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目が覚めると、外は既に白み始めていた。
時計を確認しようと起き上がると、するりと手が伸びてくる。
私はその手に抱きかかえられるように捕まってしまった。
そういえば、昨日靖友くんと……。
寝ぼけているのだろうか、靖友くんの目はまだ開いていない。

「やすとも、くん?」
「ん……ナァニ。」
「始発、もう走ってるよ?早く起きないと。」

そっと頬に触れると、ふにゃりと顔が緩んだ。
その姿が可愛くて、私の口元もつい緩む。
それでもこの明るさが、私を少し焦らせた。

「何か予定あるんでしょ?私ご飯作ってくるね。」
「肉食いてぇ。」
「肉?うん、わかった。」

うっすら開いた瞳がちらりと私を見た。
そのあとまたすっと閉じていく。
どうやらご飯が出来るまで寝るつもりらしい。
時間大丈夫なのかなぁ。
私は靖友くんに布団をかけなおして、そっと部屋を出た。




顔を洗って、とりあえず有り合わせで朝食を作った。
靖友くんがまだ起きてこないので寝室に行くと、しっかり二度寝していた。

「靖友くん、ご飯できたからたべよ?」

ポンポンと肩をたたくと、そのまま引き寄せられる。
私は体勢を崩して、靖友くんの上に倒れ込んだ。
下からはクツクツと笑い声が聞こえている。

「うあっ、起きてたの?」
「ん、ちょっと前に起きたァ。」
「時間大丈夫?もう7時過ぎてるよ?」
「アー……こっから直で行けば間に合うだろ。」

私の髪を指にくるくる巻きながら、靖友くんはあくびをしている。
時折こちらを見たかと思えば、あちこちに軽くキスされた。
心の中が、暖かいもので満たされていく感じがした。
好きな人と一緒に過ごせるって、こんなに幸せなんだなぁ。
寝起きのせいか、目がしっかりと開いてない靖友くんはとても無防備な顔をしている。
私は放っておけばいつまでも布団でごろごろしていそうな靖友くんを起き上がらせて、リビングに戻った。







一緒にご飯を食べながら、靖友くんの入っている自転車競技という部活の話をしてくれた。
毎日活動があると聞いて驚いたけど、”大学生”というものに憧れている私には知らないことがたくさんあって面白かった。
ご飯を食べ終わるとすぐに準備を始めた靖友くんの表情は私に向けるものと少し違っていて、少し胸が痛んだ。
あんな顔もするんだ。
真剣なその顔は、見たことのないもので。
靖友くんが自転車に向き合う姿勢そのものに見えた。
準備を終えた靖友くんを玄関まで見送りに行くと、靖友くんが立ち止まっていた。

「どうしたの?忘れ物?」

そう聞くと振り返り、首に手を当てて何やら悩んでいる。
こちらに向き直ったかと思うと、ぎゅっと抱きしめられた。

「俺も連絡すっからァ……雛美チャンもしてヨ。」
「う、うん!する!絶対する!」
「ん……またくるからァ。」

そう言って触れるだけのキスをして、靖友くんは出て行った。
恋人同士ってこんな感じなんだろうか。
今まで付き合っても長続きせず、彼氏を家に入れたことのない私には初めてのことばかりだ。
あれ、でも私と靖友くんって付き合ってるの?
気持ちは伝えたけど、靖友くんの気持ちを聞いていないことに気づく。
少し不安になったけど、幸せな気持ちにはかなわなくて。
私はそっとその不安にふたをした。




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