05

あれから一週間が過ぎた。
荒北くんから連絡は一度もない。
会ったその日寝てしまったことにも、初めてを失ってしまったことにも不思議と後悔はない。
ただ、連絡がないことに喪失感が募る。
私はいつの間にか彼に惹かれていたのだと最近気づいた。
荒北くんには遊びだったのかもしれない。
そう思うと自分から連絡することもできず、携帯を握りしめたまま思考だけがぐるぐるとループする。

「大学生なんて、そんなものなのかな…。」

小さく呟いて、優衣のことを思い出した。
何から話せばいいのかはわからない。
それでも誰かに聞きたくて、優衣に電話をかけた。
数コールで優衣が電話に出る。
いつもと変わらない明るい声色にホッとした。

「それで、どうかしたの?」
「うん、ちょっと聞きたいことがあって。優衣の彼氏さんって同じ大学だよね?」
「そうだよ、学部は違うけど大学は一緒だよ。」
「あの……こんなこと言うのも変なんだけど。優衣の大学の人って、遊んでる人多い、のかな?」
「遊んでるって、チャラいってこと?」
「う、うん。」
「うーん、どうだろ。個人差はあるけど多少はいると思うよ。何?私と別れた後にナンパでもされたの?」

責任を感じてか、心配そうに聞いてくれる優衣に全部を話すことは出来なかった。
今以上に心配をかけてしまう気がするから。
ごめんね、と心の中だけで謝る。

「ううん、何か会社の人も学祭に行ってたらしくてさ。その人がナンパされたらしくて。」
「ふーん?でもまぁ、うちの大学はそんなに多い方じゃないと思うよ。ただ学祭だとうちの大学って偽ってるやつもいるからわかんないけど。」
「そっか、ありがとう。変なこと聞いてごめんね。」

そのあとは優衣の惚気話をたっぷり聞かせて頂いて、電話を切った。
助けてくれた状況や道案内してくれた様子からして、荒北くんはあの大学に通っていると思う。
荒北くんを信じてもいいのかな。
それともやっぱり私がちょろいから?
モヤモヤした思考のループは、より私を深みへと引きずり込んでいった。



翌日会社へ行くと、昼休みに声をかけられた。
殆ど話したことはなかったけど名前は知っている。
新入社員の中でも一番可愛いと評判の笹谷菜々さんだ。

「小鳥遊さん、おはよう。」
「おはようございます。」
「今日さぁ、何か予定あるっぽい?」
「いえ、特には……」
「えー定時日なのにもったいなぁい!ってことでぇ、菜々と合コン行かなぁい?」
「いえ、私は……。他の方誘ってください。」

うちの会社では毎週金曜日は定時で退社することになっている。
それでも合コン何かに行く気になれるわけもなく、私はそれを断った。はずだった。
笹谷さんは私の前に立ちはだかり、通してもらえない。

「お願い!どうしても人数足りないのぉ!男の子たちがいっぱい払ってくれるから菜々たちはお金出さなくってもいいし!
行くだけでいいから!ねぇ、おねがぁい!」

そういって手を握られる。
行きたいわけじゃないし、出来ることなら避けて通りたい。
でもここで断ったら、私が悪者にされる気がした。
話の内容こそ聞こえないかもしれないが、周りには男性社員がたくさんいるのだ。
笹谷さんが何かを私に頼んでいることは容易に想像できるはずだった。

「行くだけ、ですよ。私彼氏とか興味ないので。あとお金はきちんとお支払いします。」
「ほんと!良かったぁ。みんな菜々と一緒は嫌だって言うんだもん、困っちゃうよねぇ。」

そりゃ笹谷さんと行けば大抵の人は引き立て役だろうから、行きたがるはずもない。
私はアドレスだけ交換して、自分の席に戻った。



退社後、そのまま合コンに向かった。
幸か不幸か、先日学祭で着たのと同じ服を着ていたおかげで多少浮かずには済んだ。
ただ、きっちり合コン用に仕上げている笹原さんとは雲泥の差だったけども。
3:3の合コンだったけど、もう一人も当日誘われたらしく少し遅れて参加するらしい。
私と笹谷さんは先に男性陣と合流して飲み始めることにした。


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