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どうか皆様に、少しでも楽しんで頂けますように。

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男兄弟の中で育った私は、まぁ言ってしまえばガサツな方で。
おかげで男友達はたくさんいたけど、女の子とはあまり話が合わなかった。
それは進学しても変わらず、2年生になった今も仲の良い女子は片手に満たない。
きっと、私は一生このままなんだろうなぁ。
それでも不自由をさほど感じない分、焦燥感もなかった。




いつも通り登校すると、いつもは遅刻ギリギリの荒北が珍しく席に座っている。
漫画を読んでいるらしく、私に全く気が付いていない。
私はそっと荒北の後ろに回り込み、襟首を掴むと冷えた手をその中に突っ込んだ。

「っっ!!!」

声にならない声を上げて鋭い眼光で睨みつけてくる荒北に、私は笑いが止まらない。

「おっはよー。」
「てめ、その前に言うことあんだろォが!!」
「あっためてくれてありがとー?」
「ゴメンナサイだろォ!!!!」

ぎゃんぎゃん吠える荒北をよそに、私は荒北の持っていた漫画を掴み上げる。
あ、これ。
前に貸してもらったやつの新刊じゃん。

「ねぇ、これ次貸してよ。」
「話聞いてたァ!?」
「あーうんうん。ありがとう。で、貸してよ。まだ読んでないんだよね。」
「だからァ!ちげぇんだって!!」

吠え続ける荒北を適当にいなして私は荒北の前の席に座る。
同じクラスになってから私たちの席は近いことが多く、多分クラスでは男子の中でも一番仲がいいと思う。
私たちがじゃれあっているのはもう恒例行事というより日常になっていて、気に留められることもない。
中学の時より気兼ねなく話せる荒北に、私は信頼を寄せていた。
そして荒北もきっと同じように思っているだろうと感じていた。
だからこそ、これは私たちの日常だった。
今日提出のノートを見直していると、後ろからつつかれる。
振り返ると荒北が手を差し出していた。

「なに?」
「ソレ。見せろよ。」
「それ先週も聞いた気がするんだけど。」
「おう。」
「で、見返りは?」

小さな舌打ちをしてから、荒北は先ほどの漫画を差し出す。
読み終わったんだろうか。
私は軽く見直しを終わらせて、ノートと漫画を交換した。

「ねぇ、これいつ返したらいい?出来たら家で読みたいんだけど。」
「別にいつでもいいよォ。」

すでにノートを写し始めている荒北は、こちらを見ずにそう答える。
お言葉に甘えて鞄にしまおうと開くと、中からチロルチョコが出てきた。
そういえば、この前袋の奴買ったんだっけ。

「ねぇ、これあげる。」
「あ?ナニ。毒でも入ってんのォ?」

ケラケラ笑いながらも受け取った荒北は、それをポイっと口の中に放り込んだ。

「もう食べてんじゃん。」
「まぁ、市販品で毒なんて盛れねェだろ。」
「んー、確かに。あ、それ漫画のお礼ね。」
「あっそ。」

心なしか、少し不機嫌な返事が返ってくる。
ノートを写しているからそんなことに意識を割いていないのかもしれない。
私は荒北の作業をぼんやり眺めていた。
書き写すだけなのに、時折書き間違えて消している辺りそそっかしいな。
いつの間にか見慣れた光景に、なんだかホッとする。
私より少し汚いその字は、読めなくはないけど明らかに走り書きだ。
あれで先生に注意されないのがすごいな。
ふと顔を上げた荒北と目が合った。
どう見てもまだ途中なのに、どうしたんだろ。

「なァ。もうチョコねェの。」
「え?まだあるけど。食べんの?」
「食う。」

差し出された手に、残っていたチロルチョコをバラバラと乗せた。
色んな味が入ってるから買ってみたけど、もう全種食べた後だし。
荒北は小さくお礼を言うと、またノートに視線を戻した。
もうすぐ先生が来るというのに、器用に片手で包みを剥がしてチョコを食べている。
朝ごはん食べ損ねたんだろうか。
寮なんだしそんなことないか。
そうこうしているうちに鐘が鳴り、私は教室に入ってきた先生の方を向き直った。





お昼休みになると、何やら教室が騒がしくなってきた。
普段そんなに別クラスとの行き来なんてないのに、やたらと他のクラスの女子が集まっている。
それに比例するように、私のクラスの女子はどこかへ行ってしまったようだ。
一体何の騒ぎかと思いつつパンを齧ると、隣で同じようにパンを齧っていた荒北と目が合った。

「どーかした?」
「…別にィ。」

朝から何か変だなぁ。
そう思いつつ荒北の机に目をやると、いつも1つは甘いパンがあるのに今日は総菜系ばかりだ。
珍しい。

「ねぇ、今日は甘いやつ食べないの?」
「朝チョコ食ったしなァ。」
「あー、確かに。でも最後の方ってちょっと甘いもの食べたくなったりしない?
 って、前似たようなこと荒北が言ったんじゃなかったっけ。」
「よく覚えてんじゃナァイ。」

ニッと笑った荒北はいつも通りで、少しホッとする。
それでも理由が聞けていないことに、少しもやっとした。
手元に目を移せば、食べかけのチョココロネがある。
そういえば。

「ねぇ、荒北ってチョココロネはチョコが出てるほうから食べるんだったよね。」
「おう。お前は逆だろ。」

そう言って、私のパンを指さした。

「そうそう。だからさ、これあげよっか?」
「ハァ?」
「甘いのちょっとは食べたくなるって言ってたじゃん。
 代わりにそれ、一口ちょーだい。」
「…お前マジでそれ言ってんの?」

荒北は驚きつつも、開かれた私の口に焼きそばパンをねじ込んだ。
私は代わりに、荒北の机にコロネの残りを置く。

「やっぱ売店の焼きそばパン美味しいよねー。
 すぐ売り切れるから買えないけど。」
「そもそもお前売店行かねェだろ。」
「だって混んでるじゃん。朝コンビニに寄った方が楽だし。」

残りの焼きそばパンを荒北に返しつつ、私は次のパンに手を伸ばす。
何か意外とお腹いっぱいになっちゃったな。
パンを手にしたものの、開けるかどうか悩んでいると数少ない女友達から声をかけられた。

「友チョコだよ〜」
「え?」
「今日バレンタインじゃん。だから友チョコ!」
「げ、ごめん忘れてた…。お返しはホワイトデーでいい?」
「そんなことだろうと思ってたし、別に気にしなくていいよ。
 本命のついでに作った分だからさ。見た目はちょっとアレだけど、味はいいはずだから!」
「ありがとう〜。今度絶対お返しするから。」

本命を私に行くという友達を見送って、教室の喧噪に納得がいった。
あれはチョコの受け渡しをしにきてんのね。
手元の可愛い包みを開くと、形は歪だけど香りのいいチョコレートが出てきた。
私はパンをしまって、それを一つ口に放り込む。
手作りでこんなの作れるんだ。おいし。
もう一つ、と手を伸ばしたところで立ち上がった荒北に目を向けると、”ん”と言って廊下を顎で指した。
何かあるんだろうか。
私は促されるまま、教室を出た。




騒がしい廊下を超えて少し行った辺りで、自販機に行くのだと悟った。
小銭あったかなぁ。
ポケットを探りながら歩いていると、急に立ち止まった荒北にぶつかった。

「なっ…どうかした?」
「あのさァ。」

振り返った荒北はばつが悪そうに頭をガシガシと掻いている。
財布忘れたんだろうか。
首を傾げる私の目の前に、ぶっきら棒に差し出されたそれは、綺麗なラッピングがされた紙袋だった。
そんなのどこに持ってたんだ、そう思いつつも荒北を見上げると真っ赤になっている。

「どうしたの、これ。」
「やる。」
「え?」
「やるつってんだろ!」

私の手を掴むと無理やりそれを握らせて、荒北はくるりと踵を返した。
そっと中を覗いてみると、どうやらお菓子らしい。
添えられたカードには”義理じゃねェ”とだけ書かれている。
この字は、紛れもなく荒北の字だ。

「ねぇ!これって」

振り返らない荒北の腕を捕まえると、自然と足を止めた。
荒北は相変わらず真っ赤な顔をしていて、私の予測が的中していたのだと思い知る。
頭が真っ白になりつつも言葉を探したけど、うまく声にならない。

「お前の…は、ホワイトデーなんだろ。」
「え?あ、うん…?」
「待ってっからァ。返事も別に、急いでねェ。」

バレンタインなんて忘れてた。
忘れてたから気にも留めてなかった。
不自然に朝早くに登校していた荒北にも、珍しくお菓子を欲しがった荒北にも。
食べかけのコロネを押し付けたのを思い出して、顔に熱が集まる。
何も知らなかったのは私だけ。
荒北は、いつからそうだったの。
恥ずかしくて立ってられなくなり、私はその場にしゃがみこんだ。

「あぁ…もう…。」

不思議と嫌な気のしない自分にも驚く。
恋愛なんて興味ないと思ってたのに。
どんな顔していいかわからない。
でも、とりあえず今は。

「あり、がと…。」
「…おう。」

荒北に促されるまま立ち上がる。
互いに目を合わせることはないけど、そろって教室へ向かって歩き出した。
男女で歩いている割に、お菓子を持っているのが自分であることが不自然で少し笑ってしまう。
でも今日は、きっとそんなの目立たない。
あちこちで煌めくラッピングに紛れて、私のチョコは息をひそめる。
ねぇ荒北。
返事はいつまで待ってくれる?
私の心の整理には、まだ時間がかかりそうだよ。



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遅れたバレンタイン短編でした。
ここまでご覧くださりありがとうございます!








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