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飢えた子ども
もっとほしい、と熱をもち艶のある声で訴えてきた彼は瞳から今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
寝台に沈む彼は、顔を赤く上気させ、苦し気に息を吐く。
それでも透き通る純粋な青の瞳はどこか挑む様な視線をこちらに向けていた。
彼とこうして体を合わせる行為は珍しい事ではなく、むしろ日常的に体を合わせている。
いつの頃なのか定かではないが、熱を持て余した彼が助けを求めたのがはじまりだったと記憶している。
はじめこそは処理を手伝ってやっただけであったが、彼は抱かれる事を望んでいた。
今宵の行為も彼が望んだことだ。
「カイ、アス…」
動かないカイアスに焦れたのか、ノエルは自分の上にいる相手の肩口に軽く噛み付いた。
歯を立ててはその痕を舐め、時には強く吸う。
まるで獣がじゃれているようだ、とカイアスは小さく笑った。
「っ…」
そのカイアスの笑みを不服としたのか、ノエルは噛み千切る強さで肩口に歯を立てる。
血こそ出ていないが、そこにはしっかりと痕が残り、その痕を満足げノエルはまたちろちろと赤い舌で舐めた。
その子供染みた行為に苦笑すると、カイアスは彼の中に収まったままの自身を深く突き入れる。
突然の衝撃にノエルはぎゅっと目を瞑り、くぐもった声を漏らした。
「反、則…急に動くな、んて…ずるい…っぅ」
瞳に涙を留め抗議するノエルの言葉を無視するようにカイアスはゆっくりと緩慢な動作で調律を開始する。
少し動いただけでもノエルは敏感に感じるらしく、熱い息を吐いた。
「は…ぁ」
行為を長引かせる事は体の負担を大きくする事と動議だ。持て余した熱を処理するだけならもっと早くに済ませる事ができる。
だがノエルはただ抱かれるのではなく、出来るだけ長い間抱かれていたいと考えているらしく、すぐに達する事を嫌がっている仕草を見てとれた。
理由は察しがついている。
ノエルは寂しさを埋めるために抱かれている。繋がることで寂しさを紛らわせているのだ。勿論そこには自分では処理できない熱の存在もあるが、それは建前であって本音は前述の通りだ。
カイアスはノエルの肩口に顔を近付け、彼と同じように唇を寄せた。軽く肩口を食み、一舐めする。
それだけでノエルは体を震わせ、小さく喘いだ。
「…ぁ、…ふ」
暫くそうして小さな刺激を甘受していたが、苦しくなってきたのか辛い面持ちでノエルはカイアスの腰に絡ませた足を誘うように強く引いた。
無意識の内に彼の腰も僅かに揺れ、更なる快楽を求めているようだった。
それを察したカイアスは肩口から顔を離すと彼の腰をつかみ激しく突き入れた。
激しい動きに寝台がギシギシと悲鳴をあげる。
「、っ、あ…はっ…っう」
先 程までとはちがう、爪先から頭の先まで突き抜けるような鮮烈な快楽に、顎を突き上げ喘ぐノエルは、声を聞かれまいとしてもう一度カイアスの肩口に噛み付いた。
両の腕はすがる様に背中にまわされ、爪を立てている。爪が皮膚に食い込み血が滲みでる。
それでもカイアスは何事も無いように涼しい顔をしてノエルの中を蹂躙した。
「ふっ…んん…」
肩口に噛み付いたまま、ノエルはぎこちない呼吸を繰り返していた。
声を出してしまった方が楽になるのは本人も自覚しているだろうが、あえて彼は声を出そうとしないようだ。声を出そうとしない、と言うよりは噛み付く事で自分の意識を保っていると言った感じだ。
まるで快楽に流されまいとするように。
「…ノエル」
「っ…」
噛み付いたまま苦し気に息を吐くノエルの耳許で、囁くようにカイアスが彼の名前を呼んだ。それだけで彼はびくりと体を震わせ、胎内にを掻き乱すカイアスをきゅっと締め付ける。
「ノエル。声をだせ」
「んん…っ」
ノエルは喉から唸り声をあげるだけでカイアスの言葉を頑なに聞こうとせず、更に強く噛み付いた。
そんな彼の様子に苦笑を漏らすと、カイアスは無遠慮にノエルの腰を引き深く抉るように穿つ。
「つぅ…ぐ、ん」
しかしそれでも喉の奥から絞り出すような呻きを発するが、彼は噛み付いたままだ。
「…意地を張る必要は無いだろう」
呆れたように吐き捨てると、カイアスは徐にノエルの先走りで濡れそぼった芯を扱いた。
直接的な刺激にノエルは快楽にぶるりと震え、咄嗟にカイアスの肩口から唇を離した。
「、ぃ、やだ…っ!まだっ…い、きたく、な…ぁっ」
「これ以上は君が辛い」
ノエルは駄々をこねる子供のように頭を左右に振り、喘ぎ喘ぎ訴える。
目に溜まっていた涙は彼が瞬きをする度にこぼれ落ち、薄汚れたシーツに吸い込まれる。
「ふ…っぁ、あ…カ、イアス…!カイアス」
顔を真っ赤に上気させノエルは涙を流しながら懇願するようにカイアスを見る。
カイアスは変わらず涼しい顔をしていたが、ノエルが限界に近い事を感じ、追いたてるように動きをいっそう激しくした。
「ひっ…ぅ…ぃぁ…あ、ぁあっー…っ」
激しい責めに一際大きくぶるりと震えるとノエルは芯からカイアスの掌に白濁を吐き出し、達した。
ひゅう、ひゅうと浅く短く呼吸を繰り返し、焦点の合わない瞳でのろのろカイアスを見る。
カイアスは未だ達していないらしく固く芯をもったままノエルの中にいた。そのカイアスの芯をきゅっと締め付けノエルは言葉なく誘う。
ノエルは体力の限界を感じていたが、もっとほしいとばかりにカイアスの唇に自分の唇を重ねた。
それを合図とばかりに再び調律が開始される。
「は、ぁ…ーっぅん」
唇の合間から息が漏れ、どちらのものか分からない唾液がノエルの顎を伝う。達したばかりの体でカイアスを受け止めるのは辛いらしくノエルはまた瞳から涙を溢れさせる。
「ぃ…つ、んぅ…カイア、ス…っ」
「っ」
暫時唇を重ねていたが、ほんの一瞬眉根を寄せたかと思うと、カイアスはノエルの中を蹂躙していた自身を抜き、外に出した。
ノエルはその様子を少し寂しそうに、みつめていた。
「……べ、つに…中、出しても、いいのに…」
「君の負担になることはしない。後処理が大変だろう」
「…そうだけど」
どこか拗ねたように唇を尖らせてノエルは言った。そんな彼の頭をあやすようにカイアスは撫でる。すると目をとろんとさせ、瞼を開いたり閉じたりを繰り返し、小さくノエルは欠伸を漏らした。
「…あんたのもっと色んな顔が見たい。」
「…」
「俺だけ…その、…気持ちいいみたいで、不公平だ」
「…そんなことはない」
「…本当?」
上目使いで訊ねてくる彼に頷くと、まるで幼い子供が親に褒められた時のような笑顔を見せた。
それからノエルは少し恥ずかしげに身動ぎすると、カイアスの唇に自分のそれを重ねた。拙い動きで求めてくる彼にカイアスが応えると、ノエルは体を震わせまた息を乱す。
唇が離れる頃にはノエルの目尻に涙が浮かんでいた。
「…君は感じやすいな」
「……否定…」
再び拗ねたように言うと、ノエルはくったりと寝台に埋まった。
それを見計らったようにカイアスは用意していたタオルでノエルの体を丁寧に拭い始める。カイアスが体を拭っている間、ノエルは心地よさげに瞼を閉じ、されるがままになっていた。
「…噛み付いたとこ、痕、ついてるな」
「…君に思いきり噛みつかれたからな」
「痛いか…?」
「私にも痛覚はある」
そっか、と呟くように言ったノエルはどこか嬉しそうだったそんなノエルの頭を撫でながらカイアスは、もう眠れと囁いた。彼は小さく頷いたかと思うと、小さな寝息を立てて眠りはじめた。
暫く眠っているノエルの頭を撫でていたカイアスだが、ふと自分に付けられた肩口の痕に触れ、考えに耽るようにゆっくりと目を閉じる。
そして誰にも聞こえぬような小さな声で何かを呟いた。
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2012/10/22 執筆