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今日は、一日中幸せな気分だった。
靖友くんの匂いが残る部屋を堪能しつつ、掃除をしたり週末のまとめ買いをしたり。
今朝のことを思い出しては、頬が緩んだ。
週末の予定を全て終え、少し早めの夜ご飯を食べているとスマホがメールを知らせた。
見てみると靖友くんからで、どうやら練習が終わったところらしい。
お疲れ様、と返すとすぐに電話がかかってきた。

「練習お疲れ様。」
「ん、アンガトネェ。今どこにいんのォ?」
「うん?家でご飯食べてるよ。」
「…今から行くからァ。メシ、作ってくんナァイ?」

靖友くんが来てくれる。
私は嬉しくて、二つ返事で快諾した。






30分ほどして、スマホが鳴った。
電話は靖友くんからで、すでにマンションの前にいるらしい。
オートロックを開けると、何かを言い淀んでいる。
どうしたの、と聞いたら自転車のことだった。
そうえば、靖友くんの部屋には綺麗な自転車が置いてあったのを思い出す。

「うちの自転車置き場、契約制だから止められないの。部屋に置いていいよ。」
「それは流石に悪ィから。」
「大丈夫だって。リビング広いし中まで持ってきて?」
「……アンガトネェ。」

そういうと電話は切れた。
大きめのバスタオルを敷いていると、インターホンが鳴る。
急いでドアを開けると、ピッタリと体にフィットした服装の靖友くんがいた。

「おかえり。」
「ン、ただいまァ。」

何だか一緒に住んでいるようで、心がムズムズする。
きっと顔は赤くなっている、そう思って俯くとおでこにキスされた。
びっくりして顔を上げると、靖友くんの頬もうっすらとピンクに染まっている。
部屋に上がってリビングに自転車を置いてもらう。

「マジでここ置いていーのォ?タオル汚れっからいらねぇ雑誌とかでいンだけど。」
「うち雑誌とかないし、タオル使っていいよ。それも使い古しだから。」

そう言うと靖友くんはおずおずとタオルの上に自転車を置いた。
ブルーグリーンの、とっても綺麗な自転車は私の知っているものと違ってとても華奢に見える。
これが、ロードレーサーかぁ。
靖友くんがこれに乗っているんだと思うと、なんだかとても神聖なものに見えてため息が出た。
そんな私をみてニヤリと笑った靖友くんは、私の頭をそっと撫でた。

「珍しいモンでも見るような目しやがって。」
「だって初めてちゃんと見たんだもん、すっごく綺麗でカッコイイね。」

そう言うと、靖友くんは少し驚いたような顔をしてふいっと目を逸らしてしまった。
薄ら頬がピンクに染まっているのは、照れたということだろうか。
靖友くんの新しい一面を見た気がして頬が緩む。
そんな私を見て小さく舌打ちした靖友くんは、キッチンにちらりと目をやった。
あ、ご飯途中なんだった!

「ごめん、まだご飯出来てないの。もう少し待っててくれる?」
「アー、先にシャワー貸してくんねぇ?」
「そっか、部活終わったばかりだもんね。タオル出すから、先お風呂行ってていいよ。」

おう、と小さく返事をした靖友くんを見送って、寝室からバスタオルを取り出した。
すぐに行ったら脱衣所でかち合うかも、そう思って先に料理を進めることにした。
お風呂場からシャワーの音が聞こえてきたのを確認して、バスタオルをそっと置いた。

「タオルここに置いとくから。」
「アンガトネェ。」

お風呂場で反響した靖友くんの声が、やけに色っぽく聞こえてドキリとする。
きっとここは靖友くんの匂いでいっぱいだからそう思うんだ。
早くここからでなくちゃ。
そう思ってドアを開けると、後方でガチャリと音がした。

「雛美チャン。」
「ひゃ、ひゃいっ。」

後ろを振り返ることもできず、変な声で返事をしてしまった。
クツクツと意地悪そうな笑い声が後ろから聞こえる。

「んなビビんなって。悪ィんだけどリビングに置いてきちまった鞄持ってきてくんねぇ?」
「あ、う、うん!脱衣所の前においとくね!」
「悪ィな。」

そう言ってまたガチャリと音がして、シャワーの音が遠くなる。
私の方が年上のはずなのに、どうしてこんなに余裕がないんだろう。
少し自分が悲しくなった。
”経験不足”と前に優衣にからかわれたことを思い出す。
靖友くんは……慣れっこなのかなぁ。
胸がちくりと痛んだ。








靖友くんがシャワーから上がる頃にはなんとかご飯の準備が出来た。
どれくらい食べるかわからなくて、ちょっと多めに作ってしまったのだけど荒北くんはペロリと全てたいらげてしまった。

「ごっそーさん。」
「お粗末様でした、っていうか足りた?果物くらいならあるけど……。」

食器を下げようと立ちあがると、ぐいっと靖友くんに腕を引っ張られた。
体勢を崩してしまい、靖友くんに倒れ込むような形になってしまった。
立ち上がろうとすれば、そのまま抱きかかえられてしまう。

「果物よりこっちがいーんだけどォ。」
「ひゃぁっ。」

そう言いながら、ぺろりと頬を舐めあげられた。
驚きと恥ずかしさで変な声は出るし、きっと顔は真っ赤になっているだろう。
それを見られたくなくて顔を背けると、今度は首筋を舌が這っていく。

「すっげー良い匂い。」
「あ、お風呂!入ってないから埃っぽ……んんっ。」

逃げようにもうなじに当てられた手がそれを許さない。
首元でスンスンと鼻を鳴らしながら耳に噛みつかれて体がびくりと跳ねた。
痛みとは違う何かが私の体を走り抜ける。
身を捩っているうちに、いつの間にか靖友くんの膝の上に座らされていた。

「やす、ともくっ……んぁっ」
「ハッ、すっげー感度。」

靖友くんが口角を上げて笑う。
耳や首筋に当たる息も、甘噛みされる耳もゾクゾクする。
動かそうとしてない肩も足も勝手に動いてしまう。
ジーンズの上からだというのに、撫でられた太ももさえも私をゾクゾクさせた。

「雛美チャン。」
「うっ…んっ?」
「もっと気持ちいいことしナァイ?」

ふぅっと耳に息を吹きかけられて、一際大きく体が跳ねた。
思わずよろけた私を靖友くんの手がしっかりと支えてくれる。
靖友くんの顔は見れない、だけど。
私は一度だけゆっくりと頷いた。



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