05


ファミレスを出てカラオケに向かうと、春休みのせいか昼過ぎだというのに満室だった。
待ち時間も2時間以上あるという。

「2時間なんて待てるわけねェだろ、バァカ。帰ろうぜ、福ちゃん」
「む」
「まぁ待て、荒北。他に何かレジャー施設は近くにないか?」
「そうだなぁ、この近くだとボーリングか……あ、最近出来た温水プールはどうだい?温泉もあるって話だぜ。」
「「「「「プール!?」」」」」
「あぁ。水着や浮き輪もレンタルしてるし、タオルも貸し出してるらしい。行ってみないか?」
「本当か!たまには泳ぐのもいいではないか!なぁ、フク!」
「うむ、そうだな。」
「プールだァ?……福チャンが行くなら行ってもいいけどォ。」

にっこり笑う新開くんに、私は少したじろぐ。
何を隠そう私は、水に浮くことすら叶わないカナヅチである。
フルフルと首を横に振る私を見て、真ちゃんが助け舟を出してくれた。

「すまない、雛美はプールは無理だ。」
「何がいかんのだ、雛美ちゃん!」
「ごめんなさい、私……あの、泳げなくて……」

俯くと、新開くんは携帯で何かを調べ始めた。
そして見つけた画面を私に見せてくれた。

「泳がなくても、ウォータースライダーはどうだい?流れるプールや波打つプールもあるみたいだぜ。」
「新開、すまないが他の」
「ほんと?!」

何かを言いかけた真ちゃんを押しのけて新開くんから携帯をひったくるように奪うと、施設紹介に目を通す。
その施設には温水プール最大のウォータースライダーがあるらしい。
私は泳げない、でもアトラクション的なものは大好きだった。
食い入るように見ていると、顔を覗き込まれる。

「行こうではないか、雛美ちゃん!」
「うん!行きたい!」
「水泳はトレーニングにもなる。荒北もこい。」
「へいへい、福ちゃんが行くなら俺も行ってやンよ」
「じゃぁ決まりだな。雛美ちゃんがいいならおめさんも構わないんだろ?」
「あぁ、雛美がいいならそれで……」

真ちゃんは最後何かもにょもにょ言ってたけど、私の心はそれどころではなかった。
数年ぶりのスライダーにウズウズする。
私は新開くんに手を引かれるまま、歩き出した。



プールにつくと、受付を済ませてみんなと別れた。
水着を借りてみると、レンタル品のせいか可愛いのはあまりない。
その中で何とか可愛いのを見つけ出して、急いで着替えた。
着たことがない鮮やかなスカイブルーのビキニは、なんだか私を大人びて見せてくれる気がした。
思ったより時間がかかってしまい、プールに出るともうみんな揃っていた。
慌てて駆け寄ると、新開くんと目が合う。

「遅れてごめんなさい!」
「構わないさ。それより雛美ちゃん……随分着痩せするんだな。」

その言葉にハッとして、慌ててお腹を隠した。
自転車部の人はみんな筋肉質で無駄な脂肪なんて見当たらない。
急に自分の体が恥ずかしくなった。
それをみて真ちゃんはため息をついてるし、新開くんは笑い出す。

「ふ、太ってるからっ!あんまり見ないでー!」
「どこが太っていると言うんだ?雛美ちゃんはスタイルがいいではないか。」
「お、お腹とか!足とかぜんぶ…」
「ンなの誰も見てねェだろ。自意識過剰なんじゃナァイ?」

もうどこを隠していいかわからない。
慌てて真ちゃんの後ろに隠れた。

「着痩せするっつぅのはそういう意味じゃなかったんだが、気を悪くしたならすまないな。
思ったよりその……いや、何でもねぇ。隠れてねぇで遊ぼうぜ?」

そう言って手を差し出してくれる新開くんはやっぱり優しい。
手を取ると、ぐっと引き寄せられた。

「じゃぁ寿一、俺は先に雛美ちゃんとスライダーに行ってくるよ。」
「何!新開ずるいぞ!雛美ちゃんを独り占めする気だな!」
「俺と荒北、東堂はトレーニングが終わり次第合流だ。新開は誰かと代われ。」

福富くんの言うことには逆らえないのか、3人は競泳プールの方へ行ってしまった。
私は新開くんに手を引かれるまま、真ちゃんと三人でスライダーの方へ歩き出した。


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