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 盗賊討伐依頼/先代        ユウサイド



「ギルドなんかに入るためだけに..こんな討伐依頼なんてのをやらなきゃいけないんだね」

わざわざ、世界の救世主である僕が。
アホらしい。というように、ユウは気だるそうに遺跡の中を見回した。
「なんか嫌な臭いする」「早く帰りたい」なんてこんなことをぼやいている存在でも一応ユウはこの世界、テレジアのディセンダーである。

「そう面倒くさそうに言わないでよ…これも世界を救う一歩なんだからさ」

眉をひそめながら言っている、そんなユウの態度の悪さに呆れながらも、モルモはユウの後をついて行く。若干、口が悪いなあ、なんて思いながら。

「世界、ね....ま、いいけれど。で、依頼は盗人退治だっけ?」
「うん、そう。盗賊に迷惑してるっていう、街の人からの依頼みたいだよ!」
「ふーん、盗賊...にしては、なんか人どころか魔物一匹居ないみたいだけれど」

ユウたちは、クラトスからの入団試験を兼ねた依頼ということで、とある遺跡を訪れていた。
あたりを見まわしながら再度ユウは気だるげな声を出す。
依頼内容は、盗賊退治。入団試験ではあるので認められる範囲のということだったが、極端に難易度が高いわけではないクエストだという話だった。
顔をしかめながら、少しずつ道を進んでいったところで、先ほどから遺跡の中に歩みを進めているが人の存在どころか魔物を見かけていないことにユウは苦言を漏らす。
流石におかしいと感じたのか、ユウの発言に対して、モルモは確かにと不安を口にした。

「そういえば、さっきから魔物の姿すら見えないかも..何かあったのかな?」
「さあね。とりあえず、今は奥まで進んでみよう」
「あ、うん、そうだね..って、あれ?」

モルモの疑問の声を、軽く突き放すように返し、ユウはサッサと奥に進んでいく。
そんなユウにさらに不安を抱くモルモだったが、視線の先に何かを見つけた途端、ユウが進んで行った方向とは逆の方を示しながらモルモが声をあげた。

「ねえ..ユウ、あそこ!誰か居るよ!!」
「..うん。居るね、なんか」
「みたことない人だけど、せっかく人に会えたんだし話しを聞いてみようよ、ユウ!」

人を見つけたことが嬉しかったのか、モルモはその人物を指差しながら声をかけてみようとはしゃぎ出す。よほど二人きりで不安だったのだろう。安心を求めるようにモルモはぱたぱたと羽をバタつかせた。
ユウはモルモの発言には返事もせずだまりこみ、その人物を見て目を細める。
ユウの態度に早く、と急かしたてはじめたモルモを遮ったのは、そんな黙り込んていたユウの制止の一声だった。

「モルモ、待って」
「え?」
「アレには近づかない方がいい」

少し低めの声が、モルモを制止する。
やめたほうがいい、という珍しく真面目な顔つきで発された言葉に、モルモは唖然とした表情で後ろにいるユウの方へと振り向いた。
ユウは依然と人物を見つめたまま、口を開く。近づいてはいけない、と。
ユウの真剣な顔つきにモルモは疑問符を浮かべながらも一旦ユウの元へと引き返した。どうしたの?と聞いてもユウは見える人物に細めた目を向けたまま、やめたほうがいいと頑なに口にする。

自分にも、それがなぜかは分からなかった。胸の奥にざわざわとしたよくは思えない感じが…ピリピリとした空気を感じて、肌にぞわぞわと気持ち悪い感覚を覚えてだとでもいえばいいのか。
立っていた人物が僕には''人間''だとおもえなかった。
まるで、形は人と変わらないが、何か黒い影のようなものが覆っているというか、姿がぼやけて見えるというか。とても人間だと思えなくて、魔物とかそっちの類に感じて気持ちが悪かった。
凶悪な魔物..いや、その程度の魔物とは比べ物にならないくらい、もっと、もっとひどい何か。ただただ、目に映ったその存在が、酷く、異端に見えた。
白の中に一つ、黒い点があるみたいな、そのくらいに違和感があって、ひどく異様に。
自分でも良く分からないが、でもこれだけは分かった。
鋭く突き刺さる殺気..アレは、ヤバいって。

「悪いことは言わないよ。モルモ、早くここから離れた方がいい」
「え?な、なんでそんなに焦ってるの?依頼はどうするのさ!」
「焦ってない。ただ面倒ごとはごめんなだけ。多分、もうここには僕たち以外にはアレしか居ないと思う。僕はあんなの相手にするなんてごめんだよ、依頼はなしでいいでしょ」
「ちょ、ちょっと待ってよ、ユウ!あの人しかいないってことは、 じゃあ、あの人が依頼されてた盗賊ってことだよね!?なのにあんな、ってどういう…」
「さあね、わかる事実は、アレしかこの場に居ないってことだけ。まあ、君がそう思うんならそうなんじゃない?」
「そうなんじゃないって、そんな投げやりな...って、違うよ!そうじゃなくて、あの人が依頼の人ならなんとかしなくちゃ!そもそもギルドに入るための試験なんだから、そんなに簡単にやめられるわけないでしょ!?使命はどうするのさ!君はディ―..!!」

救世主なんだから!と言おうとしてモルモはユウにまるでハエを叩くかのようにしてはたき落とされた。
むぎゃ、と間抜けな声を出して床に叩きつけられたモルモは、何すんのさ!とユウに怒ろうとしたが、顔をあげて目の前にあったユウの顔を見て、言葉を失う。
ユウの顔は無言で黙れと威圧していた。
怖い、とかそういうわけではない。ただ、そのユウの表情から異様なまでの危機感を感じ取る。
出会ってから、そんなに時間は経っていないけど、こんなユウの顔を見るのは初めてだった。

「入った時から異様な匂いを感じていたけど……」

これは、
多分、

血の匂いだ。

悪臭とまではいかない。ただ、なにか硬く鈍い……鼻に残るそんな嫌な臭いを、ユウは遺跡の中でずっと感じていた。
ユウは確かに、最初に嫌な臭いがするといっていたことをモルモは思い出す。そして入った瞬間から、ずっと顔をしかめながら、周りを見回していたことも。それが血生臭さであることを知らないユウにとっては、その時はただの異臭だったが…
血の匂いだ、と言うユウの発言にモルモは叩きつけられた痛みも忘れ「え?」と唖然の声を漏らした。

そしてユウの発言に、モルモが驚きを顔に出しながら、静かに…いや、静かになったというよりは驚きのあまり固まったといったほうがいいだろうか。
はたき落とされた場所でそのまま固まったのモルモから視線を逸らし、ユウはその異様な存在に目を向ける。

「あァ……やっぱり人間はいいなァ…魔物と違って、良い色してる..もっと、もっとその血を見せてくれよ、まだ終わりじゃねェだろ?なァ..?.........チッ、もう壊れてやがる、人間はこれだから...」

そんな、静寂をやぶり、口を開いたのは、先ほど見つけた一人の人物であった。
口にした言葉はあまりにも耳を疑いたくなるような恐ろしい発言で、固まっていたモルモもびっくりした様子で声のした方へと目を向ける。
先ほどは遠くて見えなかった、というか気づかなかった倒れているもう一人の人間の力ない身体がその人物により蹴られてごろんと転がった。

「ね、ねえ、待ってユウ…血の匂いってなんで今更そんなこと言うの...っていうかあの人、なんか恐ろしいコト言ったような気がしたんだけど...というか、ひ、人が...!!」
「.........そうだね、言っておくけど、君の気のせいではないよ」
「やっぱり聞こえたよね!?ユウ!絶対ヤバい、絶対あれヤバいよね!?もう帰ってからのコトは後で考えるから!ユウ、とりあえず今はここを離れな―..!」

恐怖、というよりは経験からの発言だろう。やばい、と焦るモルモに、さっきから僕はそういってるだろう、と言わんばかりの目を向けるユウ。

「つまんねェ。あー、興醒めだ。萎えた。他にもっといいモンいねェのかよ、あァー......あ?」

焦って声を荒げたモルモに呆れた視線を向けるユウ、そんなユウたちに、殺意のこもった嫌な視線が向いた。
「あ」と漏れる誰ともとれる声。
その視線に気づき、モルモがその気配に目を向けるとバッチリとその人物と視線があい、モルモは悲鳴をあげた。
真っ赤な服を着た、金髪の、男……にしては長い髪を揺らしている人物。あたりは真っ赤な服と同じ色で染まっていた。

「ああああ!!や..やばい、目が合っちゃったー!!めっちゃこっち見てる!うわああ!!めっちゃこっち来てるうう!!!」
「だから言ったんだよ。君が騒ぐから見つかったんじゃないか。僕の言う通りにしてれば...もう帰る、って選択は選べなくなったわけだけど、どう責任とってくれるのかな?」
「うっ..そ、それは悪かったけど…で、でも!!今はそれどころじゃないでしょ!!?ど、どうしようユウ!あいつやばい!!目がやばい!!!」
「どうするも何も、もう依頼を終わらせるしかないんじゃないかな。まずはちょっと落ち着きなよ。じゃなきゃ、まず君を手にかけてしまいそうだから」
「落ち着く!?依頼!?無理だって!絶対無理!!って、手にかけるってなに!?変なこと言わないでよ!!?あああ!というかやっぱり誰か連れて来た方が良かったんじゃ..!」
「連れて来るもなにも、試練だとか言って、あのリーダーが僕たちだけで行かせたんじゃないか」
「うう..で、でも、こんな奴オイラたちだけじゃ、どうやったって無理だよ!どうするのさ!?」
「無理.....ね」

向かってくる狂気に声を荒げるモルモと、えらく冷静なまま呆れた声を漏らすユウ。
なんでそんな落ち着いていられるの!?とモルモは叫ぶがそれはユウの、ディセンダーの本質的な問題であって。

「ディセンダーは、恐れも、なにも知らないんだよね」
「えっ?そ、そうだけどいま、なんでそんなこと…!?」
「なら…無理ってこともない、かなって」

そんな焦るモルモをよそに、近づいてくる足音は音を大きくしていく。
でも、ユウは焦るどころか相手を見据えたままいつもと変わらない様子で、小さく一言つぶやいた。
だって、僕はディセンダー―恐れも不可能も知らない救世主―なんでしょ。
そんな呟きは、誰の耳に入ることもなかったが。落ち着いている理由は、その本質以外の何ものでもない。
ユウが呟いた直後、足音がとまり、今度は楽しげに笑う声が辺りに反響しこだまする。

「まだ人がいたのか…ハハッ、アハハッ!どうやらオレは相当に運がいいらしい…ッ!!良い血の出そうな人間か一人と、見たこともないやりがいのありそうなアホ生物が一匹……まだまだ楽しめそうだァ!!」
「あー、うん。逆に、僕達は相当に運がよくないらしいね。君みたいな変人に出会ってしまって」
「不運?ハッ、そうでもねェぜ?アンタらは確率的にオレに出会い、なおかつオレは今最高に昂ぶっている……オレに乗り気で遊んで貰えんなんて、そうそうないコトだ。そんなオレに血を捧げられるってんだから………アンタらは、相当ラッキーだぜ!」
「どっからどう聞いても最悪じゃないか..!!」

近づいてきた狂気、金色の長い髪を揺らす人物にユウは向けていた目をほんの少しだけ細めた。
表情は大して変わらないが、若干冷たさを帯びたそんな視線を浴びた当人は、ユウたちに嬉々とした顔と血まみれの短剣を向ける。呆れるほどに気色の悪い笑い声をあげる狂気にモルモは気絶しそうな勢いのままついつい入れざるを得ないツッコミを入れていた。

「ほう..言ってくれんじゃねェか。てめェみたいなちっぽけな存在が、この俺の血肉になれるんだぜ?愉悦として..最高じゃねェか....!なァ..オマエらの血は何色なんだろうな..?人間みたいに赤いのか、はたまた魔物のように奇抜なのか..それとも真っ黒くどす黒かったりしてなァ..?ハ、ハハ..ッ」

震えながら、モルモは呟く。
「狂ってる..」
その狂人の思考には、ついていけないと。

「狂ってる?あァ、本当に、面白いくらいになァ……あー、やっぱり思った通りだ…いいぜ、最高だ……なァ、知ってるか?血は赤いから綺麗なんだ。生きてる、流れてる血が飛び散る様は格別なんだ、そして人間の血はすげェ綺麗なんだよ…真っ赤で、輝いててさァ……フッ…アーッハッハッハァッ…あァァ、早くみたい..血が見たい......早くオレにアンタの色を見せてくれよォ..なあァ!」

悦びを体で表しながら、ユウたちに向けていた刃物を目の前の狂人は振りかざす。

気持ちが悪い、とはこの感覚なのか、とユウは冷めた視線を送ったまま、ふとそう思った。
だけど、思ったあとに疑問がわく。
知らないのに、なんでそう思ったんだろう、と。

僕は知らない。
だから、この感覚が何かもわからないはずだ。

疑問が、今度はだんだんとモヤモヤへと変わっていく。

気持ち悪い……?
なんで、そう思ったんだろう。
ああ、そうだ、胸がもやもやとして、感情じゃなく、感覚としてキモチワルイって、思ったんじゃなく、感じたからだ。
だから、多分これはそういう意味のキモチワルイって感情じゃない。
ただ、気分的な意味でもないのは分かる。
ただ、なんていうか、すごく、なんだろう。
胸の奥に固まりがつっかえてるような、何か、もどかしい感じ。
そう、すごく、もやもやとした、そんな。

笑っている、その姿を見て、
すごく、すごく、なんだか、すごく。
楽しそう、笑っている。
その姿に、僕は、

楽しいって、それはどんな気持ちなんだろう。

なぜ、君は笑っているの?

今、僕が感じているこの気持ちは?

たくさんの疑問が浮かんだ。
たくさんの感覚が頭の中に浮かび上がった。
何も分からないのに、感覚だけが頭の中を駆け回って、
もやもや、むずむずって、
分からないことがもどかしくて、
もどかしくて分からなくて、

頭の中が分からないでいっぱいになって、気持ちが悪くなった。

楽しげな顔。笑う声。
僕は、分からないことだらけだ。
グッ、と、杖を握っていた手に、自然と力が入る。

「さあ、見せてくれよ!アンタの血は何色なんだァ?!!」
「っ!?う、うわあああ!」

聞こえてきたモルモの悲鳴。
気づけば楽しそうに笑う、そいつが、赤が、目の前に迫っていた。そこで、ユウはハッとする。
これは近くまでいた人物の姿を、状況を見て、というのもあるが、先ほどまで考えていた内容についてのハッと、でもあった。

その楽しい、という感覚が僕は、分からない。だから、目の前で笑っている人物にほんの少しだけ興味が湧いた。
もやもや、むずむずってした気持ち悪い感覚は…ああ、そうか、これは好奇心。気になるって、感覚なんだ。
気づいたことにより、手に込めていた力が抜けていく。
好奇心。知らないことを知ろうとする感覚だ。
知らないから、もやもやとしたんだ。そうか、なら、知りたいことがあるなら調べればいい、聞けばいい。何も迷う必要はない、単純なことだった。

『ねぇ、なんで''キミ''はそんなに笑っているの』

知らないんだから、何か、考えるだけ、時間の無駄だ。
分からないのは当たり前だ。
だって、僕は何も知らないんだから。

簡単なことだった。
ただ、一歩踏み出して、口を開くだけ。
考える必要なんて、なにもない。

「......え?」
「……なにっ!?」

一歩踏み出し、モルモの前に立ち杖を構える。
そして迫ってくる刃を、ユウはその杖で受け止めた。
受け止めた瞬間、刃を振るってきた相手は驚きを口にする。
それは、魔術師に容易く防がれたことによる驚きか、はたまた疑問を投げかけられたことにか。
ただ、受け止めたその力はそんな強い衝撃のあるものではなかった。

「なにが楽しいのか、僕には分からない。僕にはいたぶられて悦ぶ趣味はないよ」

戦うのは面倒だけど、興味が湧いた。
そうやって笑える理由が、意味が知りたい。この人なら、何かを僕に教えてくれる。だから、身を守る意味はもちろんだが、答えを得るためにも、相手をしてあげるのも悪くないだろう。ただ、そう思った。だから、

「僕には、ね」
「なんで僕にはって強調したの!?オイラにもないよ!!?」

力が大したこともなかったのもあるが、驚きで動きが止まっていた相手を押し返し、杖で受け止めたことに驚いていたモルモの方へと目を向け、ユウは呟く。
ユウの発言に、モルモがツッコミを入れたがユウは特に構うこともせず弾き飛ばした相手の方へともう一度目を向けていた。

「魔術師だったら受け止められないとでも思った?悪いけれど、僕はそこまで..弱くないんだ。君の貧弱な攻撃くらいなら簡単にかき消せる程の力はあるよ」

むしろ弱すぎて、拍子抜けだったというか。
ユウが放った言葉に、金髪の人物は驚いた顔を手のひらで覆うようにすると、身体を震わせ「…フ、」小さく息を吐く。
それに、ユウたちが首をかしげたところで、出した息を吸い込んだかとおもえば、そのまま今度は吐き出す息とともに身体を仰け反らしながら、大きな声で笑い出した。

「......フフッ、アハッハッハッ!!手加減していたとはいえ、まさか..術師、なんかに受け止められるとは思わなかったぜェ!!!それに、アンタ…そんな顔もできたんだなァ…なにも持ってないって感じの冷たい目をしていたのに…」

金髪の人物の言葉に、ユウはさらに疑問符を頭に浮かべる。そんな顔とはどんな顔なのか。
そんなわけがわからないという顔をしているユウをよそに、ユウを置いて、当人はさらに言葉を続け、喜びを体現していた。

「イイねェ、イイじゃねェか!!!オレの攻撃をかき消しただけじゃなく、その目…気に入ったよ…..アンタなら、オレを楽しませてくれそうだァ!!」
「それは……どうも。過大評価してくれるのは良いことだと思うけど、ちょっとキミの思考にはついていけないかな。でも、まあ、油断してると…キミ自身が、自分の血を見る羽目になるかもしれないよ」
「言ってくれるじゃねェか..良いぜ、そこまで言われたからには手ェ抜かずに戦ってやるよ。いつもはじっっくり血を見てェから、本気は出さねえんだがな..アンタは特別だ」
「そうだね、僕もいつもは面倒だからそうしているんだけれど..キミがのってくれるのなら、僕も全力で相手をしてあげるよ。キミが、考えを改めて不運だったと知るコトになるだろうけれどね」

なんか話が変な方向に進んでいると感じたモルモが、途中見かねて「ユウ?な、なに挑発しあって―」と口を挟んだが、「モルモ、邪魔しない方がいいよ。もしかしたら誤って殺しちゃうかもしれないから」という二つの意味で冗談ではない発言にキュッと口をつぐむこととなった。

「いいねェ!きっとアンタならさぞや綺麗な血を見せてくれるに違いねェ..こいよ!!!オマエの本気とやら、見せてみろ!!!」
「そう、それはわからないけれど、本気でと言ったからにはそうさせてもらうよ。でも、僕は加減を知らないから」

―もし死んじゃったら謝れないから、ごめんって、先に謝っておくね。
相手が、え?と声を出すより先に、ユウはそう発してすぐに両手で持っていた杖を右手に移すと、目の前で笑っていた金髪の人物めがけそれを振り下ろした。
直後、ものすごい風圧とともにドゴッ!というありえない音が目の前の人物の横で鳴り響く。
その音の正体が杖が床にめり込んだ音であることは咄嗟に避けた本人ですら気づくのに時間がかかるほどに異様な光景だった。
ビックリマークとハテナマークが飛び交う中、相変わらず表情筋の動いていない爽やかな顔をしていたユウが床から杖を引き抜くゴリっというこれまたありえない音が驚いていて固まっていた人物とモルモを現実世界へと引き戻す。

「「!!!!???」」
「つ、杖の当たった場所が陥没して..!! ?」
「ア、アンタ…本当に魔術師か!!!?」
「うん、術も放てる術師さ」
「いや術がメインじゃねェの!!?術師ってなんだっけ!!?」

先ほどまでの張り詰めた空気は何処へやら。狂気を含めていた人物ですらツッコミ役に回るほどにユウの攻撃は想像をはるかに超えた破壊力を持っている、かなり困惑する現状のものだった。

「は、はは……ちっとびびったが、そうか……でも、悪かったな。パワータイプだってんなら俺の得意分野だぜ……今度こそアンタの血ィ見せてもらうぜェ!!」

アンタがパワーならオレはスピードだ!と言わんばかりの素早さでとった行動で距離を縮めユウに近づく。
早い!とそれを見ていたモルモが声をあげた時にはすでにその人物はユウのすぐ側にまで到達しており、モルモは驚愕を顔にする。
まるで動きが見えない、瞬間移動でもしたのかという動き。モルモも、流石のユウでもこんな素早い動きにはついていけないんじゃと焦り「ユウ!!!」とモルモはユウの名を叫んだ。
短剣の刃が、ユウに近づく。それは一瞬の動きだったが、ユウは近づいてきたそいつの攻撃をさらりと受け流す動作に入る。
同じ、いや、ほんの少しユウの方が遅いが、それは気にならないほどだった。早くとも、攻撃が当たらなければどうということはない。
交わす動作に入った刹那、ユウへと突きつけられたその刃の軌道が不意にぐにゃりと曲がる。

「いや。残念、外れだよ。僕はパワータイプじゃなく」
「.................な、ん…っ!?」
「万能型さ」

刃がユウに触れるか触れないか、その距離まで近づいた時、刃だけではなく時空が歪むように目の前の人物とユウを除いた辺り一帯の景色にもやがかかった。
歪んだ一帯の中にいたモルモの動作がスローモーションに、ゆっくりと動いて見えるが、それは見間違いでもなく、事実そうなっているからであり、その中でユウたちが動けているのは同じ時間の中に二人がいる、ただそれだけの話だ。
相手が驚きを顔に出すよりも早く、ユウは歪む背景を背に目の前の人物の懐に入り込む。

「その程度の''術''を真似るのもかき消すのも造作じゃないよ。確かにキミは速い…さすがの僕でも追いつけはしないだろうね。でも、ただそれだけだ」

タイムストップ…とは少し違う気もするけど、まあいわゆる、時間の流れを操る術。相手が気づいたらすぐ側にいたのはそれを使用していたからだ。
始めにぶん殴った時、僕は当てるつもりで行ったが、当たるどころかその時僕には避ける動作が見えなかった。その瞬間に、戦い方に気づいたとでも言っておこうか。
だから、対策がとれた。同じ術を使用すれば、時間の流れを合わせれば、その''速さ''についていけないことはない。確証はなかったし、やったことのない術だったから、ちょっと、いやかなりの挑戦的な行為だったけど……ギリギリついていけたようでよかった。懐に入り込み、相手の持っていた短剣めがけて杖を振りおろせば、避ける動作で術が解けたのか歪んでいた景色が、スローモーションになっていたモルモも含め、元に戻る。
ギリギリ、というのは、造作もなんて言ったが僕の術は見よう見まね、長く持つ見込みはなかったためこの一撃で術をかき消すか相手を消し去れなければ少し危なかったかもしれない。
それでも、速さは確かに僕の方が下だったけど、まあ、でも、
結局はどうにかできた。
速いだけ。
ただ、それだけ。
それだけじゃ、僕には勝てない。

「さて、僕は一応魔術師だからね。魔術師らしく、これでお終いにしようか」
「.....え、あ?なん.....っ!」
「それなりにいい戦いだったよ。これだけ全力で戦えたのはキミが初めてだ。だから、敬意をはらって、とっておきをぶつけてあげよう。キミ、寒いのは好きかい?」
「え……いや、って!そんなやすやすと詠唱なんてさせ……!」

ねェよ、と言葉が続く前に、
相手の動きよりもはやく、

インブレスエンド!!

ユウのその呪文とともに、氷の固まりが頭上に現れ、気付いた時にはすでに避けきれない位置にそれがあった。


「はああ!!!?ちょ、詠唱なし..だと!!?まっ..そんなの無理だろォ!!?お前…一体何も─っ!」
「別に、何ってことはない。僕はただのしがない救世主だよ」

悲鳴のようなさけび声とともに氷の落ちる轟音が鳴り響く。
世界の自由を願う、世界の意志から生まれた、救世主─ディセンダー。
堂々と放たれたその言葉に嘘はない。が、真顔で言えるその精神がなんかすごいなと、モルモはユウ!と名前を叫んだ際に伸ばしていた腕を彷徨わせながらそんなことを考えていた。






続きます。
リルトとの出会いを先に書きたくなって書いたもの、の修正版。
あとがきというほどじゃないけどあえて性別を書きたくないがゆえに彼や男と書けず書き方を模索した結果、金髪の人物になった…
これはユウ視点、後編はリルト視点で書く予定です。





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