09





”体を冷やすといけないから”というパチくんの意見で、気まずいけど温泉に入って帰ることにした。
女湯には私しかいなくて、なんだかとても寂しい。
さっきまではみんながいてとても楽しかったのに。
寮に帰るとまた一人になるのかと思うと、帰りたくなくなった。
男湯が近いのか、パチくんの声が時々かすかに聞こえてくる。
あちらは楽しそうで、寂しさが募るばかりだ。
先に出て待つことにして、私は温泉を出た。





外に出ると、隼人くんがベンチに座っていた。
一人じゃないことにホッとしつつも、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
それでも避けるわけにはいかず、そっと隣に腰掛けると視線がちらりとこちらに動いた。

「隼人くんもう出たの?はやいね。」
「あぁ。」

会話が続かなくてもどかしい。
こういう時、真ちゃんはどうしてくれてたっけ……。
私は立ち上がって、隼人くんの頭を抱きしめた。
一瞬、隼人くんの体がびくりと動いた。

「隼人くん、あのね。私全然気にしてないの。ていうか、隼人くんのせいじゃないから。私が悪かったの。だからね……。」

笑ってよ、そういうと隼人くんはゆっくりと顔を上げた。
少し驚いたような顔をしていたけど、私が笑ったら隼人くんも笑ってくれた。

「本当に、ごめんな。」
「もういいって!それよりいっぱい遊んだからおなか空いちゃったー。夕飯何食べようかなぁ。」
「寮で食わないのか?」
「ん、せっかく真ちゃん来てくれてるから一緒に食べたいなーって。隼人くんは寮で食べるの?」
「雛美ちゃんがどこか行くなら、一緒に行こうかな。」

そうふんわりと笑った隼人くんは、元の隼人くんだった。
私はホッとしてまた隣に座りなおした。
時折そっと頭を撫でてくれる隼人くんの手は真ちゃんよりもやさしく触れていて、何だか少しくすぐったかった。





暫くすると、みんなが火照った顔で出てきた。
合流して外へ出ると、もう春だというのに空気はまだひんやりと冷たい。
少し体を震わせると、真ちゃんが右手を繋いでくれた。
そして左手に持っていた荷物を奪われたかと思うと、隼人くんの手が私の手を捕まえた。

「こうしてれば暖かいだろ?」
「何だか子どもになったみたい!」

にっこりと笑う隼人くんの手は、真ちゃんのよりも暖かくて気持ち良かった。
先にホテルにチェックインするという真ちゃんを見送って、私たちゲーセンで待つことになった。
普段ゲーセンと言えばプリクラかクレーンゲームくらいしかしたことがなくて、男の子の遊びは面白かった。
初めてやったレーシングゲームではボロボロだったけど、クイズゲームでは2位になれた。

「雛美ちゃん頭いいんだな。」
「雑学ばっかりだけどね、学校の成績はお察しって感じだよ?」
「そんなことはない!荒北を見てみろ、最下位だぞ。」
「ッセ!次何か違うのしよーよ福チャン。」
「む、何がいいんだ?」

うーん、とあちこち見て回っていると、プリクラの新しい機種を見つけた。
あれはまだ使ったことないな。
隼人くんをちらりと見ると、目が合って笑ってくれた。

「隼人くん、プリクラ撮らない?」
「お、いいなそれ。」
「何!新開だけとはずるいではないか!」
「じゃぁみんなで撮ろ?」
「ハッ、プリクラとかガキかよ。」

やすくんは悪態をついていたけど、隼人くんが福富くんを説得してくれてやすくんも一緒に撮ることになった。
でも男の子4人も入ると中は狭くて、すごくぎゅうぎゅうだ。

「ちょ、狭ぇんだけど!」
「こっちもいっぱいいっぱいだぞ。」
「誰か前に来なきゃダメだって!」
「では俺が前に行こうではないか。この俺が!」
「あとやすくんも前おいでよ、隼人くんと福富くんおっきいからその方がバランスが……。」

あれこれとモメている間にもドンドン撮影は進んでしまって、結局誰かが見切れたりそもそも誰もカメラを見ていなかったりだとか中々面白いプリクラが出来た。
出てきたプリクラをカットし終わると、パチくんと隼人くんは好きなのを一枚持っていった。

「これが一番俺の良さが際立っているな!俺はこれにしよう。」
「じゃぁ俺は雛美ちゃんが笑ってるこれにするよ。」
「ふふ、隼人くん選ぶ基準がへんなのー。あんまりいいのないけど、やすくんと福富くんどれがいい?」
「む、俺もか?」
「いらねぇ。」

福富くんは控え目に一枚持っていった。
やすくんは至極めんどくさそうにこちらをちらりと見たきり、興味がなさそうだ。

「じゃぁもらってもいい?」
「好きにすればァ?」

手帳を開いてプリクラを張っていると、何かがおでこに触れる。
くすぐったくて顔を上げると、すごく近くに隼人くんの顔があった。
どうやらおでこに触れていたのは隼人くんの髪だったらしい。

「うわっ、びっくりした。どうかしたの?」
「いやぁ、すごいプリクラだと思って。」
「どれが?」

隼人くんが指さしたのは、真ちゃんと撮ったプリクラだった。
引っ越す前に、遊びにつれてってくれた時の物だ。
手を繋いでいるのや、内緒話する振りしてるもの、後ろからハグされているものなどを順々に指さしていく。

「これで付き合ってねぇのか?」
「付き合ってないよ?従兄弟で幼馴染なだけー。」

きょとんとする私に、隼人くんはくすりと笑った。

「その……雛美ちゃんは真護くんのことが好きじゃないのか?」
「好きだよ?優しいし頼りになるし。」
「なのに付き合わねぇのか?」
「うーん、何かそういうのとはちょっと違う好きかな。ていうか、付き合うとかよくわかんないし。」

”そういう好きってよくわからないんだよね”そう付け加えると、隼人くんは私の頭を優しく撫でてくれた。
”報われねぇな”そう呟いたかと思うとパッと顔を上げた。
つられて視線の先を追うと、真ちゃんが戻ってきていた。

「真ちゃん!」

駆けて行って飛びつくと、しっかりと抱きとめてくれる。
ぐりぐりと頭を押し付けると優しく撫でてくれた。
みんなといるのは楽しかったけど、私はどこかで寂しかったらしい。
真ちゃんの匂いにホッとした。

「待たせたな。」
「ううん!あのね、みんなでゲームしたりプリクラ撮ったりしたの。みてみてー。」

そう言って手帳を見せると、真ちゃんの顔が少し赤くなった。

「どうかした?」
「いや……これは誰かに見せたのか?」
「プリクラ?うん、隼人くんに見せたよ。」

あまり見せびらかすなよ、そう言ってまた頭を撫でてくれる真ちゃんはやっぱり少し赤い。
どうしたのか聞いても答えてくれなくて、疑問だけが頭に残った。



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