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今日の練習は近くを何度も同じコースで走るらしく、私は学校近くで補給の手伝いをすることになった。
忙しそうに走り回るマネジさんたちの手伝いをするうち、少しずつ話をすることもできた。
相手が女の子というだけでこんなにも気が楽なのはなぜだろう。
暫く雑談をしていると先頭集団がやってきた。
もちろん、その中に真ちゃんもいる。
自転車に乗っている真ちゃんはいつもに増してカッコよくて綺麗だった。

「お疲れ様、これ新しいの。」
「あぁ、ありがとう。」

そう言ってにっこり笑う真ちゃんは、あっという間に行ってしまった。
すれ違いざまに隼人くんとも目が合い、にっこりと笑ってくれた。
やっぱり隼人くんはいい人だ。
何週も走る姿を見ていると、だんだんどれが誰だかわかってくる。
暫くして、休憩に入った。
先頭集団はもうついているのに、真ちゃんが見当たらず探していると少し遅れて戻ってきた。

「遅かったね、どうかした?」
「箱学のエースたちが早いだけだ。」

そう言ってにっこり笑う真ちゃんは、いつもとどこかが違う。
何が違うかはわからないけど、どこか痛めている気がした。

「ねぇ、足痛いの?」
「ん?あぁ、少しな。大丈夫だ。」

笑ってはいるけど、やっぱりいつもと違う。
膝を軽く撫でた真ちゃんの手を払いのけて、私はポケットから出したテープでテーピングを始めた。

「ダメだよ、ちゃんとしないと。また裕介くんに怒られるよ?」
「いや、大したことは」
「前も同じこと言ってた。テーピングなんてさして時間かからないんだからキッチリしておかないと。」

あとでマッサージもしてあげるね、そう付け加えると頭を優しく撫でられた。

「いつも悪いな。」
「いいんだよ、私が出来ることなんて少ないけど。今日はサポート任せてくれるんでしょ?」

テーピングを終えると、真ちゃんは私を隣に座らせた。
今日走ったコースにどんな店があったとか、隼人くんに色々お店を聞いたから今度行ってみるといいとかいろんな話をしてくれた。
暫くすると遠くから隼人くんたちがこっちに手を振りながら歩いてきた。

「やぁ雛美ちゃん。朝はあんまり話せなくてごめんな。」
「ううん、練習おつかれさま。」
「何だ金城、足痛めてんのかァ?」
「さっきはテーピングなどしていなかったではないか、どうしたのだ?」

真ちゃんが三人に説明すると、みんなが一斉に私を見た。
え?何か変なことしたっけ?

「雛美ちゃん、これホントに雛美ちゃんがやったのか?」
「うちのマネジより上手いんじゃねェ?」
「さすが総北のマネジは優秀だな。巻ちゃんが雛美ちゃんを褒めるのも納得だ!」
「え?私総北のマネジじゃないよ。」
「「「え?」」」

ねぇ、と真ちゃんの方を見るとクスクスと笑っている。
あれ、言ってないんだっけ?
それより巻ちゃんって、と言おうとすると真ちゃんが捕捉した。

「雛美は女子高だったんだ。総北には通っていない。」
「どういうことだ!巻ちゃんから雛美ちゃんの話を聞いたぞ!」
「あの、その巻ちゃんって?」
「巻島のことだ。」

話の全貌がわかっているのは真ちゃんだけで、私を含めた四人はどういうことだかよくわからない。
口々に聞きたいことを質問してみても、結局話を繋げることが出来なかった。
それを見た真ちゃんが、改めて説明してくれた。

「雛美は近くの女子高に通っていて、時々手伝いにきてくれていたんだ。だから総北の部員なら誰でも知っている。大会こそこないが、練習はいつも手伝ってくれていたからな。」
「あのあたりの女子高って言うと、かなり頭のいいとこじゃないのか?いわゆるお嬢様校のとこだろう?」
「ああ、そうだ。雛美はこう見えて成績はかなりいい。俺よりずっとな。」
「それは本当か!」
「マジかよ、見えねェ。」

こう見えて、と言われたことに少しムッとしていると、やすくんは私を見て舌打ちをした。
ぷくっと頬を膨らました私を嗜めるように、真ちゃんは私の頭を撫でる。
それを見た隼人くんも、私の頭を撫でてくれた。

「なぁ、雛美ちゃん。」
「なぁに?」
「うちのマネジやらないか?」
「それはいい!ぜひ頼む!」

乗り気な二人と対照的に、やすくんはすごく嫌そうな顔をしている。
真ちゃんは少し困ったように笑っていて、私の返事を待っていた。
そんな顔しなくても、私は自転車部のマネジをやる気なんてないよ。

「ごめんね、やらない。」
「なぜだ!」
「箱学のマネジになったら、箱学を応援しなきゃいけないでしょ?私は真ちゃんを応援するから箱学は応援できないよ。」

夏になれば、真ちゃんにとって最後のIHがある。
私は去年応援に行かず、怪我をして帰ってきた真ちゃんを見て後悔した。
だからその大会だけは応援に行くと決めていた。

「雛美ちゃんは、真護くんがよっぽど大事なんだな。」
「当たり前じゃない。箱学に入っても、応援するのは真ちゃんだよ。」
「じゃぁ何でてめェは総北に行かなかったんだよ。」
「お父さんの希望で女子高しかダメだったの。真ちゃん以外の男の人苦手だし、まぁいいかなって。」
「俺たちも苦手かい?」
「隼人くんたちは真ちゃんの知り合いだし、昨日遊んで少し慣れたよ。」
「それでわざわざ金城がここまできたのだな。巻ちゃんの言ってた事情とはこのことか。」
「パチくん、裕介くんから色々聞いたの?」
「あぁ、昨日雛美ちゃんと別れてから7回目でやっと出てくれてな!途中で切られてしまったが……。」
「7回目!?」

何度もかけなおすその根性に驚いたのと同時に、自分の時は必ず出るか折り返しをくれる裕介くんを思い出す。
結構マメで、メールとか電話とかくれる気がするんだけど……気のせいだろうか。
昨日の電話のことを熱く語るパチくんが面白かった。
そんな話をしているうちに休憩も終わり、練習が再開された。
私は真ちゃんの足がこれ以上痛まないように祈るばかりだった。




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