07


少し歩いて、静かな公園のベンチに座らされた。
荒北くんは私の隣に静かに腰かけた。

「雛美チャン、大丈夫ゥ?」
「きもち……わるい……」
「酒なんて飲むからァ。」
「ち、ちがっ…騙され…うっ…」

しゃべると胃の中のものが上がってくる。
口の中に独特の酸っぱさと、アルコールの匂いが広がって余計に気分が悪くなってきた。
それでもどうにか誤解を解きたくて、必死に荒北くんの服をつかんだ。

「ち、ちがうの……」
「アー、まァいいけどォ。水、買ってくっから座ってなヨ。」
「やだぁ、行かないで……」

せっかく会えたのに、私はきっとすごく迷惑をかけてしまっている。
誤解されて、嫌われたかもしれない。
もしかしたらもう会えないかもしれない。
そう思うと、荒北くんにしがみついてしまった。
暖かい匂いに、少しだけ頭が冴えてくる。

「な、ちょっ……雛美チャァン?俺水買いに行くだけなんだけどォ。」
「やなの。。。」
「すぐ戻んヨ。」
「やだ。」

我ながらすごく子どもっぽいことをしている。
それでも今感じるこの体温と、暖かい匂いを手放したくなかった。
それがもう二度と味わえなくなったとしても。
荒北くんは少し乱暴に私の頭を撫でて、いじわるそうに笑った。

「あんまそういうコトばっか言ってっと、前みたいなことになるってわかんナァイ?俺も男なンだけどォ。」
「……いいもん。」
「ハァ?」
「荒北くんならいいもん。だから……どこも行かな……で。」

撫でられて嬉しいのに、求められてない気がして悲しくなって。
涙が溢れて嗚咽が漏れる。
ずっと求めてた人が目の前にいるのに、求めていたのは自分だけだと思い知らされる。
きっと今、荒北くんは困ってる。
泣きやまないと、嫌われる。
そう思えば思うほど、彼を離すことが出来ない。
荒北くんは、静かにため息をついた。

「タクシーで自分んち帰んのと、俺んちくんのどっちィ?」
「タクシーで、帰る……」
「ッそーかよ。んじゃタクシー呼んでやっからちゃんと帰れヨ。」

そう言って手を振りほどかれる。
携帯を手にした荒北くんを見て、また誤解させたことを理解する。
あぁ、そうじゃない。私が言いたかったのは……

「荒北、くんとっ……」
「アァ?」
「荒北っ、くんと、家にかえっ、るのっ。」

嗚咽と一緒に出た声はまともな文章として聞こえたかどうかはわからない。
それでも荒北くんに伝えたくて、聞いて欲しくて。
荒北くんの服の裾をぎゅっとつかむと、今度は優しく抱きしめられた。

「それって俺が雛美チャンちに行っていいってことォ?」
「う、うんっ。うち、きて……」

そういうと、強く抱きしめられる。
荒北くんの匂いが、私を落ち着かせてくれる。
思わず、好き、とつぶやいた。
でもその小さすぎる声は荒北くんの耳には届かなかった。


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