08




スライダーにつくと、パチくんの大きな声が響いていた。

「フク!次は俺が前に乗るぞ!」

どうやら福富くんとスライダーを楽しんでいるようで、階段を駆け上がるような音もする。
ふとプールサイドに目をやると、真ちゃんと目が合った。
真ちゃんはにっこりと笑って、手招きしてくれる。
私はやすくんの横を通りぬけて駆け寄った。

「真ちゃん!おまたせ。」
「おかえり。……水着はどうしたんだ?」
「あ、えっと……サイズがね!ちょっと小さくて。少し大きいのに変えてもらったの。」

またちくりと心が痛む。
真ちゃん、ごめんね。

「そうか。大丈夫だったか?」
「ん?うん、大丈夫だよ。やすくんも一緒にきてくれたし。」

一瞬、真ちゃんの目が鋭くなった気がした。
でもそれはすぐになくなって、いつもの優しい瞳に戻る。
真ちゃんは私の手を取り立ち上がり、私も促されるまま立ち上がった。
頭からつま先まで、真ちゃんの視線がゆっくりと降りていく。
さっきやすくんも同じことしてたなぁと思いつつ首をかしげると、真ちゃんはフッと笑った。

「さっきのより似合ってるぞ。」
「ホント?ありがと!」

機嫌が良さそうな真ちゃんと話していると、パチくんと福富くんがやってきた。
そういえば隼人くんがいないなと思って見渡すと、やすくんも見当たらない。

「雛美ちゃん!着替えたのだな、その色もとてもよく似合っているぞ!」
「ありがとう。そういえば隼人くんは?」
「新開なら鉢巻の代わりを探しに行ったぞ。そういう荒北はどこに行ったのだ?」
「やすくん、さっきまで一緒だったんだけど……。今はわかんない。」

そういえば鉢巻って?と聞くと、パチくんはニヤリと笑う。
どうやら私がいない間に、プールで騎馬戦をすることになっていたらしい。

「待って、私泳げないってば!」
「大丈夫だ、俺が背負う。」

絶対に落としはしない、という真ちゃんは頼もしいけれど男の子に勝てる気がしない。
そもそも私は誰と戦うのだろう。

「パチくんと福富くんが上?」
「フクと新開、金城は馬だ。ん、あそこにいるのは新開と荒北だな!おーい、こっちだぞ!」

隼人くんに引きずられるように、やすくんがやってきた。
きっとこの話を聞いたのだろう、すごく嫌そうだ。
打って変わって隼人くんはニコニコ笑顔で、対照的なその二人がおかしかった。

「だからァ!俺はやらねーって!」
「いいじゃねェか、靖友は上だぞ。」
「俺も上だぞ荒北!いざ正々堂々と勝負しようではないか!」
「俺が背負おう。」
「福チャァン?!」

結局全員参加することになったけど、誰が誰を背負うかでまたモメ始めた。
参加拒否し続けている私の事はそっちのけで、ドンドン話が進んで行ってしまう。

「俺は雛美ちゃんがいい。」
「いや、雛美は俺が背負う。」
「どちらでもいいではないか!早く始めるぞ!」
「……俺も軽い方がいい。」
「寿一!後だしだぞ!」

男の子ってこうも協調性がないのだろうか。
いや、レースの時はすごく協力的に見えるのに……。
結局じゃんけんで、私は隼人くんと組むことになった。
やすくんは福富くん、パチくんは真ちゃんと一緒だ。
隼人くんをみるとにっこり笑って親指を立てていた。
自信があるのかな?
そう安心していたのだけど、そもそも落ちる心配はいらなかったようだ。
パチくんとやすくんは2人で争って、結局二人とも落ちてしまったのだ。
私は隼人くんに肩車してもらっただけで、ただ二人の争いを傍観していた。

「隼人くん、何かごめんね。何もせずに終わっちゃって。」
「いや、いいさ。俺は役得だしな。」
「うん?ヤクトク?」
「こっちの話さ。」

隼人くんの顔が見えなくて、覗き込もうと前かがみになるとぐいっと上を向かれてバランスを崩した。
慌てて隼人くんにつかまったけど、時すでに遅し。
水面に大きな音を立てて私は落ちてしまった。

「雛美ちゃん!」

隼人くんが足を抑えてくれていたのが災いして、すぐに足をつけることが出来ずに水を飲みこんでしまった。
息が出来ない、苦しい。
もう解放されているはずの足を必死に底につけようとしたけど、いつの間にか少し深い所にきてしまっていたようだ。
足をつけても、水面に顔を出すことが出来ない。
誰かの手が時折触れては離れていく。
必死にもがけばもがくほど、誰かに当たるのに捕まることが出来ない。
もう無理かも、そう思った時ぐいっと下から持ち上げられた。

「雛美!」
「てっめ、暴れすぎなんだよバァカ!」

気づけばやすくんが私を肩車してくれていて、ゲホゲホと咳き込むと後ろから真ちゃんが支えてくれた。
文句を言いながらもやすくんはプールサイドまでそのまま運んでくれた。
プールサイドに座ると、パチくんと福富くんがタオルと水を持ってきてくれた。
その後ろに、真っ青な顔をした隼人くんが見えた。

「雛美、大丈夫か?」
「ん、だいじょ、ぶ。」
「泳げねェんだから暴れんじゃねェよ。捕まえられねぇだろーが!」
「ごめんなひゃい……。」
「まぁ、おぼれた時はパニックになるものだ。仕方がない。」
「無事で良かった。」

みんなが口々にしゃべる中、隼人くんだけが唇をかみしめて黙ったままだ。
その顔は真っ青で、ずっと俯いている。

「は、隼人くん。ごめんね、私が動いたりしたから……。」
「雛美ちゃん、ごめんな。俺が動かなきゃ……ちゃんと支えていれば……。」
「違うの!私が顔覗き込もうとしたりしたから!しっかり掴まってなかったし、心配かけてごめんね。」

駆け寄って覗き込んだその顔は、悲しそうに微笑むだけで何も返してはくれない。
私のせいなのに、全てを自分の責任だと思っているんだろう。
何を話しかけても中身のない返事だけが返ってきて、隼人くんはずっと落ち込んだままだった。




←prev/私の好きな人/next→
story.top
Top




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -