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夜ご飯を食べているとき、何だか変な感じがした。
お昼と同じ配置で座ったけど、やすくんはじっと私を食い入るように見ていた。
私のハンバーグが欲しいのかと思って少し分けてあげたら”違う”と怒るくせに食べていた。
隼人くんはずっと私と真ちゃんを交互に見ていた気がする。
パチくんの演説のような話を聞いているはずなのに、誰もそっちを見もしない。
真ちゃんはと言えば、ご飯が食べ終わった途端手を繋いできた。
別に嫌なわけではないし、よくあることなんだけど色んなことが交わって頭の中でグチャグチャに混ぜられた気分だった。
一人一人が、何かが変だった。
でも私は真ちゃん以外のみんなの”ふつう”を知らないから、何が変なのかはわからなかったけど。
あ、でも福富くんは変わってなかった気がする。
何だか違和感を残したまま店を出ると、寮の門限が近づいていた。
寮とホテルは反対方向だったのでその場で少し話をした。

「今日はここで解散だな。」
「ではまた明日会おう!部室で待っているぞ!」
「うん、じゃぁまた明日ねぇ。」

そういって真ちゃんについていこうとすると、みんなが変な顔で私を見た。
手を繋いでいる真ちゃんですら、私を見て固まっている。
あれ?変なこと言った?

「てめェどこ行くんだよボケナス。」
「え、ホテル?」
「雛美、俺はシングルしか取っていないんだ。」
「シングルとかの問題じゃないだろう。」
「え?何?ダメ?」
「いかん、いかんよ!」
「ダメだろうな。」
「いいわけねぇだろ。」

パチくんと隼人くんとやすくんが同時に突っ込んできた。
真ちゃんを見るとおでこに手を当てて”やれやれ”とでも言いたげにため息をついた。

「雛美。今日はシングルしか取ってないし、ベッドは一つしかない。しかもビジネスホテルだから大層な設備はない。」
「うん?」
「だからァ、同じ布団で寝るしかねーつってんだろ。オラ、さっさと帰んぞ。」
「同じ布団じゃダメなの?」

そう言うと、全員から同じタイミングでため息が出た。
あれ、私がおかしいの?

「だって家にいるときはたまに一緒に寝てたじゃん、なんで今更だめなの?」
「「「ハァ?!」」」
「雛美、家とホテルでは違う。今日は帰れ。」
「ちょっと待て真護くん。どういうことだ。」

みんなと私の常識はかなり食い違っているらしく、どうやら”女の子が恋人ではない男と一緒の布団で寝てはいけない”らしい。
それがたとえ真ちゃんであっても、と言われてもピンとこない。
だって真ちゃんは従兄弟で幼馴染なのに。

「金城、どういう教育をしているんだ。」
「いや……色々事情があってな。」
「むしろよく我慢できたな、ちょっと尊敬するよ。」
「雛美ちゃんは無防備すぎるのではないか。最初の警戒心はどこへいったのだ。」
「真ちゃんは家族と同じだもん……。」

その言葉にまたみんながため息をついた。
非常識扱いされてるみたいですごく心外だ。
だけど今日はもう遅いし、寝る前に電話することを条件に私は寮に帰ることにした。
一人ぼっちの寮には、帰りたくないのに。
それでもみんなが寮の前まで送ってくれるというので、しぶしぶ歩き出した。
空いている右手が、なんだかやけに寂しく感じた。






寮に帰って寝る支度をしていると、携帯が鳴った。
もちろん相手は真ちゃんで、私はすぐに出た。

「もしもし?真ちゃん?おかえりなさい!」
「あぁ、ただいま。雛美もおかえり。」
「うん、ただいま!」

いつもの優しい真ちゃんに、心がほっこりする。
今日あったことを色々思い出しながら話していると、ふと疑問がよぎった。

「ねぇ真ちゃん。私と一緒に寝るのは嫌?」
「どうした、急に。」
「ん、今日みんながダメって言った時、真ちゃんもダメって言ったのがびっくりした。」
「嫌なわけじゃない。だけどあまり人前で言えるようなことではないからな。」
「そ、っか……。」

なぜだろう。
私の気持ちよりも世間体を気にした真ちゃんに、心がちくりと痛んだ。
今日はやけに痛むなぁ。
暫く話をしていると、あくびが出てきた。
色んな人と会ったりプールに入ったりしたから疲れたみたいだ。

「真ちゃん、もー眠たい。」
「そうか、ゆっくり寝るんだぞ。また明日電話する。」
「ん、練習見に行くから……おやすみぃ。」
「おやすみ。」

電話が切れるよりも前に、私は意識を手放していた。
遠くで名前を呼ばれた気がしたけど、それが夢なのか現実なのかわからなかった。




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