺が「優衣サンね」と確認すると黙ってしまった。
もしかして聞き間違えたか?
謝ろうとすると、雛美がぽそりと小さな声で呟いた。

「私のことはチャンなのに、優衣はサンなんだね。」
「アー……気に入ったヤツしかそう呼ばねェからァ。」
「……私は気に入られてるってこと?」
「気に入ってなかったら連絡しねェよ、バァカ。」

何言ってんだ。
どんだけ俺が好きだと思ってんだよ。
こんな恥ずかしいこと言えねェけど。
小さなことで嫉妬している雛美がすげぇ可愛くて、笑いが漏れた。
笑われているのはわかっているはずなのに、雛美は嬉しそうだ。

「ありがとう、また一週間頑張れそうだよ。」
「おう。金曜の夜にはメシ食いに行くからァ。」

数日だ。
あと数日耐えれば雛美に会える。触れることが出来る。
そのためにも今日は無理せずこのまま寝よう。
電話を切って、目を閉じると強烈な睡魔に襲われた。
満たされた俺は、今日はゆっくり眠れそうだ。



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