08



荒北くんに連れられてタクシーに乗ると、タクシー独特の匂いに頭がグラグラし始めた。
気持ち悪くてしゃべることが出来ない。
荒北くんに鞄を託して、私は外を眺めていた。
しまった、窓から見える光がチカチカと移り変わるせいで目が痛い。
そっと目を閉じて下を向くと、色々なものがこみあげてきてしまう。
水を差しだされたけど今飲んだら全部出てしまいそうだ。
車に乗ったのが間違いだっただろうか、そう思っていると肩を支えてくれた手が強くなる。
荒北くんを見ると、少し難しそうな顔をしていた。
あぁ、そういえば私はまだ伝えていなかった。
今言わなければ、いなくなってしまうかもしれない。
必死に声を振り絞った。

「あら、きたく、……て、……れし…」

会えてうれしい、その言葉は荒北くんの耳に無事届いたかな。
出来る限り笑って伝えた私の姿は、あなたの中に居場所を作ることが出来ますか。
少し意地悪そうに笑って、顔が赤くなった荒北くんにくしゃりと頭を撫でられた。
気持ちいいなぁ。
そのまま、荒北くんの肩に頭を預けた。
撫でてくれる手が、私の吐き気をどこかに追い出してくれる気がして。





どれくらい走っただろう。
荒北くんにもたれかかったまま、少し寝てしまったようだ。
辺りを見回そうかとも思ったけど、まだこのまま荒北くんの匂いに包まれていたかった。
スンスンと嗅いでいると、タクシーの速度が落ちた。

「お客さん、どのあたりですかね?」

運転手に促されてそっと顔を上げれば、もう家のすぐそばだった。
”ここです”そう言おうにも、喉がカサカサして上手く声にならない。
お水を飲んでおけば良かった。
そう思いつつも、もう目の前にきているマンションを指さすと荒北くんが代弁してくれた。

「すんません、ここでいいっす。」

タクシーが止まると、荒北くんの匂いが消えた。
その途端、酔いが戻ってきたかのように酷い吐き気に襲われる。
顔を上げると、荒北くんは先に降りて私に手を差し伸べてくれていた。
私はどうやら、意識が微妙に飛んでいるらしい。
何かを考えると頭がズキズキと痛んだ。
手を取り立ち上がろうにも足に力が入らず、地に足を付けている感覚がない。
ふらふらの私を見かねたのか荒北くんは抱きかかえてくれた。
荒北くんの匂いで、体から力が抜けいく。
それがとても気持ち良くて、私はそのまま身を任せた。


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