05


あの日からもう何日経っただろう。
雛美の声が焼きついた耳に講義の内容なんて入ってこねぇし、タイムも伸びるどころか絶不調だ。
先輩には集中出来てないとかでお説教食らうし、踏んだり蹴ったりじゃねェか。
連絡しようと携帯を取り出すたびに、自分がした過ちを思い出して携帯を放り出す。
あんなことして、俺から連絡できるワケねェ。
雛美が帰ってから数日は、雛美の匂いが残った部屋へ早く帰りたくて仕方なかった。
でも匂いが消えてからは、部屋を見るたびにあの日の雛美を思い出して帰りたくなくなった。



前は誘われても参加しなかった飲み会にも行くようになった。
そして今日も、練習後塩田に声をかけられた。

「荒北ぁ、今日飲みにいかね?」
「オゥ、俺飲まねぇけど。」
「最近付き合いいいじゃんか童貞くん。女紹介してやろうか?」

そう言ってケラケラ笑う塩田が憎らしくて、つい口をついてでた。

「ッセ、もう童貞じゃねーヨ。」

そういった瞬間、笑い声が消えた。
塩田が目を丸くして俺を見てやがる。
アー、失敗したァ…。

「ちょ、お前どういうことだよ。」
「ッセ。」
「詳しく聞かせろよ!」
「何でもねェよ。」
「何でもないわけないだろ!お前彼女いないじゃん!」

そう、雛美は彼女じゃない。
そして多分、彼女になるようなこともない。
だから言うつもりなんてなかったのに。
俺は半ば塩田に連れ去られるように、学校を後にした。


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