10




暫く靖友くんの膝の上に座ったまま、私の話をしていた。
義姉は幼馴染で弟がいるとか、兄とは年が離れているとか。
トモくんの話や、仕事の話もたくさんした。
自分から色々話すのは苦手なはずなのに、靖友くんだとすらすら出てくるのが不思議だ。
靖友くんに聞かれるままいろんなことを話していたら、あっという間に時間は過ぎていった。
時計を見るとすでに日付が変わっていて、慌てて靖友くんの膝から降りた。

「ごめん!終電もうないよね?」
「ん、そーだネ。」
「タクシー呼ぶ?明日の予定とか大丈夫?」
「始発で帰りゃ問題ねぇよ。」

慌てる私を見ながら、靖友くんはニヤリと笑った。
始発で、ってそれまでは……?
おろおろしていると、靖友くんに腕を引かれてまた抱きかかえられた。

「何もしねぇから泊めくんねぇ?」

そう言いながら首筋を舐められる。
これは”何もしない”の範囲内なのだろうか。
それでも逃げるという選択肢も、拒むという選択肢も私にはない。

「う、うん。ベッド使って?私ソファで寝るし。」
「一緒に寝ねぇの?」
「え、でも狭いよ?」
「俺のベッドのが狭くねェ?」

クツクツと笑う靖友くんの手が服に入ってきて、太ももやわき腹をそっとなぞった。
ゾクゾクしてのけぞると、反対の手で優しく支えてくれた。
そのままくすぐるかのようにわき腹やおへその周りを指でなぞられて、私は我慢できなくなった。

「やっ……だめぇ、くすぐったいからぁ!」
「色気のねぇ声出してんじゃねぇよ。」

笑って暴れてしまう私を両腕でしっかりと抱きとめて、靖友くんが笑う。
そんなこと言われたってくすぐったのは靖友くんなのだから、仕方ないと思う。
一通り笑いが収まって靖友くんを見ると、くしゃりと頭を撫でられた。
顔が近いからか、靖友くんの匂いが濃く感じてスンスン鼻を鳴らして嗅いでいると鼻をぎゅっとつままれた。

「汗くせぇから嗅ぐなバァカ。」
「いいにほいらもん。」
「ッセ。シャワー貸してくんねぇ?」

コクコクと頷くと、靖友くんは私を膝から降ろして伸びをした。
その姿がトモくんに見えて、私はクスリと笑ってしまった。






着替えは持っているという靖友くんをお風呂場に案内すると、一緒に入ろうと言うので何とかかわして寝室に戻った。
うっすらと靖友くんの匂いがする部屋は何だか少しドキドキする。
見られてまずいようなものはないはずだけど、そう思いながらも少し片づけていくとカチャリとドアが開いた。
振り返ると靖友くんがいて、髪から水がぽたぽたと垂れている。
それがやけにかわいく見えて、また笑ってしまった。

「ナァニ笑ってんだよ。」
「いや、髪くらいちゃんと拭きなよ。」
「めんどくせェから雛美チャンがやってヨ。」

そう言って私の前にかがむと、タオルを乗せた頭を差し出してくる。
子どもみたいだな、そう思いながらも髪に触れられるのが嬉しくてそっと拭いた。
靖友くんの頭から自分と同じシャンプーの匂いがするのは、なんだかとても不思議な気分だった。
ドライヤーで乾かしている間も大人しく頭を下げている靖友くんは、いったいどんな顔をしているんだろう。
ドライヤーを止めてそっと覗きこんでみると、真っ赤な顔をした靖友くんと目が合った。

「ンだよ。」

そう言って拗ねるようにそっぽを向いてしまったけど、怒っているわけではないらしい。
唇を尖らせているのがとても可愛い。

「待ってっからァ。雛美チャンも入ってこいよ。」
「うん。」

”待ってる”そう言われたのが何だかとても嬉しい。
靖友くんに促されて、私はお風呂場へと向かった。




お風呂から戻ると、靖友くんはベッドで横になりながらスマホを操作していた。
私に気が付くと起き上がって、隣をポンポンと叩く。
促されるままそこに座ると、膝に頭が乗ってきた。

「雛美チャンおっせぇ。」
「ご、ごめん。でも……。」

靖友くんが早すぎるんだよ、とはとても言えずに口をつぐむ。
そんな私を見て靖友くんは座りなおした。

「責めてねぇからァ。つーか眠ィんだろ?横になればァ?」
「う、うん。」

アルコールのせいだろうか、確かにとても眠い。
それに撫でられている心地よさと靖友くんの匂いも相まって、私は瞼がきちんと開けられなかった。
先に横になった靖友くんの横にそっと並ぶと、ぐいっと引き寄せられた。

「何もしねぇから。」

そう言って抱きしめられる。
何されてもいいんだけどな。
それでも今は眠気の方が勝ってしまっているらしい。
靖友くんの胸にすりすりとおでこをこすりつけていると、いつの間にか私は眠ってしまった。





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