07






できるだけ二人で並んで歩き、やすくんが私の背中を支えてくれる。
髪を下ろしているおかげで水着の破損は目立たず、はたから見ればただの仲良しに見えるだろう。
ゆっくりと滑らないように歩いていると、前方から真ちゃんたちがくるのが見えた。
私は慌てて、やすくんに耳打ちをした……というか届かなくて耳を引っ張った。

「お願い、真ちゃんには黙ってて!」
「アァ?何でだよ、俺じゃなくて金城に手伝ってもらえばいいじゃねェか。」
「こんなのバレたら絶対怒られるから!お父さんに報告されたら大変なの!」
「めんどくせェ。」
「お願いだから!」

小さく舌打ちしながらも、否定がないということはたぶん大丈夫かな。
そうこうしているうちに、みんなに見つかった。
やすくんがパッと私の背中から手を放す。

「雛美!探したんだぞ、どこに行ってたんだ。」
「あ、喉乾いて。更衣室まで行こうと思ってたの。」
「雛美ちゃん!小銭なら持ってきているぞ、何が飲みたいんだ?」
「飲みかけで良かったら俺のを飲むか?」
「ううん、大丈夫!ちょっと行ってくるからみんなで遊んでて。あとで合流するよ。」

そう言って見送ろうとしたら、真ちゃんが怪訝な顔をしている。
何もかもを見透かされている気がして冷や汗が出た。

「雛美、髪はどうした。」
「あ、ゴム切れちゃって…新しいのロッカーからとってくるとこ!」
「そうか、一人で大丈夫か?」
「えっと……やすくんが!一緒にきてくれるから。」

嘘は少ししかついていない。
壊れたのはゴムでなく水着なだけ。
そう自分に言い聞かせて必死に取り繕うけど、真ちゃんは相変わらず少し怖い顔をしている。

「雛美ちゃん、靖友とそんなに仲良くなったのか?」

新開くんの言葉とともに、やすくんの舌打ちが聞こえる。
追い打ちをかけるように東堂くんからも問い詰められてしまう。

「なにぃ!荒北だけとはずるいではないか!俺のことも尽八くんと呼んでくれて構わんのだよ。」
「じゃぁ俺は隼人くんでいいぜ。」

少しだけ話がそれたことにホッとしつつ真ちゃんを見ると、呆れた顔に変わっていた。
こちらもなんとか誤魔化せそうだ。

「じゃぁ、尽八くんは長いから……パチくんね。隼人くんはそのままでいいかな?」
「パチくんとはまた……犬のようだな……。」
「え、あ、ごめんね?尽くんだと、総北の迅くんと一緒になっちゃうから……。」

とても落ち込んでしまった東堂くんに、かける言葉が見つからない。
何か他にいい呼び名はないかと考えていたら、隼人くんが口を開いた。

「いいじゃないか、パチで。可愛いぞ、パチ。なぁ、寿一?」
「む、そうだな。パチ。」
「俺もそれでいいと思うぜェ、パチ。」
「ふむ、言われて見ればそんなに犬っぽくもないな!いいぞ、じゃぁ俺のことはパチくんと呼んでくれ!しかし荒北、お前はいかん!」
「ふふ。じゃぁ、よろしくね。パチくん。」

みんなのおかげで、なんとか丸く収まった。
隼人君がこちらを見てウィンクしている。
助けてくれてありがとう、とお礼のつもりでにっこり笑うと、少し驚いた顔をしてからにっこり笑い返してくれた。
隼人くんはやっぱりいい人だと思う。
先にみんなを見送ろうとしたら、真ちゃんに頭を撫でられた。

「雛美、やっぱり俺が一緒に行こう。荒北、手間をかけたな。」
「別に手間とかじゃねェけどォ。」

予想外の真ちゃんの言葉に、やすくんはがしがしと頭をかいている。
私はなんて誤魔化そうか頭をひねるけど、何も出てこない。
ちらりとやすくんを見ると、”お前が言え”とでもいうように顎で促された。
うぅ、どうしろっていうの。
真ちゃんを見上げると、優しそうに微笑んでいて心がちくりと痛む。

「し、真ちゃん。あのね?」
「どうした?」
「えっと……。私、やすくんと行きたいから。真ちゃんは遊んでて?」

嘘は言ってない。
真ちゃんは驚いたような顔をしてから、少し悲しそうな顔をした。
心がまた、ちくりと痛む。

「そうか。荒北、すまないが雛美を頼んだぞ。」
「へいへい。」

やすくんを見る真ちゃんの目は少し鋭くて、怒らせてしまったのかと不安になった。
それでも真ちゃんにバレるのが怖くて、嘘は言ってないと自分を正当化してごまかした。
名残り惜しげに振り返りながら行ってしまう真ちゃんを二人で見送ると、やすくんに頭をはたかれた。

「誤解させるような言い方すんじゃねェよ。」
「本当の事しか、言ってないもん。」

説明が少し足りないだけ。
ただそれだけのことが、私と真ちゃんの歯車を少しずつ狂わせていった。





更衣室の近くでタオルを巻くと、やすくんが手を放した。
当たり前の事なのに、何故かそれが寂しく感じて振り返る。

「あっ……。」
「ンだよ。待ってて欲しいわけェ?」

首に手を当てながら、やすくんはめんどくさそうに言い放つ。
相手は真ちゃんじゃない、やすくんなのだ。
甘えてばかりではいけないのはわかっている、わかっているのに。
私の頭と心は真逆なのはなぜだろう。

「……うん。」
「ハッ、やけに素直じゃナァイ。」
「や、だって真ちゃんにやすくんと行きたいとか言ったし……やすくんだけ戻ったら怪しまれるでしょ?あ、何か奢るよ?何がいい?」

少し笑ったやすくんにドキリと心が鳴った気がする。
言い訳のように理由を探した。
誰かに奢るなんて言ったのは初めてかもしれない。
いつもはしてもらうばかりだったなぁと思いだす。
やすくんはため息を一つついて、私の頭にポンと手を置いた。

「めんどくせェけど待っててやっからさっさと行ってこい。あとベプシ。」
「…うん!」

その言葉が嬉しくてにっこり笑うと、やすくんはそっぽを向いてしまった。
何だかそのしぐさがとても寂しく感じてしまう。
名残り惜しいけど、早く着替えてこないと遊べなくなってしまう。
私はやすくんを残して、更衣室に入った。




水着は違うのに交換してもらえたし、入場料も返金してもらえた。
急いで着替えてベプシを買って戻ると、やすくんは椅子に座って眠っていた。
そんなに長く待たせてしまったつもりはなかったのだけど。
隣に座るとカタンと音がしてしまい、切れ長の目がうっすら開いた。

「……オカエリィ。」
「た、ただいま。起こしちゃってごめんね?これ、ベプシ。」

ベプシを受け取りながら伸びをしたやすくんは、とても無防備でドキドキした。
今まで真ちゃん以外の男の子とこんな風に遊んだことも、接したこともなかった気がする。
初めて身近に感じる”男の子”に私はドキドキさせられっぱなしだった。

「アンガトネェ。」

そう言いながら、私の頭からつま先までゆっくりと目線が下りていく。
何かおかしなところあったのかと見てみるけど、特にどこもおかしくない。
目があったやすくんに首をかしげてみると、目線を逸らされた。

「どこかおかしい……?」
「…別にィ。ピンクも似合うネ。」

新しく借りた水着はビビットピンクで少し子どもっぽい、露出の少ないデザインだった。
先ほどとはイメージが違いすぎるせいか、まじまじと見られたことに頬が紅潮していく。

「み、水色のもうなくて!それでサイズ合うのあんまりなくて……。」
「いいんじゃナァイ?そっちのが……金城も安心すんだろ。」

そう言うととやすくんは立ち上がって、歩き出した。
私は慌てて後を追った。



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