12



部活に行くとタオルはねぇ着替えもねぇ、ボトルも洗ってねェ。
何してんだって先輩たちにどつかれながらも、気分はすげー良かった。
どこまでも走れる気がした。タイムもぐんと伸びた。
今までの不調がウソみてぇに体が軽かった。
部活が終わってすぐに雛美にメールした。
見送ってくれた顔がちらついて、頬が緩んだ。
家に帰るとちょうどメールがきて、労う言葉に心が跳ねた。
気が付いたら、電話してた。


「練習お疲れ様。」
「ん、アンガトネェ。今どこにいんのォ?」
「うん?家でご飯食べてるよ。」
「…今から行くからァ。メシ、作ってくんナァイ?」

流石に今からはまずいか、言ってから後悔した。
だけど雛美は”待ってる”なんて言いやがるから、部屋で一人なのにガッツポーズしちまった。
ダセェ。
俺ははやる気持ちを抑えて、適当に着替えとか詰め込んで家を出た。
雛美の家の周りは、走ったことがある。
適当に走ってもそのうちつくのはわかってた。
だけど何より早く顔が見たい。
コンビニに寄って適当に菓子を籠に突っ込みながらスマホで地図を見た。
どの道が一番近いかを確認してスマホを閉じた。
ふと、目の前にあるものが写る。

「一応、な。」

一人そう呟いて、ポリウレタン製のそれを籠に突っ込んだ。







道を調べたかいあって、思っていたより早く雛美のマンションを見つけることができた。
いつもより早く回したせいか、少し汗ばんだ体が気持ち悪い。
それでも雛美に会える、それだけが俺を動かした。
マンションの前についたは良いが、自転車を置く場所がねぇ。
しかもオートロックときて、どうしようか暫く悩んだ。
自転車でくるんじゃなかったな、そんなことまで考えた。
一人で悩んでも答えはでねぇ、仕方ねぇから雛美に電話すると弾んだ声が聞こえる。
ドキンと胸が高鳴った。
自転車できちまったことを話したら、雛美はさも当然のように言った。

「うちの自転車置き場、契約制だから止められないの。部屋に置いていいよ。」
「それは流石に悪ィから。」
「大丈夫だって。リビング広いし中まで持ってきて?」
「……アンガトネェ。」

整備してるとはいえ、外を走っていた自転車を家に入れるのは気が引けた。
ロード乗ってるやつならわかる、だけど雛美は何も知らないのに。
それでも快く部屋に入れてくれることに、嬉しくなる。
部屋の前についてインターホンを鳴らすと、長めのTシャツにジーンズ姿の雛美が出てきた。
部屋着っぽいその姿に、妙にそそった。

「おかえり。」

おかえりと言われたことに少し驚いた。
それでもにっこり笑っている雛美につられて俺も笑った。

「ン、ただいまァ。」

そう言うと顔を赤くして雛美は俯いた。
それが可愛くて、少し屈んでおでこに口を寄せた。
何か照れんな、こーいうの。
パッと顔を上げた雛美に見られないように少し目を逸らした。
それでもにこにこ笑いながら、雛美は部屋に通してくれた。
廊下に置こうとした自転車を、雛美がリビングに促す。


「マジでここ置いていーのォ?タオル汚れっからいらねぇ雑誌とかでいンだけど。」
「うち雑誌とかないし、タオル使っていいよ。それも使い古しだから。」

使い古し、雛美はそう言ったけど綺麗に見えて気が引けた。
でも他に置く場所もねぇ。
そっと置かせてもらうと、雛美がにっこりと笑った。
その顔、マジで心臓に悪ィんだよ。
そのまま目を落とし、じっとビアンキを眺める雛美は何だか楽しそうだ。

「珍しいモンでも見るような目しやがって。」
「だって初めてちゃんと見たんだもん、すっごく綺麗でカッコイイね。」

自分が褒められたわけじゃねぇのに、何だか照れた。
それと同時に、自分のビアンキに少し嫉妬している自分がいて何とも言えない気分になる。
その様子を雛美がじっと見てやがるから、舌打ちした。
ダセェとこ見んじゃねェよ、バァカ。
目を逸らすと、キッチンが映った。
良い匂いがして腹が減る。

「ごめん、まだご飯出来てないの。もう少し待っててくれる?」
「アー、先にシャワー貸してくんねぇ?」
「そっか、部活終わったばかりだもんね。タオル出すから、先お風呂行ってていいよ。」

ジャージのまま飯を食うわけにもいかねぇし、着替える前にシャワー借りることにした。
風呂場に行くと雛美の匂いがして、一瞬頭がクラっとした。
長く入ってられねぇから、服を脱ぎ捨てるようにシャワーを浴びた。
少ししてノックの音がして、雛美が入ってくるのがわかった。

「タオルここに置いとくから。」
「アンガトネェ。」

磨りガラスの向こうに雛美が見える。
気を使ってんのか、磨りガラスだから見えやしねぇのにこっちをちらりとも見ねぇ。
少し苛めたくなって、ドアを開けた。

「雛美チャン。」
「ひゃ、ひゃいっ。」

肩を震わせて返事をした雛美が可愛くて笑いが漏れた。

「んなビビんなって。悪ィんだけどリビングに置いてきちまった鞄持ってきてくんねぇ?」
「あ、う、うん!脱衣所の前においとくね!」
「悪ィな。」

別にタオル巻いて取りに行っても良かったんだけどな。
俺はドアを閉めてシャワーの続きを浴びた。






風呂場から出ると、さらにいい匂いがしていて腹が鳴った。
椅子に座るともう準備が出来ていて、手を合わせて食べ始めた。
食べてる間中ずっと見られているのがなんだかもどかしい。
それでも雛美が嬉しそうだから、俺は何も言わずに食べ続けた。

「ごっそーさん。」
「お粗末様でした、っていうか足りた?果物くらいならあるけど……。」

そう言って立ち上がった雛美の腕を掴んで引き寄せた。
倒れ込んできた雛美を抱きしめると、いつもと少し違う匂いに興奮した。

「果物よりこっちがいーんだけどォ。」
「ひゃぁっ。」

ポカンとしてる雛美の頬を舐めると色気のねぇ声が出た。
そのくせ真っ赤になってやがるから、つい悪戯心がうずいた。
顔を逸らした雛美の匂いを嗅ぎながら、首筋を舐め上げた。

「すっげー良い匂い。」
「あ、お風呂!入ってないから埃っぽ……んんっ。」

うなじをしっかり掴んで固定して、首や耳を刺激した。
耳に軽く噛みつくと、少しのけぞった。
逃げる雛美を誘導して膝に座らせると、あちこち撫で回す。
逃げようにもうなじに当てられた手がそれを許さない。

「やす、ともくっ……んぁっ」
「ハッ、すっげー感度。」

どこ触ってもいい声で鳴きやがるから、俺も反応せずにはいられない。
我慢できそうにねぇ。
ピクピク反応する雛美が可愛くてそっと囁いた。

「雛美チャン。」
「うっ…んっ?」
「もっと気持ちいいことしナァイ?」

一際大きく跳ねた雛美を抱きしめると、体をそっと預けてきた。
そうしてゆっくりと一度頷いたのを見て頬が緩む。
コンビニ、寄って正解だったな。



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