14




目が覚めると、外はまだ暗い。
起き上がろうとすると、体が軋むように少し痛んだ。
その痛みが、昨日のことを思い出させる。
横で眠っている靖友くんは、スース―と寝息を立てている。
その髪をそっと撫でると、サラサラした髪はすぐ指から離れてしまう。
それが何だか寂しくて、指に絡めるように撫でると手が伸びてきた。

「ンンっ……アキチャンやめ……。」

そう言って払いのけられた手を私はすっとひっこめた。
”アキチャン”と間違えられたことに私の不安が蓋を開けた。
好きだとは一度も言われていない。
付き合おうとも言われていない。
私がただ、気持ちを伝えただけ。
これがもしかして、俗にいうセフレというものなのだろうか。
私の心には、ぽっかりと穴が開いたようだった。
嫌な汗が背中を流れていく。
心がざわざわして、靖友くんを見るのがつらかった。
私は靖友くんに布団をかけなおして、部屋を出た。





シャワーを浴びると、幾分頭がスッキリした。
鏡に映った私には、昨晩靖友くんが噛みついた痕がたくさん残っていた。
それが、昨日のことが夢じゃないと実感させてくれる。
私と靖友くんは付き合ってない。
でも私が靖友くんを好きなことは変わらないし、好きになってもらえるかもしれない。
その可能性に、かけることにした。
少なくとも嫌われてはいないはずだ。
今はまだ、体だけでもいい。
いつか、付き合えるように。
そう努力すればいいだけだから。
私は自分に言い聞かせて、ソファに座り込んだ。
4時半、か。
寝なおすにも微妙な時間だし、睡眠はたっぷり取った。
私は疲れてそうな靖友くんを起こさないように、私は読書をして待つことにした。







暫くすると、寝室から物音がした。
靖友くんが起きたのかもしれない。
電気を少し暗くして寝室を開けると、靖友くんはベッドの上に座っていた。
こちらをちらりと見て、手招きしている。
近づくとそっと抱きしめられた。

「勝手にどっか行ってんじゃねェ。」
「うん、ごめんね。」

そのまま頭の匂いでも嗅いでいるのかスンスンと頭上で鼻息が聞こえる。
動こうにも頭を抱えるように抱きしめられていて、身動きができない。
一通り頭を撫で、嗅がれてからやっと解放された。

「おはよう。」
「ん、はよォ。」

目をこすりながらも起きた靖友くんの顔がぐっと近づいてきた。
私がそのまま目を閉じると、軽く触れるだけのキスをした。
それが私の不安をかき消していった。








いつもより早く起きたおかげで、朝はゆっくりと準備することが出来た。
靖友くんがお風呂に入っている間に朝ごはんを作って、出てきたら一緒に食べて。
コーヒーを飲みながらゆっくり話をすることもできた。
靖友くんは昨日と変わらなくて、時々ちょっとめんどくさそうにしながらも私の話を聞いてくれる。
その幸せが私を満たしていって、自然と笑みがこぼれる。
でもそんな時間は長くは続かない。
あっという間に出勤時間が近づいて、靖友くんも部活に向かう時間になる。
寂しさで、胸が詰まる。

「雛美チャン?」
「え、あ、何?」
「考え事ォ?」

話の途中だったのに、ボーっとしてしまった。
靖友くんは心配そうに私を覗き込んできた。
その顔が少し可愛く見えて、私はクスリと笑ってしまった。

「ううん、大丈夫。ごめんね、ちょっと仕事のこと考えてた。」
「イイケドォ……無理すんなよ。」

少し口を尖らせて、靖友くんはポンポンと頭を撫でてくれた。
笑ったことが気に障ったのかもしれない。
慌てて靖友くんの服を掴んで見上げると、ぎゅっと抱きしめられた。

「わっ、どうしたの?」
「……また来っからぁ。」
「……うん。」

靖友くんは口角を上げてにやりと笑うと、自転車と鞄を手にして玄関へ向かった。
まるで私がして欲しいことを知ってたかのようなその行動に、私の頬は熱くなった。
やっぱり私は、靖友くんが好き。
靖友くんがまだ私の方を向いてなくても。
玄関まで見送りにいくと、靖友くんは振り返った。

「また連絡するからァ。」
「うん、私もする。」

いってらっしゃい、そう言っていいのか分からずに小さく漏らした言葉は靖友くんに届いたらしい。
ニヤリと笑って、”行ってきます”そう言った靖友くんを見送った。
そのやり取りが、私の寂しさを癒して心を暖めた。
大丈夫、頑張れる。
私も支度を済ませて家を出た。







会社についてすぐに、笹谷さんに見つかってしまった。
あの後、相当文句を言われたそうでとても怒っていた。
それでも何とか謝り倒して許してもらうと、笹谷さんは捨て台詞のようにすれ違いざまに呟いた。

「男いるなら早く言ってよねー。」

その言葉を訂正しようにも、笹谷さんはすぐにいなくなってしまった。
勘違いをさせたことに、少し罪悪感を覚えた。
だけど靖友くんと付き合っているように見えた、ということが私への自信に変わっていく。
今日はなんだか、心が軽かった。



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