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触れていた物が急になくなって目が覚めた。
それを追いかけるように捕まえて、腕の中に閉じ込めると優しい声が降ってきた。

「やすとも、くん?」
「ん……ナァニ。」
「始発、もう走ってるよ?早く起きないと。」

あぁ、もうそんな時間か。
眩しくて目は開けられないけど、この明るさはたぶん……。
それでも起きる気がしなくて布団にもぐろうとすると、そっと頬を撫でられた。
それが心地よくて、目を開ける気がしない。
このまま部活なんて休んじまおうか。
そんなことすら考えてしまう。

「何か予定あるんでしょ?私ご飯作ってくるね。」
「肉食いてぇ。」
「肉?うん、わかった。」

今更予定がなくなったなんて言ったら、きっと雛美は自分を責めるだろう。
だから仕方なく、俺は目を開けた。
寝癖のついた雛美は少し困ったように俺を見ていて、それがとても可愛く見える。
起こそうとしているらしいが、まだ今はこの匂いの中にいたい。
再び目を閉じると、雛美は部屋を出て行った。





どれくらいそうしていただろう。
キッチンの方で少し音がしていて、料理をしているのがわかる。
ベーコンか何かの焼ける匂いが鼻をくすぐって、頭が冴えてきた。
そろそろ起き上がろうか、そう思っているとドアが開き雛美が入ってきた。

「靖友くん、ご飯できたからたべよ?」

そう言いながら近寄ってきた雛美を、そのまま布団に引きずり込んだ。
油断していたんだろう、それなりの勢いを付けて俺に倒れ込んできた。

「うあっ、起きてたの?」
「ん、ちょっと前に起きたァ。」
「時間大丈夫?もう7時過ぎてるよ?」
「アー……こっから直で行けば間に合うだろ。」

7時、か。
家に帰ると間にあわねぇな。
時間ねぇのに、動く気がしねぇ。
寝癖が直ってしまっている雛美がなんだかとても残念で、どうにかクセがつかないかと髪をいじくっていた。
ちらりと雛美を見ると不安そうにこちらを見ていて、その姿に思わずキスした。
抵抗しないのをいいことにあちこちキスしていると、下半身も反応し始める。
起き上がりたくねぇ……。
そう思っていたのに、雛美に起こされてリビングに連れて行かれてしまった。





朝飯を食いながら、今日の予定はなんだというので部活の話をした。
俺の話をキラキラした目でふんふんと聞く雛美が可愛くて、つい長話をしてしまった。
ヤバい、時間ねぇ。
慌てて準備して、玄関に行くと雛美が後ろをちょこちょことついてきた。
それがやたら嬉しくて、でもそれをどう伝えていいかわからない。

「どうしたの?忘れ物?」

心配そうに聞く雛美の方をちらりと見ると、居間の方をきょろきょろしている。
荷物殆ど出してねぇのに忘れ物なんてねぇよ。
でもなんつったらいいんだ?
色々浮かんでは消えていく言葉がもどかしい。
顔見ながらなんて言えねぇな。
俺は振り返っておろおろしている雛美を、抱きしめた。

「俺も連絡すっからァ……雛美チャンもしてヨ。」
「う、うん!する!絶対する!」
「ん……またくるからァ。」

雛美はパッと嬉しそうに顔を上げた。
その唇にそっとキスをして、部屋を出た。
赤い顔は見られずに済んだだろうか。
付き合うってこんな甘ったるいもんだったか?
それでもこの甘さ、嫌いじゃねぇ。
練習終わったら今度こそちゃんと連絡しよう、そう心に決めて部活へ向かった。





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