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翌日の朝、支度をしていると携帯が鳴った。
真ちゃんだと思って電話に出ると、予想外の声が聞こえる。

「あー、俺だけど。」
「あれ、裕介くん?おはよう。」

ディスプレイを見直すと巻島裕介と書いてある。
どうやら聞き間違いではないらしい。

「どうしたの、朝にかけてくるなんて珍しいね。」
「お前……金城と昨日なんかあったっショ。」
「昨日?」

どうやら私と電話を切った後、真ちゃんと裕介くんは電話で話していたらしい。
その時の様子がなんだかおかしかったというのだ。
何かおかしなことあったかなぁ。
そう思いながら昨日のことを一つ一つ思い出して上げていく。
もちろん、水着のことだけは言わなかったけど。

「それくらいだと思うけど?」
「あー多分それだな。」
「どれ?」
「水着着替える前ショ。なんで金城じゃなく荒北を選んだんだよ。」
「別に真ちゃんをないがしろにしたとかじゃないもん……。」
「ったく世話の焼ける。いいか小鳥遊、金城と楽しく過ごしたきゃあいつに甘えとけ。それが一番手っ取り早いショ。」

”金城をまともに戻して帰してくれよ”そう付け加えて裕介くんは電話を切った。
まるで私が真ちゃんを操っているような言い方に、少しムッとした。
それでも言うとおりにすれば真ちゃんの機嫌が良くなるなら、そうしよう。
一緒に過ごせるのはあと二日しかないのだ。





寮を出たところで、真ちゃんから電話がきた。
今度は間違ってないかきちんと確認してから出る。

「もしもし?おはよ!」
「あぁ、おはよう。」
「今ね、寮でたとこだよ。自転車部ってどっちかなぁ。」
「俺は今部室についた所だ。後で迎えに行くから少し待っててくれるか。」
「ん、わかったー。早くね?」

そう言って電話を切る。
今日はとてもいい天気で、空がキラキラ輝いて見えた。
暫くして、真ちゃんがやってきた。
駆け寄るといつものように頭を撫でてくれる。

「おはよう。」
「あぁ、おはよう。待たせたな。」
「ううん!行こう?」

そう言って手を出すと、迷わず繋いでくれる。
その手の温もりがとても心地よくて、いつもより少しくっ付いて歩いた。
時々お互いの体に、手が当たる。
真ちゃんの顔はいつもより穏やかで、私も思わずにこにこしてしまう。
そうして歩いていくと、遠くに部室が見えてきた。
総北より大きくて立派な部室の近くにはたくさんの女の子がいた。
その横を通り過ぎて部室まで行くと、外で待つよう促された。
周りでバタバタと準備をしている部員の人たちの邪魔にならないように、端っこに座り込んだ。
凄い人数だなぁ、そう思いながら眺めているとふっと影が出来た。
見上げると知らない男の子が怖い顔で私を見下ろしている。

「おい、見学ならここまで来るな。迷惑だ。」

その目が本当に怖くて、私は何も言えずに固まってしまった。
真ちゃんもいない、知らない人ばかりの知らない場所。
どこに行けばいいかもわからず、目には涙が溜まっていく。
するとその男の子は私の二の腕をぐいっと引っ張って立たせた。

「迷惑だって言っ」
「黒田ァ、泣かせてんじゃねェぞ。」

立ち上がった瞬間、涙がポロリと落ちる。
だけどその男の子の声を遮って、聞き覚えのある声がした。
振り向くとそこにはやすくんがいる。
知っている人がいることに安心して、余計にボロボロと涙が溢れた。

「や、やすく……。」
「荒北さん、知り合いすか?」
「そいつァ、総北の連れなんだよ。東堂のファンじゃねェ。」
「えっ、どういうことすか?」
「今日から二日間、総北から一人練習に参加するって福チャンが言ってただろーが。その連れだからいいんだよ。」

テメーもそんなことで泣いてんじゃねぇよ、そう言いながらも引き寄せてくれて男の子から引きはがしてくれた。
黒田、と呼ばれた男の子はポカンと口を半開きで私とやすくんを見比べている。

「いや、それはわかりますけど……連れってどうい」
「細けぇこたぁいいんだよ、めんどくせぇなァ。知りたきゃ新開にでも聞いとけ。」

涙を拭いて、やすくんの後ろに隠れた。
わき腹のシャツを掴むとくすぐったかったのかチラリとこちらを見たやすくんは、少し目を見開いてめんどくさそうな顔をした。
不思議に思って振り向くと、そこには真ちゃんが立っていた。
その顔は少し怒っているようで、私と目が合うと心配そうな顔に変わる。

「どうした、泣いていたのか?何があった?」
「な、何でもないの。大丈夫、やすくんが……その、助けてくれて。」
「何もしてねェよ。」

やすくんは私の手を払うと、めんどくさそうにそう言う。
そんな風にされたことが少し寂しくて手を見つめていると、真ちゃんがそっと握ってくれた。
その手は大きくて暖かくて、私は嬉しくなる。

「一人にして悪かった。今日は俺のサポートを頼めるか?」
「いつもと同じことしたらいいの?」
「あぁ。わからないことはここのマネージャーさんたちに聞くといい。話はしておいた。」
「うん、わかった。」
「練習前に挨拶をする時間を作ってもらった。雛美もそこでちゃんと挨拶するんだぞ。」
「はーい……。」

人前で挨拶をする、ということが少し私の気を重くさせた。
それでも言われたことはきちんとやらなければ。
練習前にマネージャーさんたちに水場や道具の場所を聞いて準備をしていると召集がかかった。
慌てていくと、福富くんをはじめ昨日のメンバーがいて少しホッとする。
挨拶の時は、真ちゃんがずっとそばに居てくれたおかげでなんとか話すことができた。
そしてとうとう、練習が始まった。



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