:: 「ゴミ箱の中で」説明記事
ここはSSS置き場です。
短編のネタ置き場、もとい短編にしようにもいまいちピンとこなかった、そんな作品をつらつら置いていく場所です。
ここの作品を元に短編を書く場合もあります。
なんだかとても適当のようです。
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どうぞ暇つぶしにお使いくださいませ。
:: 味噌汁:伊月俊
家庭実習で、お味噌汁を作った。
なんの変哲も無い、普通のお味噌汁。よく言えば家庭の味。教科書に縛られたお味噌汁ではなく、お母さんから受け継いだ我が家の味だ。
お味噌汁はあくまで主役に添えられるもので、今回の調理実習のメインディッシュであるハンバーグを作った班員がある意味主役と言うのだろうか。
お味噌汁を任された時点で私は脇役というのだろうか。みんなが楽しくこねたりしている横でひたすらお味噌汁の準備をしていたのだ。
さぁ完成。さぁ食べよう。
「………?」
あれ。
「この班のハンバーグ美味そうだな」
「あ、伊月君」
やめたほうが。そう止める前に、彼は私の皿の上にあったハンバーグを一口食べ、顔をしかめた。
「これ、生焼け」
「そうなのよね……」
ちらりと班員を見ると、みんな顔をしかめていた。
「でも君が作ってたの、これじゃないよね」
「え」
伊月君がまだ手付かずのお味噌汁を飲む。また顔をしかめられたら嫌だな。けれど伊月君の顔をは思った以上に明るくて。
「うま!」
そのまま一気に全て飲んでしまう伊月君に注意すべきか、褒めてくれたことを喜ぶべきか、迷ったのでした。
:: A:紫原敦
あなたを好きになって3年の月日が流れましたが、どうやらこの関係に変化というものは訪れないようです。
私はあなたにとってただのクラスメートの1人であり、それ以上でもそれ以下でもない、ただ生きるうえで通過する道の中ですれ違うだけの人間で。例えるのならば学生A。物語に必要不可欠な存在でもなく、ただ物語を彩る為だけに存在する脇役以下の存在。
そんなAにも、ショックなことがあったようで。
紫原君の進学先が、とっても遠いところだって、知ったのです。
秋田なんだって、紫原君。バスケの推薦で進学するんだって。
へぇ、そうなんだ。紫原君、バスケとっても上手だものね。
作り笑いが上手く出来た自信は無い。
私は彼を追いかけることすら出来なくなるのだろうか。
目で追うことに疲れたわけではない、ただこの関係(関係と呼べるほどのものではないけれど)に終わりが訪れることが恐ろしかったのだ。
登場人物のいない場所で、Aは一体どうすればいい?
Aは、Aは――
ああ、そうだ。
こうすれば、私は。
「――紫原君!」
あなたの道に、Aではない私が、道を重ねても良いでしょうか?
:: ノイズを越えた指先から:赤司征十郎
気がつけば、私はそこに立っていた。
なぜかわからないけれど、どうしてか、私は十字路の真ん中で、1人ポツンと立っていたのだ。
さてさてここからが問題で、私は自分の名前も、自分の家も、更には自分がなぜここにいるかもわからないのだ。
つまり、恐らくは記憶喪失という類なんだろう。
私は自分の格好を改めて見た。ジャージ姿で、学校の名前が書いてある。どうやら私は中学生のようだ。しかしその学校の名前に覚えは無い。自分の名前がどこかに書かれていないだろうかと探したが、残念なことに何も書かれていなかった。
一先ず十字路の真ん中に立っているわけにもいかないので、歩道で登校途中の生徒に声をかける。もしかすると私はこの生徒達と同じ学校の者かもしれない。そう期待していたのだが、私が声をかけても誰も反応を示さない。
おかしい。一瞥もされないなんて。
まるで。
「あ、あの!」
目の前の男の子の前に飛び出す。しかし男の子は私に気づかず、そのまま――私をすり抜けた。
ああ。やっぱり。
(私、もしかして)
幽霊、なのかもしれない。
なんだか何もする気になれず、ぼーっと電柱に寄りかかる。
なぜ死んだのか、なぜ記憶がないのか。
わからないことだらけだけど、一つ言える。
案外視える人って少ないのだと。
電柱に寄りかかりながら、登校する生徒達を見る。
幽霊と分かった今、自分自身を詮索する意味もない。なぜならば私の人生は既にピリオドを迎えている。ならばさっさと黄泉の国とやらを拝みたいものだと、そんなことを考えながら私はこの褪せた世界を見ていた。
「……?」
チリッと、心が、ざわついた。
生徒の中、一際目立つ子がいた。
なんだか、強く引かれるような、いや、惹かれるような、強烈な引力のような、とにかく、視線がその子から離れようとしなかった。
「……」
その子がこちらを見た。
(今、確かに)
私の存在を、認識した。
彼は――視える人だ。
(あ、ぁ!)
手を、伸ばした。
手は、届いた。
けれど、すり抜け、彼の中へと、消えた。
「――………」
彼は無言で、私を一瞥し、ふわりと、私が触れられなかった背中に、触れた。
笑みを浮かべて。
それが彼との、出会いのお話。
:: 片思い:青峰大輝
モデルのように手足が長くて、顔も綺麗で、胸も大きな彼女は、とても青峰君の好みと合致していると思った。
「好きなタイプ? あー。巨乳」
そう答えた彼の視線の先には、確かに彼女が立っていて。
ああ、なんだ、ただの幼馴染だって2人は言っているけれど、やっぱり。
そう思った瞬間、この芽吹いた感情は枯れるべきものだと悟った。
友達でいられれば、それだけでいいじゃない。
傍で見るだけで、こんなにも。
幸せ?
「大輝」
「あ?」
「好き」
「………は?」
あふれ出た感情。枯れる筈の無いそれは、むしろ、私の心の中で育ちすぎた。
「好き、好きだよ、大輝」
「―――……あー」
わりぃ。お前のこと、そういう対象として見た事ねーんだわ。
「……そ」
そうだよね! だって私胸だってないし、美人っていうよりかは少年っぽい顔だって言われるし、大輝のタイプじゃあないもんね!
「なんだよ、わかってんじゃん」
そう微笑む彼の顔を、初めて殴りたいと思った。
幸せと隣り合わせの感情は、とても厄介なものですね。
:: 浮気:高尾和成
女の人と、彼が一緒に歩いているのを、見かけてしまった。
付き合って半年、特に問題は無かったはず。
甘い甘い関係、とまではいかなくても、お互い心安らぐ相手だと認識していたし、恋情というものも確かにあった。だからこそ、浮気、なんてそんな言葉が私の心にポツリと落ちてくることなんてありえないと思っていたのに、唐突に降り注ぐ現実に、私は暫く思考を停止した。
それから動きだした思考。最初の考えは「これは夢だ」という現実逃避。
いくらほっぺをつねっても痛いものは痛いし、歩道のど真ん中で立ち止まったせいで色んな人にぶつかっているこの現状は、やはり夢とはかけ離れた、まさに正反対の場所。現実だ。
彼女はとても綺麗な人だった。赤いスーツをしっかりと着こなし、ふわふわとしたセミロングの髪に少々派手な化粧、スーツに合わせた赤いヒール。大人のできる女性が、彼の腕を掴んで、街を歩き回っている。彼は彼で、少し困ったような顔をしながらも、満更じゃない様子。
ああ、これ以上見ていれば、きっと。
私は踵を返し、真っ直ぐ駅へと走る。
涙腺の決壊警報が、鳴り響いている。
「叔母さん、オレの意見も聞いて!」
「彼女に贈るアクセサリーはやっぱりこういう派手なのがいいのよ!」
「彼女は大人しい子なの! 派手派手なのは叔母さんの好みだろ!」
「さっきからオバサンオバサンって煩いわね!」
「……あ」
見覚えのある後姿が、人ごみ掻き分けて去っていくのが見えた。
――どうしてここに?
それより、どうして、走って?
そんな考えがよぎった時、叔母さんがオレの腕をしっかりと掴んでいることに、気づいて。
(ああ、やばい)
これは彼女とオレの初めての修羅場が来るのかもしれない。
「叔母さん、後で!」
「え、ちょっと!」
駆け抜けて、手を伸ばす。
オレの愛しい愛しい彼女の、涙を止めることが出来るのは、オレだけなのだから。
:: ピアス:紫原敦
ピアスを開けた。
友達に内緒で、こっそりと。
痛いって言ってたから、どんなもんかと思ってやってみたら、やっぱり痛くて。
耳たぶから滲む血を、定期的にふき取って、先生にバレないように、今日は髪を耳にかけるのをやめた。
いつもと違う筈の朝は、特に変わりない。
色あせた現実にうんざりとしながら、単調な世界を歩いていく。
今から約600年前の人物のお話しが、先生の口からまるで子守唄のように流れてくる。朦朧とする意識をしっかりと保ちながら、私はその人物の行く末を、教科書の中で知るのだ。
歴史というものは繰り返すが、着実に歩みを変え、進んでいる。
きっかけがなければ、今もこの場所は、刀を携え年貢を納め、なんてことになっていたのだろうか。
「あれぇ?」
授業と授業の合間にある、5分休みに、声がかかる。席についている私と視線が合うように、彼は屈んだ。
「なんかいつもと違うし」
「……え?」
紫色が視界を奪う。少しむっとした表情の彼は、そっと私へと手を伸ばす。
その手の先には、私の、秘密。
「っ!」
思わず彼の手をひっぱたいた。
彼はキョトンとした表情を浮かべていた。
ああ、私だけの秘密が、暴かれた。